全米騒然!日本愕然!?話題の新刊『射精責任』が刊行された理由に迫る

2023.8.1
刊行前からSNSで話題沸騰!ニューヨークタイムズ・ベストセラー、世界9カ国で翻訳された『射精責任』が7月21日ついに日本上陸‼

文=齋藤圭介


『射精責任』──センセーショナルなタイトルの本書が刊行されることが告知された日、SNSでそのタイトルを目にした人々から、多くの共感や賛辞、強烈な拒絶など様々な反応が寄せられ、Amazon人気度ランキング1位に躍り出ることとなり、一夜にして注目作になった本書。多くの人に「見逃せない」と思わせる本書は、中絶の是非が大統領選の争点にもなるほど議論が活発なアメリカにおいて、望まない妊娠による中絶を根本から問い直す28個の提言をまとめた一冊。

アメリカでも大きな論争を巻き起こし、ワシントン・ポスト紙には、「セックスをする人、セックスをしたい人、あるいは将来セックスするかもしれない人を育てている人にとって必読の書」と言わしめ、ニューヨーク・タイムズ・ベストセラーに選出。世界9カ国に翻訳されている。

そんな本書から、日本版の解説を抜粋して全3回で紹介する。第1回は本書が刊行された経緯について。

※この記事は7月21日(金)に刊行された『射精責任』(ガブリエル・ブレア 著、村井理子 訳)より、齋藤圭介氏による解説の一部を、WEB用に再構成して転載したものです。

齋藤圭介
社会学者。神奈川県生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了。博士(社会学)。現在、岡山大学大学院学術研究院社会文化科学学域(文)准教授。専門はジェンダー研究。

著者紹介と本書の主張

本書は、Ejaculate Responsibly: A Whole New Way to Think about Abortion(2022)の全訳である。Ejaculate Responsibly(遂語的に訳せば『責任をもって射精せよ』)という挑発的な書名は、眉を顰(ひそ)める人がいることを承知のうえで、望まない妊娠とその中絶が男性の問題であることを端的に表すために著者があえて名付けたものだ(※1)。

著者であるガブリエル・ブレアは、DesignMom.com(※2)の創設者として知られている。DesignMom.comは、2006年に開設されたサイトであり、『Time』のWebsite of the Yearに選ばれ、『Wall Street Journal』、『Parents』、『Better Homes & Gardens』からトップ子育てブログとして賞賛され、Iris Award for Mom Blog of the Yearを受賞している。2015年に最初の本『Design Mom: How to Live with Kids』を出版し、同書は『New York Times』のベストセラーとなっている。また、ブレアは、Alt Summit(※3)の創設者としても知られる。これは、2010年から続く、ライフスタイル・ブロガーとクリエイティブな起業家のための年2回の大規模なカンファレンス(現在14年目)である。著者は、いわばアメリカにおける大人気インフルエンサーといえよう。

本書は重厚長大な学術書ではない。薄くて持ち運びもしやすいハンドブックだ。にもかかわらず、議論の焦点が女性にもっぱら偏ってきたこれまでの中絶論を、ガラッと180度反転させて、議論の焦点を男性に移すというウルトラCの荒業をやってのけた。

本書をお読みいただければわかる通り、本書の主張は極めて明確だ。

セックスをするから望まない妊娠をするのではありません。望まない妊娠は、男性が無責任に射精をした場合にのみ起きるのです。彼とパートナーが妊娠を望んでいないというのに、男性が精子を女性のヴァギナに放出した場合にのみ、起きる。これに対する予防は、男性にとって難しくありません。

本書「はじめに」より

望まない妊娠の原因は100%男性にあること、また男性にとって望まない妊娠を避けることは難しくないこと──無責任な射精をしなければよいだけなのだから──を、繰り返し、28のトピックにわけて軽妙な文体で説得的に議論を展開している。

28の議論や問題提起はとくべつ難解な話ではない。容易に理解できるものばかりだ。本書の内容に屋上屋を架す解説は不要だろう。そこで本解説では、本書をより大きな文脈で理解できるように、議論の補助線と背景を提供しようと思う。まず、本書が刊行されるに至った経緯を紹介する(1章)。次に、中絶の議論において、男性に焦点を当てることがいかに斬新な視点(副題の「中絶について考えるための、まったく新しい方法:A Whole New Way to Think about Abortion」)であるのかを理解するために、本書の主張をアメリカの中絶論争史のなかに位置付ける(2章)。さらに、日本の避妊・中絶の状況に触れながら、本書が日本語で翻訳された意義を考える(3章)。そして、本書の主張をめぐるいくつかの争点を提示する(4章)。最後に、本書の意義を再確認したうえで、中絶をめぐる議論のアリーナに読者を招待するためのチケットを渡すことができればと思う(5章)。

