障がい者はテレビで笑いを取れるのか…濱田祐太郎「少なくとも自分はできると証明できた」
2024年6月〜7月、大阪・ABCテレビである番組が放送された。『濱田祐太郎のブラリモウドク』。『R-1ぐらんぷり2018』王者の濱田祐太郎による街ブラ番組だ。
“盲目のピン芸人“である濱田が大阪のあちこちを歩いて毒舌を吐く初回放送は、「この街、点字ブロックが一個もない。おしゃれなだけの街!」という、彼にしか吐けない毒から幕を開けた。芸歴11年目の濱田にとって、テレビにおける初冠レギュラーとなったこの番組は「少なくとも濱田祐太郎は(テレビでお笑いが)できることを証明できたはずだ」と確信を得る機会になったという。
濱田が感じた手応えとはどんなものだったのか。今後、自分がテレビで求められるお笑いとは何か。新たな挑戦を終えた濱田に、話を聞いた。
見えないのにスタッフがカンペを出していた
──『濱田祐太郎のブラリモウドク』、特番を賭けた対決では惜しくも負けてしまいましたがとてもおもしろかったです。濱田さんにとってテレビでの初の冠レギュラーでしたが、オファーがあったときはどう思われましたか?
シンプルに「やったー!」でしたね。喜びが100%でした。
──制作陣からはどういった狙いの番組だと説明されたのでしょう。
ディレクターさんが僕のYouTubeとかを観てくれてて、毒のあるコメントがおもしろいと思ってくれたらしいんです。それで「毒舌と街ブラロケを組み合わせて何か企画ができないか」と社内で提案してくれたそうで、ああいうかたちになりました。
──番組を作るにあたって、スタッフさんと事前のすり合わせはけっこうされたんでしょうか。
そんなに細かいすり合わせはあんまりなかったですね。ロケの前に1回打ち合わせさせてもらったとき、ディレクターの方がいろいろアイデアを用意してくれてて「NGはありますか」って確認があったくらいです。
実際に放送されたところでいうと立ち飲み屋で常連客と絡むとか体を動かすとか、そういうのをやりたいと言われたんで「全然いいですよ」と。「スカイダイビングしながらカップラーメン食え」とか言われたら無理ですけど、別にそんな無茶なものもなかったんでね。
──収録していて、「制作側にとってこういうところが課題になるんだ」と思った部分はありました?
ロケの面では特になかったです。スタッフさんの中ではいろいろ気遣いや配慮があったと思うんですけど、やってる僕自身からしたら「もっとこうしたほうがいいのに」って思うところはなくて。
──逆に「これはうれしかった」というところは?
初回収録の冒頭で俺が「濱田祐太郎のブラリモウドク!」ってタイトルコールするとき、スタッフさんがそのカンペを出してくれてたのはめっちゃうれしかったです。俺は見えてないんで出てようが出てまいが関係ないんですけど、トキさん(藤崎マーケット)がそれを拾ってくれて笑いになって。スタッフさんもそれをわかった上でカンペを出してくれてたんでしょうね。
お笑いをやろうとしてくれているのが伝わって、「ボケていいんだ」って思えたし、「こっちもがんばらなあかんな」って気合いが入りました。
──これまで街ブラはあまり経験がなかったと思うんですが、やってみて発見や反省点はあったでしょうか。
「どんどん毒づいてもらって大丈夫です」って言われてたんですけど、頭の片隅に「これ、テレビで放送されるんやな」というのがあったんで、だいぶビビって抑えちゃったところがありましたね。『ブラリモウドク』は解説放送とTVer用のおまけの音声配信があったんで、それを収録するときに放送前のVTRを全部確認させてもらってて、観てて「ここはもうちょっと言っとけたな」とかめちゃくちゃ思いました。
──タイトルからして『モウドク』ですもんね。
そうなんですよ。でも街に毒づいて街から文句言われたらめちゃめちゃめんどくさいじゃないですか。
──行政から(笑)。ただ、初回の堀江(大阪市内にある、カフェやアパレルショップ、ライブハウスなどが集まるエリア)ロケのオープニングで「点字ブロックが一個もない、おしゃれなだけの街」という文句は笑ったし、濱田さんしか言えない毒だなと思いました。
そのぐらいのことをもっと言えたらよかったですねぇ。
「濱田祐太郎ならできる」と証明できた
──以前からよく「制作者側が障がい者をテレビに出すことにもっと慣れてほしい」とおっしゃっているかと思います。『耳の穴かっぽじって聞け!』(テレビ朝日/2024年6月4日放送)でも「テレビ側が障害のある人をバラエティに出演させて受け入れる取り組みをしていない」といったお話をされていました。一方、ご自身は先ほど「収録していて『もっとこうしたほうがいいのに』って思うところはなかった」とおっしゃっていましたよね。もちろん番組の内容や体制もいろいろあるとは思いますが、基本的にテレビ側の腰が重いのはなぜだと考えていらっしゃいますか?
