加害者に許可を取り、いじめ被害を“ほぼ実名”で演劇化──「ゆうめい」池田亮

2020.3.3

文=清田隆之 撮影=五十嵐絢哉
編集=田島太陽


今から書く原稿は、劇団「ゆうめい」主宰の池田亮さんが中学時代に味わった苛烈ないじめ体験をめぐる話だ。池田さんはこれを実話ベースで『弟兄(おととい)』という舞台作品に仕上げ、2017年に初演を行なった。

本作は学校名もいじめっ子たちの名前もすべて実名で描き、なおかつ中学時代に自分をいじめていた加害者たち全員から許可を取って上演にこぎつけたという異色の作品。3月4日(水)からこまばアゴラ劇場で始まる連続公演「ゆうめいの座標軸」の一環として再々演される。

雑誌『TV Bros.』で「2017年のベスト演劇」にも選出された『弟兄』はゆうめいの代表作と言える存在で、2019年には『anan』で注目の劇団としても紹介された。その影響もあってか、毎回律儀に許可取りをしていた池田さんのもとに、今回は加害者たちから「もう実名は出さないでもらいたい」と逆に連絡があったそうだ。

「残念ながら再々演から実名は出せなくなってしまいましたが、こうした連絡が入ったこと自体は作品の中で正直に語ろうと思っています」と池田さん。彼はなぜ、いじめ体験を実話ベースで演劇化したのか。なぜ加害者たちにコンタクトを取ろうと思ったのか。

本番を間近に控える日曜日の稽古場で池田さんに話を伺った。(途中、池田さんが受けた暴力の描写が出てくる箇所がありますので、気分を害されたり、フラッシュバックしたりする可能性がある方はくれぐれもご注意くださいませ……)

池田 亮(いけだ・りょう)1992年埼玉県生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻を卒業。脚本・演出・俳優としてだけでなく、小道具や大道具、映像、彫刻など広範囲で作品を制作している。
「ゆうめいの座標軸」公演チラシ

ドブに突き落とされ、ザリガニを食べさせられる

「いじめらしきものは小学校の高学年くらいから始まっていました。僕は背が低くて学年でひとりだけメガネをかけていて、それがいじりのネタになっていた。メガネというだけで“パリミキ”という安易なあだ名をつけられたり、もっとストレートに“クソメガネ”と呼ばれたり。持ち物を隠されるようなこともありました。大体がそのまま同じ中学に進むんですが、だんだんと内容がエスカレートしていき、しまいには直接的な暴力を受けるようになったんです」

『弟兄』の冒頭は、中学校の掲示板に貼られたイラストつきの紙を紹介するシーンで始まる。そこには殴り書きのような文字で「池田亮死ね」と書かれている。これは当時貼られていた実物のレプリカだという。池田さんをいじめていたのは、野球部所属の「いいい君」を中心とする男子たちだった。

「再演時までは完全実名だったんですが、今回からは頭文字と文字数だけ残した呼び名になっています。いいい君、ああああ君、はは君、たたたた君、というように(笑)。首を絞められて気絶させられたり、ドブに突き落とされてそこにいたザリガニを食べさせられたり、至近距離から顔面にバスケットボールを投げつけられてメガネを割られたり……本当にプレデターみたいなやつらでした」

『弟兄』初演時より。舞台上には「池田亮死ね」の貼り紙が

学校のクラスが世界のすべてだった

いじめは公衆の面前で行われたという。クラスメイトは傍観している。小学校から仲がよかった友だちはクラスも部活も別れて疎遠に。担任の先生はいじめの瞬間を目撃しているにもかかわらず「男の子なんだからやり返さなきゃ」と笑っている……。まさに四面楚歌と言うべき状況だ。そんななか、池田さんは女子に現場を見られることを最もきついと感じ、「いじめられているのではなく、あくまで友だち同士でじゃれ合っているだけ」という雰囲気を出そうと心がけていたそうだ。

「家族にも頼れませんでした。特に母親はマッチョな思想というか、貧乏に耐えながら努力して公務員の立場あるポジションに登りつめたという自負があり、『やられたらやり返せ』って考える人なんですよ。だからむしろ、母親には絶対に知られないようにしなきゃと考え、伝わる可能性を考えて父や兄や祖母にも言えなかった。当時はクラスが世界のすべてみたいな視野の狭さで生きていて、助けを求めることも学校を休むことも、何も手立てが思い浮かばない状態でした」

ある日を境に、いじめが一切なくなる


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清田隆之

(きよた・たかゆき)1980年東京都生まれ。文筆業、恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表。早稲田大学第一文学部卒業。これまで1200人以上の恋バナを聞き集め、「恋愛とジェンダー」をテーマにコラムやラジオなどで発信している。 『cakes』『すばる』『現代思想』など幅広いメディアに寄稿するほか、朝日新聞..

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