根本宗子×吉田豪 「異端児でいいから、新しい道を」“演劇の危うさ”を考える<岸田賞ノミネート記念対談>

2021.3.9


「次の世代」のために、「不要な壁」を取り除きたかった

『もっとも大いなる愛へ』より

──演劇ってそういう世界なんですか?

なんで辞めるんだろうって思ってたんですよ。だけど女子が戦うにはある程度ヒステリックにならざるを得ないんだけど、そうするとヒステリー女か更年期みたいに言われて終わりっていう。

──そして、受け入れる態勢だといいようにされちゃう、と。

そうそう。だからめちゃくちゃ男のプロデューサーに媚びに媚びて、その人と付き合うぐらいの勢いの人が出てくれば、もしかしたら頂点までいけるのかもしれないけど(笑)。そういうことをしない人が作家になってると思うので。自分が男だったらよかったのになって何百回思ったかわからないです、演出業だけ考えたら。

──単純に考えると雑な偏見を受けそうな世界じゃないですか、「若い女性がやるだけで目立てるんでしょ?」みたいな感じで。

そうですね。だから自分が次の世代の人の手本になっていくターンに来たんだな、みたいなことが最近ジワジワあって。DMで「演出を始めました」って女の子から連絡をもらうんですけど、やっぱりこの人たちに演劇をつづけてほしいので、同じ目に遭ったら辞めるだろうな、私より全然根性なさそうだしな、みたいなことを思ったりするんです。

私も20代のときは今より根性ないですし、よく辞めなかったなって思うので、辞めようっていうタイミングがたぶん彼女たちにも訪れる、でもなるべくその機会を減らしたいというか、そんないらん壁には当たってほしくないので、自分がとりあえずそれをなくしていく作業をすれば半分くらいには軽減できるかなと思ってやってるんです。だって演劇って超楽しいはずなのにって。

そこの立ち回り方がめちゃくちゃ難しいっていうのがここ2年だったんですけど、今年に入っていろんな人と話してみて、意外とこんなところに味方がいたんだとか、思わぬ角度で守ってくれる人が出てきたりして、じゃあ今までやってた11年は間違ってなかったのかな、届くところには届いてるのかなっていう気持ちもあって。

なるべくチームで戦っていけるようにはしようと思ってるんですけど、演劇の流行らせ方は難しいですね。

──去年はけっこうメンタル的には弱ってたんですか?

……豪さんのSHOWROOMは生配信だったから話せなかったし、ホントに限られた人にしか話してないけど、いろいろ弱っていたのは間違いないですね。

──精神的にキツくなってたんですね……。

演劇休むにしても仕事は実はあるにはあったんで、でもコロナもあって企画も遅れちゃってたし、そもそもできるのかどうかっていう時期ではあったんですけど。キャスティングもまだ全部終わってないし、まだプロデューサーと話せる段階だったし、状況もわかってくれてる人だったので。最後までできる気がしなくて、稽古場から走って逃げそうだなっていう気持ちにしかならなくて。って話を腹を割ってしてみて。

一回、今後何を書いていくかをゆっくり考えないと芝居を辞める気がするんでっていう話をして、そういうことで1年だったんですけど。演劇じゃないですけど、「結局やるじゃん」みたいな見え方をすることは今後あると思うんですけど。でも休んでる意味は今とっても自分の中であるし、いい方向に行っています。

──『もっとも大いなる愛へ』の主題歌として大森さんと作った曲『stolen worID』が、それぞれ別の体験だろうけど共鳴する何かがあって作られたっていうことなんですね。

たまたま同時期にお互いそうなっていたからというか……。

──大切な人を失って、それに対する世の中の反応にものすごい複雑な感情を抱いて。

根本宗子と大森靖子(「“全部わかってほしい”なんて絶対しんどい、けど」尊敬し合うふたり対談 より)

そうですね。靖子ちゃんはたぶんちゃんと戯曲を読まないであの曲を作ってるんですけど、でも同じ時期に同じことを感じて、私が何を感じて書いた戯曲かっていうことは説明してあったんで、そこの部分に自分が書きたいことを書いたらうまくハマったという。

「舞台をみんなで作る楽しさ」を感じてほしい

──嫌でもいろいろ考えざるを得ない時期だったんですね……。

そうですね。そういう話を積極的にインタビューとかでしたいとも思わないし話さないけど、もともと演劇の楽しさを私に教えてくれた(中村)勘三郎さんが身近にいて、勘三郎さんに役を書いてみたいと思って作家になったけどいなくなっちゃったっていうスタートでもあるので。もう今、一番話したい。一番会いたいです。去年、毎日夢に出てきてほしいと願ってました。

