根本宗子×吉田豪 「異端児でいいから、新しい道を」“演劇の危うさ”を考える<岸田賞ノミネート記念対談>

2021.3.9

文=吉田 豪 写真=Masayo
編集=田島太陽


根本宗子(月刊「根本宗子」)の『もっとも大いなる愛へ』が、「第65回岸田國士戯曲賞」(白水社主催)最終候補作品に選出され、同作品のアーカイブ映像の再配信もスタートした。

それを記念し、QJWebでは根本が熱望した吉田豪との対談をセッティング。あらゆるエンタメに精通するプロインタビュアー・吉田豪に、根本がかねてより抱いていた不安と疑問をぶつける、特別対談の後編。

根本宗子
(ねもと・しゅうこ)1989年生まれ。東京都出身。19歳で劇団・月刊「根本宗子」を旗揚げ。以降、劇団公演すべての企画、作品の脚本演出を手がけ、近年では外部のプロデュース公演の脚本、演出も手がけている。2015年に初めて岸田國士戯曲賞最終候補作品に選出。


「動きながら考える」から「一回止まってベストを考える」へ

──今回、1年休む意図(※)はどれくらい伝わってるんですかね。

(※根本は『もっとも大いなる愛へ』終了後に劇団としての活動を1年間“お休み”すると発表していた)

ね、「コロナだからじゃん?」みたいな感じなんじゃないですか(笑)。意図はなかなか伝わってないだろうなとは思いますね。全部は言う必要がないって思ってるし、作家として考えることがいろいろあったってことですよね。そのタイミングがコロナとバッティングしたという。

──「リモートでもちゃんと舞台やれてるんだから」っていう。

「やればいいじゃん」ってね、なりますよね。私もけっして演劇がやりたくなくなったわけじゃないし、演劇が好き過ぎてのお休みですから。好き過ぎるから距離を置くって、恋愛だと一番意味わからんって私は思ってるんですけど、演劇に対してはそれをやりましたね(笑)。

──「やればいいじゃん」ってなりますよね。

ああいう感じのものを作りつづけることはたぶんできたんですけど、それは『もっとも大いなる愛へ』で一回完結しちゃったんで。それ以上のものをリモート配信でチャレンジしていこうっていう気持ちにはあまりならなくて。あとはやっぱり定期的にPCR検査を受けながら稽古するっていうのも全員のメンタルが、これ何回もやらせられないぞ、みたいな。自分も含めてですけど、誰か欠けたらどうするんだっていう気持ちがみんなにある中での稽古ですから……。

だって自分のせいで明日開かないかもしれないみたいな気持ちで生活するのはちょっと現実的じゃない感じがして。そこが一番かもしれないですね、全員のメンタルの治安を守りながら公演をちゃんとやるってなるとめちゃくちゃ難しい。インフルエンザだって大変だったのに。コロナがワクチンで大丈夫になればある程度は今までどおりできるのかもしれないですけど。今までは「動きながら考える」が当たり前だったけれど、「一回止まってベストを考える」をしようと。ちゃんと新しいことを考えなきゃなって。

こないだゆっきゅんと話してて、「じゃあ今までどおりに戻りましたって言われて満員のギュウギュウのライブハウスに行きたいと思う?」って話になって。

『もっとも大いなる愛へ』
岸田国士戯曲賞にノミネートされた、月刊「根本宗子」第18号 『もっとも大いなる愛へ』

──どこか躊躇するようになっちゃいますよね。

なっちゃいますよね。もちろん行きたい人もいるでしょうし。でも行きたい人と躊躇する人の感覚の差が生まれてしまったから……演劇なんて、もともとひとり1席でちゃんとゆったり観られるのがいいに決まってて。

スズナリみたいな劇場でギュウギュウに詰められて観ても……ギュウギュウでおもしろいって、相当おもしろいんですよ。それよりは確実にゆったり観られるほうがいいので、ライブよりは狭いなっていう感じは味わいづらいのかもしれないですけど。どう思います? 

