結婚への不安を植えつけた両親を描き、実父を本人役に起用する演劇『姿』(ゆうめい・池田亮)

2021.5.14

両親の離婚を作品にしたきっかけは、自分の結婚

そして、この5月18日より東京芸術劇場で開幕する『姿』再演は、国家公務員としてオリンピック関連の仕事にも携わる母と、定年を迎えた父が別れる話です(『姿』初演は2019年に三鷹市芸術文化センター星のホールにて上演)。

自分の現実をもとにしていて、定年を迎えた父役は僕の実父が演じます(実父の芸名は「五島ケンノ介」)。

左から父役の五島ケンノ介、池田亮役の中村亮太、母役の高野ゆらこ

母や父、自分たちを知っている人から聞いたことや取材したことをもとに脚本を書いて「どうしてこうなったんだろう」というのを発表する!みたいな内容となっております。

2019年に自分は結婚したのですが、そのときから以前にも増して「親」というものについて考えるようになりました。自分の親がたびたび「別れる、離婚するしかない」とケンカしていた記憶や、仕事でかなり遅くなっても帰ってこない母や父を見ていた幼いときの記憶をもとに、子供の自分が見えないところで何が起こっていたのだろうと気になり出したのが、『姿』を作ったきっかけかもしれません。

小学校のころの親のケンカは、猛烈に嫌だったにもかかわらず記憶に焼きついています。「ふたりのケンカは、自分がいるせいなんじゃないか」と勝手に思い込んでいた時期もありました。そういう記憶を引きずっているせいで、今の自分が結婚というものに少なからず不安を感じていたことに気づき、だったらもう、自分の先輩であり、身近で見てしまって大きな衝撃を残した根源である親から「どうしてこうなったか」を聞こうと思い立ちました。奇跡的に幸運だったのが、母も父も芸術や演劇や表現を行うことについての造詣が深かったことです。

池田家で最も強い、母という存在

母は池田家で最も強い人であり、逆らえない存在でした。逆らっても返り討ちに遭う。自分の兄はよく母に反発していたのですが、僕の目からは打ち勝った瞬間が一度もなく、そのせいで自分が反抗してもダメだという思い込みが高校ぐらいまでつづきました。中学のときは特に「親を尊敬しなければならない」と考え、別にそう教育されたわけでもないのに自分からわざわざ敬語を使っていました。

学校に行きたくなくても親に失礼だから行かなくちゃならないし、「行きたくない」なんて言ったら「なんのためにお前のために働いてると思ってる」みたく怒られそうだったし、実際にそう言われたこともあり、なおさら自分を責めるようになりました。日曜日には母が家にいるので、毎週リビングで過ごすときや食事のときに神経を使わなければみたいな感覚があり、緊張していました。

美術が好きだったので美大に行きたいと母に恐れながら言ったときは「実は私も絵を描いてさあ、学校も通ってたんだよね」と全然知らなかった過去話をたくさんされまして、てっきり反対されるものだと思っていたのでそれはとても意外でした。そのときに、母は芸術を機として自分のことを話せる、話したい人なんだなと知りました。

再演のために改めて母と話す機会があり、今はプレイベートだとだいぶ敬語は減った気がします。ただ、母が退職後に声優をしたいことや芸能関係が気になるといった話をするときはほとんど敬語になります。仕事というフィルターを通したときには、敬語でのやりとりがかなりしっくりきています。

母自身が観劇したあと、飲みながら5時間トーク。帰り道に前歯を折る

最初の脚本を読んでもらった反応は、母からは「都合のいいこと言っちゃって、わかってない」、父からは「わかってないよ、これ俺じゃないよ」というものでした。確かに僕だけの目線で描き過ぎていた面が多々あったので、よりいろいろ聞いて変えていった面もあります。「親として息子に対してこれは言えない」ということもあったかと思いますが、そこは作品作りのために、正直に伝えていただきたいとお願いしていました。

初演のとき、母が観客として観に来る回があり、前説も務める父はほかのキャストの方々から「お父さん、今日お母さんがいらっしゃるみたいですけど、大丈夫ですか?」と心配されていました。父は「何言ってんだよ、俺は俳優なんだからそんな影響なんて全然ないよ」と返事をしていたのですが、しょっぱなから前説のセリフを飛ばして無音の状態を生み出し、その後も何を言ってるかわからないほど緊張していました。あとから聞いたら「一番最初に客席をふっと見たら、(母と)真っ先に目が合って、頭が真っ白になった」そうです。

ゆうめい『姿』冒頭シーン

母の場合は、初演の『姿』を観て、忘れていた感情を呼び起こされたと言って、そのあと一対一で会い、お酒を飲みながら、母が生まれてから今までのことを事細かに5時間ぐらい話してくれました。自分が知らなかった「裏の歴史」を夢中で聞きました。母と別れたあとに緊張が解けたのか、帰りの電車で急に酔いが回ってしてしまい、駅のホームでめまいがして転び、前歯を折る事態になりました。でも、家で家族として食事をする雰囲気より、全然このときのほうが楽しかったし、母を母ではなく、人として見て話せた気がしました。

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