「全部わかってほしい」なんてしんどいに決まってる

――今回の『もっとも大いなる愛へ』でのコラボが決まった経緯もお聞きしたいです。
根本 今年の夏くらいにすごく落ち込むことがあって、どうしても大森さんと話したくて、家まで会いに行ったんです。それで1時間くらい話をしたあとに、「何か一緒にできることないですかね」って。
大森 子供の相手もしながらだったから、一緒に悲しむトーンになれなくて「あぁ、うんうん」って聞いてたんですけど。そうしたら「あ、仕事する話か!」と思って。それならよかったって。
根本 新作をひとりでゼロから作るの、大丈夫かなっていう気持ちでいたので……。大森さんと一緒なら作れる、作りたいって思って、それを伝えようとした結果、1時間かかったんでしょうね。
大森 夏ごろだったよね?
根本 そう。最初は「逆をやってみる?」って大森さんが言ったんだよね。大森さんが舞台を作って、私が音楽を担当するって。
大森 でも私セリフ覚えられないから無理だし、根本さんも体力的に踊ったりできないよねって(笑)。
根本 5秒後くらいに「無理だわ」ってなりましたね。
――大森さんは根本さんの台本を読んでどう感じましたか?
大森 やっぱり、とにかくセリフが多いです。繊細な人だけど、セリフで説明すればするほど、まわりにはまったく繊細だと思われないっていうのが根本さんの仕組みですよね。だから、その繊細さを伝えるために、根本さんにはきれいなメロディをふわっと歌う人になってもらおうと思いました。
根本 それは私の今年の悩みですね。なんか、言い過ぎててマジで繊細じゃない人みたいになっちゃう(笑)。

大森 全部言っちゃうからね。根本さんは「全部わかってほしい」っていうエネルギーがすごい。不器用な女だなあって思う。「自分の言葉で説明できてるじゃん」「作品に昇華できていいじゃん」って見えちゃう。
でもそうじゃないんだよって、私はわかってるから。曲ではちゃんと繊細なままの根本さんをやらせてあげたいなって。だから、私がねもしゅーをプロデュースするつもりで曲を書きました。
根本 曲をいただいたときに「好きなところだけ歌詞を書いてみて」って言われたんですけど、聴いてみたら私が言いたいことの全部は落とし込めないメロディだったんですよ。
大森 そうそう、全部は絶対言わせないぞ、っていうメロディにしました。やっぱり「全部をわかってほしい」なんてしんどいに決まってるじゃないですか。全部なんて、絶対わかってもらえないから。私は「『わかるわけない』ってこともわかってほしい」派なんですよね。
根本さんに会ったとき久々に「『全部わかれ』派の人だ!」って思ったんです。私自身、その気持ちを失ってたというか。だって、わかってもらえなさ過ぎて。自分が描いたものがどんどん自分と乖離していって、自分じゃない自分がいじめられつづけている、みたいな……。「全部わかれ!」って思ってる根本さんに会って元気をもらいました。「全部わかれ!」の人って、いい女ぶれないでしょ。わかります?

根本 ははは(笑)。
大森 だからせめて、曲ではいい女にしてあげたい。もっと器用に生きられたらいいけど、できないから。私もできない。でも、音楽でならそうしてあげられる。
根本 演劇だと時間もセリフも制限がないからこそ、ここ数年は自分のお芝居に音楽を入れてもらうことの大きさを感じていて。自分ひとりだと同じところをぐるぐるしちゃうんですけど、誰かと一緒にやることで違う場所に連れていってもらえる感覚があるんです。
もちろん、誰と組んでもいいわけじゃなくて。大森さんみたいに、あえて違う場所を見せてくれるのはとってもありがたいなと思います。今回は最近の作品とは全然違っていて、「全部わかってほしい」っていうような昔の書き方をしちゃったから。それで、今までの私を知ってる大森さんに曲をお願いしたかったのもあります。……でも、やっぱりいい女ぶれないっていうのは本当にそうですね。
大森 基本、立ち居振る舞いで得はしないよね。
根本 私も、もし私じゃない人間に生まれてたら「こいつすっげーしゃべるな」と思うかも(笑)。大森さんへのLINEも昔から、私のメルマガ送ってんのかな?ってくらい長くなっちゃう。
大森 根本さんが熱いメッセージを送ってくれてるのに、私が「オッケー」だけ返すから、めちゃくちゃ淡白な人みたいになっちゃうんだよね(笑)。
5日間、公演の過程をすべて観てもらいたい

――今回の作品が『月刊「根本宗子」』休止前の最後の公演になります。
根本 そんなに「休止前だから」とは考えてないんです。休む理由も、演劇から離れたいわけではないし。今までずっと演劇界の中にいたから、業界のダサさとかも見えなくなってしまったので、少し外側から演劇を見つめてみたいし、自分がどういうポジションに立つのがお客さんを増やせるのかを考えたいんです。
今まで、数年先の公演に向けて打ち合わせをしたり、プロットを書いたりしてきたんですけど、今年はいろいろあってそれが白紙になってしまった。だから、もう一回冷静になって、どこか次に向かう先を決めたいと思ってます。
――今年はこれまで配信の作品を4本と、どれも手法を変えながら精力的に公演を打ってきましたよね。振り返ってみて、何か気づいたことはありますか?
根本 けっこう飽きっぽいんだなと思いました。1本作ると、そのやり方には飽きちゃって、次には新しいことがやりたくなる。これからもずっとそれを繰り返すんだろうな、って気づきました。
今回の作品を通して私も役者も毎日変わっていくだろうし、それがおもしろさにもなると思うので、欲を言えば5日間通しで観てもらいたいです。大森さんが生で歌いに来てくださる日(11月7日)の意味も、より深く伝わると思うので。
――最後に、大森さんからも読者の方に伝えたいことがあればお聞きしたいです。
大森 まずはこの記事をちゃんと読んでくれてありがとうございます。WEBの切り出しの文章とか、タイトルだけを見て「ああこういう感じね」ってわかった気になっちゃう時代に、ちゃんと最後まで私と根本さんの言葉を逃さずに読んでくれたことにとても感謝したい気持ちがあります。
あとやっぱり、根本さんも言ってたように、毎日観てくれたらうれしいです。根本さんには、「歌は練習しなくていいですよ」って言っておきます。練習、しないでください。し過ぎないほうが絶対にいいから。
関連記事
- 根本宗子が2週間で作った“リモート芝居”への思い「演劇が忘れられないように」
- 酒井若菜×こだま<書いて伝える大切さ>を語る「大丈夫って言われるよりも救われる言葉」
- アーティストと俳優を分けない「人間、北村匠海」になった。自粛期間を経て魅せる新境地
- 「むりやりエッチなことをするのは絶対ダメ!」「先生からのいじめはどうしたらいいの?」『こども六法』で子供も大人も強くなる(PR)
- オードリー・タンが、大臣の仕事を「楽しい」と言い切れるのはなぜか?(PR)
- 東京にしかないものなんてない。地方移住を考えるすべて人、必読の一冊(PR)
- ぺこぱが背負わされた“重い重い十字架”と、それでも止まらない進化の理由(PR)
- 「自分の視点を笑いで届ける」年間400本の舞台に立つ、28歳のシカゴ在住スタンダップコメディアンとは?(PR)