──もともとボクはギュウギュウになって観るタイプではなくて会場のうしろで観てたから、配信が増えたのはいい流れではあって。

そうか、配信が増えたから豪さんはそれまで行く時間なかったぶん観られますよね。

──そうなんですよ。今まで以上にものすごい観てるし、便利になったとは言いづらい状況ですけど個人的にはそうなんです。

この職業の人にはめっちゃありがたいですよね。

──ただ、今までは「自分のイベントがあって観られないです」って言ってたのが、今はアーカイブで観られるようになったから。

ああ、全部観なきゃいけない(笑)。私も配信がキャスティングの参考にしやすくなったというか、そういう意味ではいいところもあるし。配信は残していい文化だって作り手は思ってると思うんですけど、演劇の配信の弱さもヤバいですよね。二宮ユーキさんみたいなことができるカメラマンがいな過ぎるというか、ビックリするスイッチングのセンスを発揮する人とかいるんで。「え、ここでこの人を映すの? 内容全然わかんなくなっちゃいますけど!」みたいな編集のされ方をして。

戯曲がちゃんと読めて何を見せなきゃいけないかがわかってる人が撮ることが、どれだけ大事かを二宮さんとやることで思いました。

「演劇ってまだそんなに男尊女卑だったのー!」

──二宮さんは大森(靖子)さんに鍛えられた人ですけど、どこでそんな対応力を身につけたんですかね?

大森さんに戯曲を読む力までは鍛えられないもんね(笑)。自分も監督をされるからだと思うんですよ、もともとストーリーを撮っていくことに興味があるから作業として嫌いじゃないっていうのが大きいのと、お芝居を何本か観てくださってるので雰囲気はわかってくれてるっていうのと、脚本を読んだあとに感想をくれるんですけど、誰よりも理解度が高い感想が届くので、単純に作風の趣味が合ってるっていうことなのかもしれないです。全演出家に二宮さんみたいな人がひとりずつついたら配信めちゃくちゃ強いと思いますけど。

あとキャストが若いっていうのがウチの強みだったところはあるかもしれないですね。目の前にカメラが来られたら気になって芝居できないっていう人もいそうですから。どの業界もそうなのかもしれないですけど、変わっていくことを楽しむ人が少ないというか。1回やって流行ったものをやりつづける安心感はそりゃあるんですけど、私は1回やったら飽きちゃうタイプなので新しいことをやっていたいなっていうのはずっとありますね。そういう人がいないから異端児みたいに扱われるんですかね?

──リモート演劇でそれなりにやり方がわかったはずなのに、っていう見られ方はしてると思います。

そうですね、同じことを2回やるのが嫌なんですよね。ぶっ飛んだ方向に行くか、進化するかのどちらかにしかずっと興味ない。

──説明するのは好きな人なのに、あまり説明しようとしなかっただけなんですかね?

「どうしてこの作品に今、行き着いたか」とかって、必要な場に行かないと説明しようとしないかもしれない。たとえばたくさん人がいるところで自分の話をするタイプではないので。だから、こないだ聞いてビックリしたんですけど、これを書くとまた敵を作る気がするな……(笑)。

──どうしたらいいんですか?

大人だから書いてもらえる話し方を(笑)。要は「女性演出家」の扱われ方についてなんですけど。「演劇ってまだそんなに男尊女卑だったのー!」って驚いたことがあったんですよ。今、ちゃんと女性であることを楽しみつつ、生活もしつつ、なおかつ演出家としてずっとやりつづけることってめちゃくちゃ難しいんだなって自分が30代に入って痛感してて。

ただの演劇少女だった時代は「え! なんでこんな勢いあるときに演劇やめちゃうの!?」とか女性演出家に思ってたんですよ、私。でもいざ自分がそこに立たされてみて、「やべー! 超大変! みんなの判断正しいかも!」って思ってて今(笑)。一回立ち止まらないと、40代50代まで楽しく演劇できないなって思って。やりつづけたいからゆえのことなんですけど。

なんかこれめちゃくちゃ説明が難しくて、変に伝わらないといいなって思うんですけど、前提として私は「女だから、男だから」ってそんな思わないタイプで。でも、やっぱり体力的なことで女性が不利なことってのはあって。だからこそ、女性だからやれることをしっかり道として作りたいって気持ちはあるんですよね。

「またキーキー言ってんな」ってされない賢さで立ち回りたいし、こうやって意見も残しておきたい。次の世代にいいバトンを渡したいだけなので、私自身は異端児扱いされてもいいので、新しい道を提示できるモデルケースにはなりたい。今、「なりかけ」みたいなめちゃくちゃ不安定なところにいる中途半端な状態だっていう自覚はあるので。

「次の世代」のために、「不要な壁」を取り除きたかった


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吉田 豪

(よしだ・ごう)1970年、東京都生まれ。プロインタビュアー/プロ書評家/コラムニスト。 編集プロダクションを経て『紙のプロレス』編集部に参加。そこでのインタビュー記事などが評判となり多方面で執筆を開始する。現在、雑誌・新聞に多数の連載を抱えるほかテレビ、ラジオ、ネットなどさまざまなメディアに活躍の..

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