それはやっぱり、『水曜日のダウンタウン』(TBS)に日本吃音協会から苦情が入ったような、そういうリスクじゃないですかね。それと、目が見えない人に限らず障害のある人という、今まで自分たちがやってこなかった分野の出演者を受け入れるのがめんどくさいというのはシンプルにあるんじゃないですか。ひとつ新しいことに取り組まなきゃいけなくなるところはありますから。
──放送終了後にご自身のYouTubeで「障がい者がテレビで笑いを取れるかは人によるからわからないけれど、少なくとも濱田祐太郎はできるということを今回証明できたはずだ」と話されていました。そう確信できた理由を改めて聞かせてください。
これはもう、積み重ねですよね。舞台に立ってネタやってお客さんが笑ってくれて「自分のネタはお客さんに笑ってもらえるぐらいのものにはなってるんやな」ってところから始まって、賞レースの決勝残った、『R‐1』優勝した、そのレベルのネタができてる、じゃあネタはたぶん「おもしろい」で間違いないやろう……っていうのが自信になって。
そこから先でネタ以外はどうなんやってなったら、数は少ないですけどバラエティに呼ばれたときも「おもしろい」という反応が多くて、ここでもいけるんやな、と。
さらに今年は『あれみた?』(MBS)の密着企画や『ブラリモウドク』があって、「濱田祐太郎」をメインに据えたらどういうリアクションが返ってくるんやろう?と思っていたら、また「おもしろい」と言ってもらえた。これは自信を持っていいんじゃないかなと思いましたね。
──これまでの経験から、テレビで「濱田祐太郎」が求められるおもしろさはどんなところだと感じてますか?
スタッフの方がどう捉えてるかはわからないですけど、『あれみた?』にしろ『ブラリモウドク』にしろほかの番組にしろ、濱田祐太郎自身がストレートに楽しんでるときが一番評判がいいなと感じますね。その中で出てくるちょっとした悪口なんかがギャップがあっておもしろがってもらえてるのかなと思います。
──『ブラリモウドク』では毒が抑え気味になって反省したとのことでしたが、テレビ出演時に「もっとボケられたな」とか「ボケを差し込むタイミングが難しいな」と思うことはけっこうありますか。
今まで自分が出た番組に関してはあんまりそういうのはないですね。ガヤとかも全然できるな、って。テレビじゃないですけど、NGK(なんばグランド花月)で山里(亮太)さんがMCの『伝説のひな壇3』というライブに出させてもらったんですよ。あとで山里さんが『(水曜JUNK 山里亮太の)不毛な議論』(TBSラジオ)で僕の名前を出してしゃべってくれるぐらい褒めてくれて。
──聞きました。「タイミングもワードもキレキレ」「何度もしびれた」とべた褒めでしたね。マジシャンの方が「第三の目で心を読む」というコーナーで、フッと間(ま)が空いた瞬間に濱田さんが「第三もあるんやったら目ぇくれや!」と返したくだりが爆発的にウケた、と。
やっぱりひな壇はやれる余地があるなと思ってます。それに今回『ブラリモウドク』を経験して、ロケもどんどんやれるはずだと思いました。もっと出たいですね。
見えてるほうと見えてないほう、どっちでいったらいいんやろ?
──平場での笑いの取り方というところでいうと、『ブラリモウドク』でもトキさんと「見えてるやろ!」「見えてへんわ!」ってくだりを毎回やってたじゃないですか。トキさんに限らず、マンゲキ(よしもと漫才劇場)の芸人さんの間では定番のくだりになりつつあると思うんですが、あれは誰が最初に始めたんですか?
誰やったかなぁ……あぁ、笑い飯の哲夫さんかもしれないですね。『R-1ぐらんぷり』優勝したあとに哲夫さんがご飯誘ってくれて何人かで夜中まで飲んで、「ひとりだと危ないから」ってわざわざ家まで送ってくれたんですよ。
僕がそのとき建物の最上階に住んでたんで、部屋入ったら窓から夜景が見えるから「めっちゃキレイなとこ住んでるやんけ。お前、見えてるやろ!」ってなって。そこからかもしれません。
──そうなんですね。もっと以前、デビューしたころから同期の間などで続いてるノリなのかと思ってました。
デビューしたてのころは「見えてない」イジリはありましたけど、「見えてる」イジリは全然なかったですね。
──芸人になる前もなかったですか?
