根本宗子×吉田豪 「異端児でいいから、新しい道を」“演劇の危うさ”を考える<岸田賞ノミネート記念対談>

2021.3.9


「岸田賞が獲れれば見え方は全然変わるんでしょうけどね」

──休み期間が始まって心は安定してきてはいるんですか?

そうですね、安定し過ぎてもう演劇やりたいってなっちゃってる(笑)。大きいグランドミュージカル規模のミュージカルを作るって目標があったんですが、状況変わったから。3年間ぐらいの幅の広い期間で動きを決めちゃってたので、そこはいったん置いといてみたいな気持ちにしないと。

舞台で長編を書きたいみたいなことはまだないんですけど、短編でコメディで……2020年末にグループ魂が出したアルバム(『神々のアルバム』)を聴いたときに、とりあえず今、自分はくだらないもののほうが観たいなと思ったんですよ。

あのジャケット見たときに、この中でふたりコロナになったんだと思って。この天才オジサンの中にふたり危なかった人がいるんだもんなと思うと、しかも「死なない! 生きる!」みたいなこと歌ってて。そういうもののほうが自分の胸を打つところがあったので、年末のグループ魂のアルバムにすごい救われたんですよ。結局、大人計画に戻るんだなっていう自分がいて。

やっぱり松尾スズキさんと宮藤(官九郎)さんの何がすごいって、ストーリーもだけど笑いをちゃんとやりつづけて。そういう部分は自分の中にまだしっかりあるもので。いくらでもアカデミックな方向の芝居を作れるような体制は整ったのに、めちゃくちゃミニマムなところに戻るみたいな作業にいったんなるのかな。きっとくだらないものを書くと思います。

──全然関係ない話なんですけど、何年か前にグループ魂のアルバム(『ぱつんぱつん』/2008年)が発売延期になったことがあって。あれはボクの連絡がきっかけだったんですよ。

……え、そうなんですか?

──パンクをモチーフにした曲の中で実在のパンクバンドの名前が織り込まれてて、「これヤバいと思います」って宮崎吐夢さんに伝えたら、レコード会社が直接そのバンドの人と交渉をして、NGが出て歌詞を替えることになって発売が1カ月延びたんですよ。

すごい!! やっぱり、そういうときに助けてくれる人が必要ですよね。だってアイドルグループも豪さんがいなかったら大変なことになってるとこいっぱいあるじゃないですか。

大森靖子(左)と根本宗子(右)

──弁護士につないだだけでも何件もありますからね。

私はそこまで地下アイドルに詳しいわけではないですけど、ある程度のコミュニケーションを取る相手がいて、こんなことがあったとか事件は耳に入るじゃないですか。そういうのを聞き慣れちゃってるところもあって、アイドルモチーフで演劇を書いてる人もたくさんいるんですけど、「いや、実際のほうが全然大変だよ」みたいな。そんな架空の大変な話を見せられてもあんまりおもしろいと思えなくて。

ちゃんと世の中で起きてること、それはテレビのニュースや新聞で見られることだけじゃなくて、カルチャーに通ずる人たちの中で何が起きてるのか知っておきたいみたいな感覚は演劇の人の中では強い気がして、そこの人たちに響くものを作りたい。

演劇の人とは会話してても、けっこう住む世界が違うなって思っちゃうんですよね。そりゃ劇団にしても大学から同じメンバーってなると、そのメンツでばかり話してるからだとは思うんですけど。

自分の憧れが宮藤さん、松尾さんに強いので、外部の人といろんなことやってるじゃないですか。そういうことを新しい世代でやる人が今のところ自分ぐらいしかいないんじゃないかなって思うんですよ。アーティストと組んでる人はいるけど、ひとり組んだらずっとそことやるみたいな人が多いので。リスペクトし合える関係性を増やしてそういうのをちゃんとやっていきたいと思います。

──ホントに想像以上にちゃんと考えてる人ですよね。

どうしたら伝わりますかね? わかってほしいわけではないんですけど、もうそんなにお祭り女みたいなキャラはやらなくていいかなっていう。今ご時世でお祭り女発揮できないんですよ、お祭り演劇を作れないんで、地に足着いた感じのことを。岸田賞が獲れれば見え方は全然変わるんでしょうけどね。

「カルチャーの中に演劇が食い込んでない」という危うさ

QJWeb編集部 今日、豪さんに話を聞いてほしかったっていうのはどういうところに信頼があったんですか?