※1 Gabrielle Blair Embraces ‘the Least Sexy Way to Talk About Sex’,The New York Times(2023年5月22日アクセス)。なお、邦題の『射精責任』は、エージェントの案を参考に、編集者の藤澤千春氏が若干の修正を加え、決定した。原作者ブレアの意図を汲んだ、見事な邦訳といえる。

※2 DESIGN MOM(2023年5月22日アクセス)。

※3 Alt Summit(2023年5月22日アクセス)。

あるツイートがきっかけ

2018年9月14日、ある一連のツイートがものすごい勢いでリツイートされ、相当数の「いいね」を獲得した。そのツイートは2023年6月現在、19.7万件のリツイート、30.8万件の「いいね」がついている。「バズる」の定義は諸説あるが、「いいね」が1万件を超えると「バズる」といわれることが多いことをふまえると、30.8万件の「いいね」を得たことのインパクトが伝わるだろうか。

その一連のツイートは、以下のツイートではじまる。

私は6児の母であり、モルモン教徒です。宗教的なことも含めて、私は中絶についてよく理解しています。これまで男性たちが女性のリプロダクティブ・ライツについて、女性に代わって好き勝手に議論してきたことを聞いてきました。私は、男性が実際のところ中絶をなくすことには全く関心がないことを確信しています。なぜなら……

スレッドと呼ばれるかたちで、このツイートの下にさらに62件のツイートが続く。合計63件のツイートの中身は、本書の主張とおおむね重複する。最後の63件目のツイートには、「つまるところ、〔中絶をなくすために〕女性の身体とセクシュアリティを管理しようとすることをやめましょう。男性こそが、望まない妊娠を生じさせているのだから。終わり」とある。

この一連のツイートの主は、もちろん本書の著者であるブレアである。ブレアはモルモン教徒であると同時に、プロチョイス派(後述)である。宗教右派を含むより多くの人に自分の主張を届けるために、自身の保守的とみなされやすい属性(6児の母であり、モルモン教徒であること)を逆手にとって、ツイートをしたという。

ブレアがこのツイートをすることになった直接のきっかけは、2018年、ドナルド・トランプ前大統領が保守派のブレット・カバノーを連邦最高裁判所の新判事に任命したことである。新判事への指名を受けたのちの公聴会で、カバノーをはじめとした男性政治家たちは中絶について議論していた。彼らの発言を聞いて、ブレアは怒り心頭に発したという。あるインタビューにおいて、当時の気持ちを次のように語っている。

彼らが中絶の問題を理解していないことは、私には明らかです。……彼らは中絶をめぐり生じていることを本当に理解しておらず、中絶をただ政争の具として使っているだけなのです。(※4)

そして、怒りにまかせ上記の63件のツイートをするに至ったという。この63件のツイートを、議論を喚起するために自信たっぷりにブレアは投稿したわけではない。むしろ「緊張していました。もし誰も読んでくれなかったらどうしよう。63件のツイートってどれくらいで削除できるのかしら」という想いを抱き、迷いながらの投稿だったという。しかし、ブレアの自信のなさからは意外ともいえるほど、このツイートの反響はすさまじかった。ツイートをした数時間後には報道機関から問い合わせがきて、数週間後には世界中を飛び回りこのツイートについて議論を重ねることになったという(※5)。

話題となった2018年のツイートをもとに、2022年10月に一冊のハンドブックとして刊行したのが本書である。本書刊行のタイミングは、アメリカ国内では非常に時宜を得たものとなった。なぜなら、ちょうど2020年前後はアメリカ国内で中絶をめぐる議論が再び盛り上がってきており、とりわけ2022年6月にアメリカの中絶史において一大事となる事件が起きてからすぐの刊行となったからだ。その大事件とは、かの有名なロー対ウェイド判決(後述)が連邦最高裁判所の判決により覆されたことだ。ブレアは、中絶の権利が危機に瀕しているアメリカ社会の状況を目の当たりにして、本書を刊行する意義を再確認したという(※6)。

※4 Book by mom of six puts onus on men to stop unwanted pregnancies, npr(2023年5月22日アクセス)。

※5 Gabrielle Blair: I want men to think of sperm as dangerous, The Times(2023年5月22日アクセス)。

※6 In Ejaculate Responsibly, Gabrielle Blair Makes Abortion a Men’s Issue, VOGUE(2023年5月22日アクセス)。

※第2回目は、明日8月2日(水)17時に配信予定です。

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『射精責任』望まない妊娠への28個の提言…世界的ベストセラーの日本語訳版が上陸
『射精責任』オリジナルコンドームデザイン

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『射精責任』概要

刊行前からSNSで話題沸騰!ニューヨークタイムズ・ベストセラー、世界9カ国で翻訳された『射精責任』が7月21日ついに日本上陸‼
『射精責任』書影

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