10代女性の内密出産。国内初となる慈恵病院の決断は“望まない妊娠“の受け皿となるか(僕のマリ)

2022.1.24
僕のマリ

文=僕のマリ 編集=高橋千里


2022年1月、10代女性が熊本の慈恵病院で「内密出産」をしたというニュースが話題になった。新型コロナウイルス流行によって増加した“望まない妊娠”と、国内初となる内密出産制度について、文筆家・僕のマリ氏が考える。


コロナ禍で会えなかった、1歳の姪との初対面

正月に帰省して姪と初めて会った。

生まれる前からずっと会いたかった。コロナ禍での出産かつ、遠方に住んでいる兄夫婦とはずっと会えていなかったので、お互いの近況を話し合った。ご時世柄、人と触れ合う機会が少なかったので、1歳の姪は知らない人に会うとびっくりして泣いてしまう。わたしと、彼女にとっての祖父母が出迎えたときも、一瞬で口を曲げて大泣きしていた。

時間が経つと慣れて、くっついたり一緒に遊んだりした。笑っていても泣いていても、その姿はかわいらしく和む。絹のような髪をさらさら撫でて、水分の多い瞳に自分を映す。まだ言葉は話せないが意思が強く、「いないいないばあ」を見せてとねだってきたり、階段を上り下りしたいと何度も廊下に出たりしていた。皆が目尻を下げ、姪のダンスや階段を踏みしめる足を眺めていた。

3日間一緒にいただけで、離れるのがとても寂しい。帰省中に撮った姪の写真や動画を、飽きることなく眺めている。

もうひとりの兄の子供も女の子で、昨年末に会いに行った。彼らはずっと子供を望んでいただけに、生まれてきてうれしいと言っていた。

「男の子/女の子らしく」という呪いと、それに伴う危険

すくすくと育っている姪たちの成長がうれしい反面、女の子だとつい心配してしまう。自分が経験してきた不条理やつらい出来事を思い返しては、彼女たちには同じ苦しみを味わってほしくないと思う。

女が嫌だとか、男のほうが楽だとか、そんなふうには思わない。どちらにもつらい側面があり、「こういうものだから」と担われた役割があって、そんな呪いに縛られてきた。

わたしが子供のころはまだまだ「男の子/女の子らしく」という考えが世に根づいていたから、周囲の期待に外れた選択をするのが怖かった。

女の子らしくしていたら、それはそれで痴漢や不審者に狙われたりと、危険を伴う。もう何が正解なのかわからなかった。セクハラやパワハラに遭うのは自分が悪い、そう思うと若い女性でいるのがつらかった。

だから、この数年でフェミニズムについて考える人が増えたり、女性の権利や生き方に視線が注がれたりしているのが本当にうれしい。これがもう少し前だったら、と思わないこともないが、少しでも自分らしく生きられる世の中になればいいと感じる。

そのためには、あらゆる弱者の声を拾い、助けを乞う人々の受け皿を用意する社会が必要だ。

新型コロナウイルス流行による“望まない妊娠”の増加

2020年春から、新型コロナウイルスの流行による全国的な休校があった。各都道府県の妊娠相談窓口には「妊娠したかもしれない」という10代の少女からの相談が相次いだことが報道された。

親が育てられない子供を匿名で預かる「こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)」を運営する熊本の慈恵病院の妊娠相談窓口も、過去最多の相談件数にのぼったという。

こういった妊娠に至る背景としては、外出自粛でパートナーとの接触が増えたこと、収入減で経済的に困窮して売春したことなどが挙げられる。他者との関わりが減り、誰にも相談できないまま妊娠後期を迎えてしまう痛ましい例もある。

世界中が未曾有の危機に直面するなか、人に会えないことや、生活費が稼げないことで行き場を失った人は少なくない。誰にも相談できず、パートナーの協力も得られないまま孤立してしまう妊婦の心情を考えると胸が痛む。

※画像はイメージです

そんななか、年明けにこんな報道を目にした。

妊婦が身元を明かさず出産する「内密出産」という制度を導入している熊本の慈恵病院で、未成年の女性が匿名のまま出産した。

「病院で出産できなければひとりで産んで捨てていたかもしれない」と語る女性と、「危険な孤立出産を防ぐためにも内密出産を継続していく」と宣言した慈恵病院の蓮田健院長。

報道されたばかりのニュースだが、やはり賛否両論ある。「内密出産は認めるべきでない」という声も上がるなか、矢面に立ち小さな命を守りつづける蓮田院長に畏敬の念を抱く。

望まない妊娠をしてしまったときに、「内密出産」という選択肢があることを知っている人はどれくらいいるのだろうか。

独自に「内密出産」制度を取り入れた、慈恵病院の英断

国外では、フランス、イタリア、ルクセンブルクなど一部の国では匿名での出産が法的に可能だ。

また、産んだ赤ちゃんを育てることができないと判断したときに、匿名で預ける「赤ちゃんポスト」を合法とする国も、いくつか存在する。先駆的活動をしているドイツをモデルとして日本で設立されたのが、慈恵病院の「こうのとりのゆりかご」だ。

赤ちゃんポストの是非をめぐって激論が交わされてきた日独両国であるが、その代替策として導入されたのが、ドイツの「内密出産制度」だ。なんらかの困難な生活環境に置かれ、妊娠していることを周囲に知らせたくない女性が、仮名で医療機関において医療手当を受けながら分娩できる制度である。

今回慈恵病院が報告した内密出産も、ドイツの例を参考にしたとされる。現状日本では、匿名で産まれた子の出生の届け出と戸籍制度には課題があり、法整備がなされていない。そんななか独自に行った内密出産は、世間を揺るがした。

しかし、病院が語った「孤立した妊婦の実情」は胸を打つものがあり、人々の関心を集めた。まだまだ課題はあるが、慈恵病院の英断がひと筋の光となったことは、言うまでもない。

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僕のマリ

(ぼくのまり)1992年生まれ、物書き。犬が好き。2018年、短編集『いかれた慕情』を発表。ネットプリントで印刷できるエッセイをたまに書いている。

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