豪さんに演劇が届いてない。10年ぐらい新しい人が耳に入ってこないっていうのは相当だと思うんですよ。一般の人たちがいて、豪さんがいて、演劇があるわけじゃないですか。

──文化的には多少そのへんに近い世界にいるはずなのに。

そう、豪さんに届いてないっていうことは一般層になんて全然届いてないんですよ。

──まわりでもテレ東の佐久間(宣行)さんぐらいしか演劇の話はしないですよね。

佐久間さんも、一般層がいて豪さんがいて佐久間さんがいて演劇があるから、届いてるのって佐久間さんぐらいまでなんですよ。でも、佐久間さんは半分仕事もあって観てるじゃないですか。

──ですね、キャスティングにもつながってるし。

そうそう、新しい書き手も探してるから観てるけど、そうじゃなかったら観ない。

──ボクもパンフの仕事とか頼まれなかったら舞台は観に行ってないですからね。

でも一応、10年ぐらい前までは耳に入ってきてたわけじゃないですか。

──何がいい、みたいなことは。確かにタイムラインに出てくる率は相当減ってると思いますね。

それこそ本谷(有希子)さん、長塚(圭史)さん世代まで、みたいな。豪さんに届いてないっていうことは演劇界の危なさとして感じてます。カルチャーの中に演劇が食い込んでない。

今回このインタビューをお願いしたかったのも、「岸田賞って何?」みたいなことを聞かれるので、脚本として評価するもの、判断基準が脚本だけっていう。選考会が3月にあるんですけど、選考委員の人たちが毎年ちょっとずつ替わって、今年のメンツは今年のメンツなんですけど。あれ獲ったことある人しかできないんです。

この人たちも趣味が違うんで、毎回揉めるわけですよ。私が25歳で最初にノミネートされたときは選考会が始まって1分で床に捨てられたと思いますけど……。

──違うと思いますよ!

該当者なしの年からトリプル受賞まであるので、トリプル受賞のときは誰も譲らなかったんでしょうね。だから全然結果は読めないんですけど。選考会が終わった瞬間、獲っても獲ってなくても電話がかかってくるんですよ。

今回、自分にかかってくるのが初めてなんです、今まではマネージャーにかかってきてて。今までのマネージャーがいい人過ぎて全部顔に出ちゃう人だったので、顔でわかるんですよ、ダメだったっていうのが(笑)。悪い知らせを言わなきゃって顔をしてるから、「わかったんで大丈夫です」って毎年言ってたんですけど。今回はあの顔じゃないところで知れるっていうのはちょっと楽しみです。

さんざん話したけど、私は演劇がとにかく大好きなので、純度を守りたいです。

あ、たぶんこのインタビューが出るころに、私は演劇の修行に入ったというニュースが出ていると思うんですが、すべてはこれからもずっと演劇を大好きでいたいっていう気持ちからの行動です。

これどれくらいの人が最後まで読んでくれるんだろう……。


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  • 『もっとも大いなる愛へ』

    <岸田國士戯曲賞 最終候補作品選出を記念して再配信> 『もっとも大いなる愛へ』

    ■出演:伊藤万理華、藤松祥子、小日向星一、安川まり、riko、(事前収録の映像出演)根本宗子/大森靖子
    ■価格:3500円
    ■配信期間:3月13日(土)23時59分(購入は3月13日22時)まで
    ■チケット:販売ページ
    ※2020年11月4日19時公演のアーカイブ映像

  • 月刊「根本宗子」 演劇じゃない修行 第一回戦 ~コメント実況に劇で挑む~

    根本宗子が演劇の修行をする新企画『「演劇じゃない修行 第一回戦」~コメント実況に劇で挑む~』

    ■出演:根本宗子、長井短、畠山健(コメント読み)
    ■日時:3月14日(日)19時〜無観客生配信
    ■価格:2800円
    ■チケット:販売ページ


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吉田 豪

(よしだ・ごう)1970年、東京都生まれ。プロインタビュアー/プロ書評家/コラムニスト。 編集プロダクションを経て『紙のプロレス』編集部に参加。そこでのインタビュー記事などが評判となり多方面で執筆を開始する。現在、雑誌・新聞に多数の連載を抱えるほかテレビ、ラジオ、ネットなどさまざまなメディアに活躍の..

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