「見えてるやろ」はさすがになかったかな。盲学校に行ってたころ、たまたま見えてるっぽい出来事があったときに「いや、見えてるのかと思ったわ」ぐらいのやりとりはしてたと思いますけど、笑いに向かっていくようなものはなかったです。
──見えてないイジリと見えてるイジリだと、返しやすさに違いはあるんでしょうか。
どっちかに分かれてるならどっちでもいいんですけど、ごちゃまぜになってることがあって、そういうときはちょっと返しに困りますね。
──ごちゃまぜになってる、とは?
たとえば舞台に芸人何組かで出たときに、芸人Aが「見えてるやろ」ってイジリたくてエピソードをしゃべってて、芸人Bは「見えてないからこういうことがあった」ってエピソードを話すと、俺は見えてるほうと見えてないほう、どっちでいったらいいんやろ?ってなるんですよね。
──あぁ、なるほど。軸がブレるというか。
ただ、見えてないイジリにしろ見えてるイジリにしろ、一つひとつのエピソード自体がけっこう強ければ俺はただただ「そんなことないわ」とか「いやいや、そういうこともあるでしょう」ぐらいのことを言うんで、混ざってないときは全然楽です(笑)。
見えてる人も見えてない人もネタにしたい
──ネタについても聞かせてください。濱田さんは漫談をやってらっしゃいますが、いい漫談とはどういうものだと思っていますか?
やってる本人の人間性なりネタの切り口なり、その人の味が出ている漫談はすごくおもしろいと思います。その内容が本当の話だろうが作った話だろうが、そこは関係ないのかなと。
僕の場合は目が見えてないっていうのがどうしてもくっついてくるんですけど、劇場に来るお客さんは大半の方が目が見えてるじゃないですか。目が見えてないということがどういうことか、想像するのがちょっと難しい部分があるやろうから、なるべく伝わりやすい言葉を選ぶようにしてます。そういう、できるだけたくさんの人にわかりやすいネタが自分らしいものかなとは思います。
全員を笑わせられたら理想的だとは思うんですけど、そもそも障がい者ってだけで毛嫌いする人間も世の中にはいるんで、全員から好かれるタイプではないなと思ってるんですよ。来てくれたお客さんの7〜8割ぐらいが笑ってくれるようなネタをやり続けよう、って意識がありますね。
──目の見えない方が客席に多かったらウケ方は全然変わるんですか?
あー、どうなんやろう……そういう環境でネタをやったことがないからわかんないですけど、逆にそっちのほうでスベったらちょっとショックですね(笑)。「俺、目の見えてるお客さんには受け入れられてるけど、目の見えてないお客さんに受け入れられないんや」って。
──あ、そういう仕事はまだないんですか。ちょっと意外です。
ほんまですね。今までなかったです。今ちょっと振り返ってみて、自分でも「あれ?」って思いました。機会があったらやってみたいですね。
──やるとなったら、普段の劇場でやるネタとは違う方向性になるんですかね。
それでいうと、目の見えないお客さんだけの前でやったことはないんですけど、福祉関係の団体のイベントでネタをやる営業はちょくちょく行くことがあって。車椅子に乗られてる方がいたり、耳の聞こえない方がいて手話通訳の方が俺のネタを通訳してくれたり、目の見えない人も何人かいたりという状況でやったことはあるんですよ。
そういうところでは「目が見えない」ってネタはあんまりやらないです。時事ネタも好きなんで、そっちをやってみて普通にウケるかどうか試したくて。
──ウケました?
いや、ウケるはウケるんですけど、まぁその……国枝慎吾さんとか乙武(洋匡)さんをイジったときほどはウケないですね。
──そういうくだりがウケるんですね(笑)。
ウケますねぇ。全然正反対のふたりですけど、どの方向にしても突き抜けすぎると嫌われるんやな、って思いました。
──濱田さん自身は目の見えない方から何か言われることはあるんですか?
劇場でやってるネタに関しては言われないですけど、YouTubeラジオとかでは言いたい放題言ってるんで、そっちにはありますね。盲導犬をイジったときは目の見えない方からアンチコメントが来ましたよ。
──以前、何かの動画で盲導犬について「獣に命を預けられない」と発言されていたのが記憶に残ってて。不意を突かれて笑ったし、「そう思う人もそりゃいるか」と思ったんですよ。
俺はそうですね。そういう方にとっては信頼できる家族でありパートナーなんでしょうけど、俺は獣に命は預けたくない(笑)。立ち位置的になるべくどっちの意見もわかるような状態でいたいなと思ってるんですよ。目の見えない人の一方的な意見だけ聞いててもなんかなぁ、と思うんで。見えてる人も見えてない人もどっちもイジってネタにしたいですね。