大森靖子×根本宗子「“全部わかってほしい”なんて絶対しんどい、けど」尊敬し合うふたりの想い
11月4日(水)から8日(日)にかけて、無観客配信の舞台『月刊「根本宗子」第18号『もっとも大いなる愛へ』』の公演が行われる。稽古はすべてリモートで行い、キャストは公演初日の前日に初顔合わせをするなど、今年に入ってさまざまな手法で配信の作品を発表しつづけてきた2020年の根本の集大成とも言える作品だ。
主題歌を歌うのは、根本が愛してやまない大森靖子。自らの思いやメッセージを「全部わかってほしい」という根本と、「でもわかった気にならないでほしい」という大森。表現に対するスタンスは正反対のように見えるふたりが、どのように今回の共同制作に至ったのか。
初日を前に、ふたりの出会いと今回の公演への思いを聞いた。
根本宗子は『もっとも大いなる愛へ』公演にあたり、制作のプロセスと役者に対する思いをステイトメントに綴っている。
ぜひ、このテキストを読んでからふたりの対話を楽しんでほしい。
月刊「根本宗子」第18号「もっとも大いなる愛へ」根本宗子ご挨拶
「距離感がバグった」出会いの日
――おふたりの出会いから教えてください。
根本 もともと、私がファンで。
大森 今泉力哉さん(映画監督)と取材で対談したときに、「根本っていう友達から伝言があるよ」って言われて、熱量のある長いメッセージをいただきました。それで「なんだ?」って思って。
そのあとに私の「I&YOU&I&YOU&I」という曲を舞台で流してくれたことも聞いて。作品を作る側で、私のことを好きって言ってくれる人がいるんだ、おもしろそうだな、と思って舞台を観に行きました。
根本 今泉さんに伝言したのは覚えてない(笑)。たぶん、普通にライブ行ったりCD買ったりしてて「大森さんが好き」っていう話はしてたんで、それが伝言っていうふうに伝わったのかも……。
大森 今泉さん、言いそう(笑)。
根本 それで、舞台を観に来てくださって、一緒にあんみつ食べに行ったよね?
大森 行った行った、中野に。
根本 私は大森さんのことがすごい好きだから、実際に会ったら黙っちゃって。なんかすごい、間(ま)がありましたよね。
大森 間があるけど、しゃべり出したら「初対面の相手に言う内容か?」って話ばっかりだったよ。距離があったわけじゃないよね。
根本 黙ってる時間とすっごいしゃべる時間の差がおかしな人になってたと思います。距離感がバグってしまった。
大森 一番エグみのある私生活のエピソードをいっぱい話してくれて。たぶん、おもしろいことを言わなきゃって思ってくださって……。
根本 バイトしないで演劇だけで食べられるようになったころだったから、世の中に対して思うことが今よりもいろいろあったんですね、きっと(笑)。
大森 でも、そういうエピソードが速攻で舞台になりますよね。「あのときの話がもう作品になってる!」っていうのを何度も経験しました。だから一緒にお茶しなくても、ファンの人も根本さんの私生活を知ることができるシステムなんだなって(笑)。
自分と同じ濃度で表現してもらうことの難しさ
――根本さんは、大森さんの音楽のどんな部分に惹かれていたんですか?
根本 アーティストのファンの方が「自分のことを歌っている気がする」ってよく言うじゃないですか。私にとって、あまりにもそう思い過ぎたのが大森さんの音楽で。普段言えないことや、私だけが感じてるのかなと思ってたことを、大森さんが表現してくれるから救われる部分がすごくあって。
私が勝手にそう捉えてるだけなんですけど、生活することと大森さんの曲を聴くことがセットになってます。やっぱり、自分がつらい時期に支えてくれたのは大森さんの曲だったし、「大森さんがこれを作ったなら私も作りつづけねば」みたいな気持ちで、ずっと意識してました。
――大森さんは根本さんの演劇にどんな印象を持っていましたか?
大森 歌ってやっぱり、1曲で3分から5分だから、エピソードも言葉の数も精査するんですよ。でも根本さんは全部言う。なんなら増やしたり盛ったりする。しかも、最近聞いた話が全部作品になってるのがおもしろ過ぎて、「こんな人いるんだ!」って驚きました。
私は自分の名義で歌ってるし、自分が歌えば終わりっていう感覚ですけど、演劇はいろんな役者さんを巻き込むのもすごいですよね。根本さんが感じたことを、ほかの役者さんにも伝えなきゃいけないでしょ。私もZOCでそういうことをやるけど、大変だよね。
根本 うん、本当に大変。
大森 だから、当時は「こんなこと絶対できない!」って思いました。
根本 でも最近は、私もそういう作り方はしなくなった。私生活を台本に落とし込んで自分の感情を俳優に説明して、っていうのが超しんどくなっちゃって。そうじゃない作り方ができるようになったってことかもだけど。
だからどんどん秘密主義みたいな感じで、自分の私生活はあまり人に話さなくなりました。今は自分や人の実体験をそのまま演劇にするんじゃなく、実体験から抽出した感情だけを落とし込むようになったと思います。
――現在は大森さんもZOCの「共犯者」という立場でメンバー兼プロデューサーの役割をされていますよね。
大森 自分の場合は先に曲があって、ZOCのメンバーに歌ってもらうときは「この曲を表現できる人間になれるよね」っていう感じで整えていくというか。わかんないまま歌っておもしろいこともあるけど、やっぱり言いたいことをちゃんと表現するという意味では、自分でやるのが一番いいんですよね。
ただ、自分の音楽を世の中に広く正確に伝えられるのは自分とは限らない、というのもZOCをやって気づいたことです。誰かに歌ってもらったほうが、魅力的になることもある。でも、私は長嶋(茂雄)監督みたいな伝え方しかできないんだよね。擬音みたいな感じで、漠然としちゃう。
根本 ははは(笑)。
大森 「もっと首を、こう! 魂が前に行き過ぎてる!」みたいな言い方になっちゃう。そこは相変わらず難しいですね。
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