まるで「無料のキャバ嬢」──おじさんとの飲み会が苦痛だった新入社員時代のこと(僕のマリ)

2022.4.11
僕のマリ

文=僕のマリ 編集=高橋千里


4月になり、スーツ姿の新社会人たちが駅や電車などで目に留まる。文筆家・僕のマリ氏が、自身の新入社員時代を振り返り「下の世代に繰り返してほしくないこと」を綴る。


お酒は好きでも、乗り気になれなかった“職場の飲み会”

お酒を飲むのが好きだ。家で缶ビールを飲む日もあれば、居酒屋で飲んで帰る日もある。ひとりで読書しながら飲むのも好きだが、誰かと話しながら酔っ払うのも楽しい。

新型コロナウイルスが蔓延して早2年、大勢でお酒を飲む機会は圧倒的に減ったが、それでも頃合いを見計らって誰かとお酒を飲むのが楽しい。

昔はつらいことがあるとお酒を飲んでいたが、今は楽しく穏やかな気持ちで飲んでいる。しらふで話すのとはまた違う高揚が、心をゆるく解放させてくれる。

できれば楽しくてどうでもいい話がしたい。好きなスナック菓子やおすすめのマンガ、芸人の好きなネタ、学生時代の思い出、そういう話ばかりしたい。それで、まだちょっと飲みたいな、とか思いながら火照った顔を夜風で冷まして、満たされた気持ちで眠りたい。

居酒屋に行く機会が減って寂しい反面、あんまり乗り気ではなかった“職場の飲み会”を回避できるようになったのはうれしい。ネットニュースを見ていても同じような声が多く、「職場の飲み会がないのが助かる」と胸をなで下ろす若い世代が大勢いる。

飲み会で自慢や説教をしてくるおじさん

飲み会自体が嫌というより、「飲み会で聞かされるおじさんの自慢や愚痴や説教がつらい」人がほとんどなのではないだろうか。少なくともわたしはそうだ。

今は時節柄もあってはっきり断れるけれど、昔はなんとなく断るのも気まずくて、何度か飲みに連れて行かれた。

やはり当時は無知で若かったので、誘われたら行くし、ごちそうになったら何も文句は言えないと本気で思っていた。「こんな店、若い子は行けないよね?」と言われたら首を縦に振るしかなくて、これも経験のうちと考えた。

目上の人と食事して、お酒の減り具合を気にしたり、料理を取り分けたりするまではいい。それは仲がいい人にもやってあげたいと思うことだし、そこまで苦痛ではない。

ただ、会話の内容がきついな、と思うことが多かった。たいていが自慢話(ほとんどが昔のことだった)や説教なので、反応に困ってしまう。

怒鳴る男性
※画像はイメージです

自分のことなんてほとんど話さなかったと思う。何か言ったところで、ダメ出しや「こうしたほうがいいいよ」という求めてもいないアドバイスが飛んでくるのだ。

心では嫌だなと感じていても、当時は「そういうものなのだ」と思ってやり過ごすほかなかった。高いお店でごちそうになっても、あんまりおいしいとも思えなかった気がする。


たとえるなら「無料のキャバ嬢」だった日々

30歳を前にして、この苦い思い出を人に話したとき、「そんなに自分の話をしたかったら、ごちそうするだけじゃだめだよね。追加でお金払わなきゃね」と言っていて、冗談かもしれなかったけれど確かにそうだよなあと思った。

女友達と話していたときも「無料のキャバ嬢だと思われてたらやってらんないよね」と言っていて、感覚としては確かに「無料のキャバ嬢」というのがしっくりくる。「すごいですね」と言ってもらいたいがゆえに、年下の女性相手に自慢をするし、説教もするのだろう。

※画像はイメージです

しかし、一方的に話されるだけならまだマシかもしれない。飲みの席だからと、「彼氏いるの?」「料理できるの?」と品定めするようなことを聞かれたことがあった。

仕事の相手に言わなければいけないことだろうかと思いながら、「どう答えたら正解なのだろう」と、心が折れそうになったのを覚えている。

「嫌だったことを繰り返さない世代」として生きるために

自分が年を重ねて、下の世代には同じ思いをしてほしくないと思う。耐えていた時代も必要だったかと問われるとそうではなく、ただ自分が削れていく感じがつらかった。

「自己肯定感」という言葉が巷にあふれているが、自分で自分を肯定するのが難しい環境というものもあると思う。わたしがそうだった。誰かの欲の捌け口にされたり、消耗されている間は自分に価値を見出したりすることが難しかった。

一方的に話を聞かされたり、勤務時間外に説教されたり、私生活に口を挟まれるのが苦痛でならなかった。あのとき、良識のある大人に守ってほしかった。

そんなふうに若いころの苦しかった記憶を辿ると、今同じ思いをしている人がいないか気になって仕方がない。

令和も4年目になり、時代が大きく変わるのを体感している。セクハラやパワハラを認めない社会、風潮がこのまま浸透していくように、「自分たちがされて嫌だったことを繰り返さない世代」として生きていきたい。

自分もまわりも大切にすることが、当面の目標だ。

【関連】痴漢、不審者など、若い女性が“なめられる現実”からの救い
【関連】10年勤めたブラック企業を退職し、今思うこと


この記事の画像(全3枚)




この記事が掲載されているカテゴリ

Written by

僕のマリ

(ぼくのまり)1992年生まれ、物書き。犬が好き。2018年、短編集『いかれた慕情』を発表。ネットプリントで印刷できるエッセイをたまに書いている。

CONTRIBUTOR

QJWeb今月の執筆陣

酔いどれ燻し銀コラムが話題

お笑い芸人

薄幸(納言)

「金借り」哲学を説くピン芸人

お笑い芸人

岡野陽一

“ラジオ変態”の女子高生

タレント・女優

奥森皐月

ドイツ公共テレビプロデューサー

翻訳・通訳・よろず物書き業

マライ・メントライン

毎日更新「きのうのテレビ」

テレビっ子ライター

てれびのスキマ

7ORDER/FLATLAND

アーティスト・モデル

森田美勇⼈

ケモノバカ一代

ライター・書評家

豊崎由美

VTuber記事を連載中

道民ライター

たまごまご

ホフディランのボーカルであり、カレーマニア

ミュージシャン

小宮山雄飛

俳優の魅力に迫る「告白的男優論」

ライター、ノベライザー、映画批評家

相田冬二

お笑い・音楽・ドラマの「感想」連載

ブロガー

かんそう

若手コント職人

お笑い芸人

加賀 翔(かが屋)

『キングオブコント2021』ファイナリスト

お笑い芸人

林田洋平(ザ・マミィ)

2023年に解散予定

"楽器を持たないパンクバンド"

セントチヒロ・チッチ(BiSH)

ドラマやバラエティでも活躍する“げんじぶ”メンバー

ボーカルダンスグループ

長野凌大(原因は自分にある。)

「お笑いクイズランド」連載中

お笑い芸人

仲嶺 巧(三日月マンハッタン)

“永遠に中学生”エビ中メンバー

アイドル

中山莉子(私立恵比寿中学)
ふっとう茶☆そそぐ子ちゃん(ランジャタイ国崎和也)
竹中夏海
でか美ちゃん
藤津亮太

QJWebはほぼ毎日更新
新着・人気記事をお知らせします。