東出昌大のタバコ論と“意識低い系”でいたい理由「いい猟師になるためには禁煙したほうがいい。でも…」:人生相談連載「赤信号を渡ってしまう夜に」

取材・文=安里和哲 撮影(TOP画像)=西村 満 編集=菅原史稀


「こんな時代だからこそ、もっと話したほうがいい」

人生相談「赤信号を渡ってしまう夜に」では、俳優・東出昌大が「すねに傷のある僕にしか話せないこと」を募集し、対話していく。

第5回は、「肩身の狭い喫煙者」と「育ての親との関係に悩む女性」の声に、応答する。

自身も喫煙者である東出は、社会の息苦しさを語る一方で、自分の抱える矛盾も吐露。また、親子関係への悩みに対しては、「親子も、個と個である」という考え方を提案する。

【連載】赤信号を渡ってしまう夜に(東出昌大)記事一覧

#1:「大人ってちょっとずつ、建前のルールを破る」
#2:「仲よくなりたい相手には、利益を与える必要がある」
#3:“推し活”に思うこと「でも、好きになっちゃったらしょうがない」
#4:濱口竜介監督に伝えた「僕、この気持ちはわかりません」──映画に“正しさ”を求めるべきか?
#5:東出昌大のタバコ論と“意識低い系”でいたい理由

シカの命を無駄にしないための施策

東出「自宅の椅子から眺められる桜。見飽きない」

最近、山での生活はいかがですか?

ここのところ、シカ肉の解体処理施設を本格的に始動する準備をしています。

ジビエ(狩猟で得た野生鳥獣の食肉)として販売するんですか?

いや、人間の食用施設となると設備投資がかなりかかるので、それはやめました。ペット用のジャーキーを作るための施設です。こっちでは、行政からシカの殺処分のノルマが課せられるんですよ。そこで仕留めたシカは、食べずに山に埋めているんです。

公開中のドキュメンタリー映画『WILL』でも言及されていた問題ですね。

そうです。野生のシカの命を奪って、それを糧にすることもなく捨てている現状にはずっと疑問を感じていました。「ただ捨てられる命」はなるべく減らすためにジャーキーを作る事業を立ち上げることにしたんです。

これから前任の方に操業方法を教えていただき、6月ごろから販売開始できるように進めています。

東出「朝6時に“ジョナさん”から入電。7時に届けてくれた鹿」

俳優業と猟師活動に加えて、解体処理施設の運営もやると大変そうですね。

まぁ実際に稼働したら、若い子たちを中心にやってもらう予定で、僕はサポートに徹するつもりです。立ち上げにあたっては、名の知れてる僕が船頭になったほうが、話が進みやすかったんですよね。

山に移住してまだ間もないのに、事業まで立ち上げるとは驚きです。

無駄に捨てられていく命を減らしたいのは、山の皆の総意であって、僕ひとりでやってるわけではないので。この施設によって、自主自立のコミュニティ作りが進めばいいなと思っています。

シカを獲ってくる後期高齢者のおっちゃんたちや、ここに移り住んできた若い子たちに、利益が再分配されたら、Win-Winですよね。僕の世代って、生まれてこの方ずっと不景気と言われ続けてたので、上の世代にはもう期待してないんです。だからせっかくの資源を換金・蓄財をし、力を溜めて、困った人がいたらすぐに助けられるようなコミュニティを自分たちで作っていけたらと思っています。

では、相談に移りましょうか。

矛盾を生きることが人生

Letter No.09
都内在住の喫煙者です。かつては少なくなかった喫煙できる飲食店などが、最近東京ではあまり見かけることもなくなりました。喫茶店でタバコを吸いながら過ごすことが好きだったのですが、今や喫煙ができるところでも狭いブースの中に限られていることが多いため、ゆったりと過ごせる感じではありません。