──やれるときにやっておかないと、みたいな思いも出ますよね。

そうですね。「いつかやりましょうね」みたいなのって、まあないですよね。

たとえば初舞台ってめちゃくちゃ大事だなって。舞台をちゃんと好きで幅広く見てるマネジメントが業界的に少ないんですよね。舞台をやらせるってなったときに、どれが本人にもお客さんのニーズにも合ってるのかをちゃんと考えられる人はいるんですけど、めちゃくちゃ少ないなと思うんで。そこが増えてくれるといいなって。

──アイドルの子に舞台とか嫌いになってほしくないし、ホントに最初の出会いが重要だってことは前も言ってましたよね。

だって隣の稽古場とかでめっちゃ怒られてるのとか見ますから。知り合いだったらバカのふりして「大丈夫ですか?」って入って行っちゃったりするけど(笑)。たとえば自分がアイドルグループにいて卒業して一発目の舞台がそれだったら二度とやりたくないと思うよなって。いい思いってわけじゃないけど、舞台をみんなで作る楽しさみたいなものは感じてもらわないとなって思います。

──厳しいのであれば、せめて評価される作品であってほしいし。

そうそうそう。それですごいつまんない舞台とかなんだもん(笑)。

だからエビ中(私立恵比寿中学)みたいに決まった作家(シベリア少女鉄道の土屋亮一)がずっと書いてて、彼女たちのこともわかっててっていうほうが全然平和というか、グループカラーにも合ってるじゃないですか。エビ中の子たちが過激なことをやってるのを見たいわけじゃないし。元気にコメディをやるっていうのが観てる人も幸せだろうし。

そういう点ではジャニーズの運営もさすがの目利きがちゃんといるというか、この人にはこの演出家でやろうっていう人をちゃんとつけてるなと思うんで。そこがちゃんとしてるところはちゃんとしてるし。どの事務所にも演劇オタクのマネージャーっていうのは存在してるんで。その人の趣味が「え?」っていうときもあるからなんとも言えないけど(笑)。

だから、3年ぐらい仕事を休んでマネージャーかプロデューサーになってみようかなって思ったときがあったんですよ。

──え!

やめましたけど。敵を増やすだけだなと思って。

──ほかのことやってみたい欲もあるんですかね。

あります。人を売り込む素質が自分にもある気がしてるんですよ、その人のことが好きだったら。自分より他者に興味あるし、自分の売り込みは死ぬほど苦手なんで。やってみたいなとは思いますけど休んでまでやらなくていいかなって。

あと最近は演劇を休んでるから別の現場、たとえば映画の脚本を書くとかっていう現場に行ったとき、スタッフは演劇界隈の人じゃないわけですよね。そういう打ち合わせに行くと、もちろん初めてだから気を遣ってくださってるっていうのはあるんですけど、まあやりやすいんですよ。全然違いますよ。演劇だとたぶんイメージがみんなについてるんで。

根本マネージャー 私の肌感覚だと、演劇以外の人たちは演劇の世界で結果を出してる根本さんをお呼びしてるっていう感じなんですよね。

そう、だから作品のクリエイティブの話にちゃんと時間を使えるなっていうのがあって。演劇の中の人たちは昔から知ってるから、だいたいマウント取られて終わり。

こないだ強烈な「俺が育てた」オジサンが登場して(笑)。思いはうれしいんですよ、すごく好きでいてくれて、もちろん当時から見てくれてるし昔に仕事もしてるけど、基本セルフプロデュースなので私を誰も育ててないっていう気持ちはあって。一つひとつのいただいた仕事で成長していただけで、誰かひとりが育てたんじゃない!っていう(笑)。

若いときにプロデュース公演に呼んでもらうのは貴重な機会でしたけど、それが100私を作ったかというと、そうではないので。別のプロデューサーとやるのは嫌だみたいな人がいるんですよ、「なんでそっち行くの?」みたいな。でも、あなたが誘いつづけててこっちが断ってるならわかるけど、なんの誘いもなく数年ぶりに登場してそれ言うの!みたいな(笑)。

そんなことがあるのが衝撃ですけど……こういうのを全部言ってるからよくないんでしょうね。

──そういうことです! 

そういう人ってくまなく見てるんだよね。「俺のことだ!」って(笑)。現場を一緒にやって作品にすごく愛があって、揉めたりすることも毎回あるんですよ。こっちは予算がわかってなくて、「これがやりたい」って言うと「予算的に無理だ」って言われることは全然あるし、そういうのはまったくなんとも思ってなくて。

だけど、頭ごなしに言ってきてる人と、ちゃんと作品と座組を考えて意見をくれてる人っていうのは私もさすがにわかるので、どんなにうまくいかなかった公演でも後者の人だったら全然もう一回やりたいんです。でも、どんなにうまくいってるように見える公演だったとしても前者だともう組むのはキツいなって思っちゃうので。そういうすごくわかりやすい二択で分けてるだけなんですけど。

「豪さんに届いてない」という演劇界の危うさ


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