結婚への不安を植えつけた両親を描き、実父を本人役に起用する演劇『姿』(ゆうめい・池田亮)

2021.5.14

文=池田 亮 編集=碇 雪恵


親への葛藤を題材とした作品は数多いが、実の両親を自分の創作物に参加させるケースはあまり多くはないはだろう。5月18日より、東京芸術劇場シアターイーストで開幕する劇団ゆうめいの『姿』は、作・演出の池田亮が、実の両親の離婚をモチーフとした作品で、実父が俳優として出演、実母もナレーターとして参加している。アニメやテレビ番組、VTuberの作家として活躍する池田が、なぜわざわざ「儲からない」と言われる演劇を作り、わざわざ自分の肉親を題材とするのか、その理由を記した。

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マイナス10割でも演劇を作りたい

初めまして、池田亮と言います。普段はアニメ『ウマ娘』シリーズやNHK Eテレ『天才てれびくん』のドラマの脚本を書いたり、VTuberの作家をしたり、アプリゲームのライターをしたり、「ゆうめい」という団体で自分や他者の実体験をもとに演劇作品を作ったりしています。ちなみに主な収入源は9割が「ゆうめい」以外で、「ゆうめい」での演劇は1割かもしくは0割だったり、今のコロナ禍だとマイナス10割だったりします。

所属している作家事務所から届く給料明細書では、舞台の稽古期間から本番期間の月数がすっぽりと抜けて空欄になることがしばしば。そんな自分が今最も作りたくて作っているのが演劇でして、こちらの記事では「なんで演劇を作るの?」というのを池田的にお答えしたいと思います。

演劇にある「今でしか観せられないもの」という特別さ

演劇では、ほかの仕事の実体験や培ったものをゴリゴリに取り入れています。自分が脚本を担当した、競馬をモチーフとした親子の絆を描く明るい内容のアニメが初めて放送された日に、現実では競馬やギャンブルが嫌いな母から「何これ?」と嫌悪されたり、子供が生まれ父親になった知り合いから「この前ムカついて子供蹴っちゃったんだけどなんかスッキリしてさ、これどう思う?」みたいな相談のLINEが届いたりと、アニメとは真逆の出来事が放送中のリアルタイムで起こっていて「アニメの世界に逃げさせて!」みたいな裏側を演劇で描きました。また、VTuberの収録で使った「斉藤さん」(不特定多数の人と匿名で通話できるアプリ)を劇中に用いて、上演中に会場外の全然知らない人と通話することもありました。

ゆうめい『俺』

自分にとっての演劇は、日常や仕事で培ったり体験したりしたことで、あまり直接人に伝えられない言語化できていないものも、即座に取り入れられるスポンジのような表現手段で、「今でしか観せられないもの」みたいな特別さを感じています。

悲劇を悲劇以外として描く「演劇界のコミックエッセイ」

以前、ゆうめいを「演劇界のコミックエッセイ」とレビューしていただいた方がいて、もしかするとそうかもしれないと思いました。もとになる題材や体験は、現実ではひどく悩んだり答えがまったく見えなかったりするものです。しかし、演劇にすることによって時には笑えたり、つらいだけだと思っていた感情が変化することに気づけたり、「あれってそういう見方もあったかも」という発見があったり。ゆうめいではよく、悲劇を悲劇以外として描きます。環境が変わると生き方も変わっていくように、劇場という場から地つづきの現実を描くことによって、その場にいる方々とも新たな環境が生まれると考えています。

そのように、演劇以外での表現をさまざま取り入れながら、自分や他者の実体験をもとに作品を作ってきました。たとえば、『弟兄』という作品では、僕のいじめ体験を題材にしており、当時のいじめっ子に許可取りをして実名を使うかたちで演劇作品に登場させたりしております。

ゆうめい『弟兄』

両親の離婚を作品にしたきっかけは、自分の結婚


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