禁煙化に向かう社会にフィットしようと、数年前にタバコをやめてみたこともありましたが、結局これまでの習慣を手放すことができずに再度吸い始めました。副流煙は迷惑がかかるし、禁煙の場所のほうが非喫煙者の方にとって過ごしやすいことは理解しています。そこまでしてなぜ自分はタバコを吸いたいんだろうと、自問自答をするようになりました。単純に考えて「タバコを吸うこと=楽しみ・息抜き」なのですが、楽しみや息抜きの手段にも理由がほしくなる時代になったと感じています。

喫煙者である東出さんがタバコを吸う理由って、何かありますか?自分自身を納得させる言い訳の参考にしたいです。あと、これは相談と関係ないかもしれませんが、もしもタバコと関わりのある印象深いエピソードがあったら聞いてみたいです。

僕が喫煙するのは、快楽を得るためです。これに尽きます。タバコを吸ってると「生を謳歌しているなぁ」という実感が得られる。相談者の方と同じだと思います。人生って死ぬまでの暇つぶしだから、その暇つぶしを楽しく過ごすために、僕らはタバコを選んでいる。それで死が早まったとしても僕は別にいい。

私はタバコを吸わないんですが、肩身の狭そうな喫煙者は気の毒です。新幹線から喫煙ルームが消えたのもショックでした。

安心安全、綺麗漂白の時代で、どうしたってタバコは標的になりやすいですよね。でもこうやってありとあらゆる「有害」なものを禁止していく流れは、やっぱり息苦しさを生んでいると僕は思います。

今は、言葉の上では多様性って言われてますけど、むしろ相互監視が厳しくなって、お互いに対して厳しくなっている。あれやっちゃダメ、これやっちゃダメって張り紙も増えているじゃないですか。

「公園でボール遊びをしてはいけません」とか。

そうそう。9・11以降、「テロ警戒中」の張り紙が出てきて、監視カメラが増えました。コロナ以降は「消毒の協力をお願いします」の張り紙も至るところに貼られて、コロナ禍が落ち着いた今も貼りっぱなしです。

規制って一度始まってしまうと、それ以前にはなかなか戻れないんですよね。我々は今、安心安全の世界を目指すがゆえに、真綿で自分たちの首を絞めてる。タバコもその流れで槍玉に挙がってるんじゃないかな。

東出さんの狩猟の師匠・服部文祥さんは、命の危険にさらすことが許されるのは「山登りだけ」とおっしゃっていました。人間が命がけで「生を謳歌すること」を、現代社会は許さない、と。

そうですね。本当の意味での多様性の実現って、自己責任を認めることだと僕は思うんです。それが自由ってことじゃないですか。だから極論、登山にチャレンジして命を落とすのも、タバコを吸って体を壊すのも、その人の勝手。

僕はもう「意識低い系」でいようって決めたんです。やれコンプラだ、やれポリコレだって言葉だけがひとり歩きして、無数の匿名の人たちが毎日、誰かを糾弾している。そうやって互いを監視し合って息苦しくなるより、意識低い系で持ちつ持たれつ、お互いを許し合ったほうが、ずっと健全だから。

最後に「タバコと関わりのある印象深いエピソード」も教えてください。

亡くなった父の話をします。父は肝臓癌を患ってたんですが、肺に転移したタイミングで「タバコやめる」と言い出しました。「じゃあ俺も付き合うよ」って僕も禁煙して、兄と私はやめたんですね。でも、1カ月後に、父が隠れて吸ってたことがわかった(笑)。

残り少ない命を縮めるとわかっていても、吸いたい気持ちのほうを優先した。

そういうことですよね。そこからは、まぁ余命は短くなるかもしれんけど、今までどおり吸おうやってことで、僕ら兄弟も喫煙を解禁しました。

東出さんがタバコを止めることはもうないですか。

いやぁ、どうだろうね(笑)。僕の「タバコ論」って、まだグダグダなんですよ。いっそ、JTがタバコを売らないでくれたら吸わないで済むのに!と思う日もあります。服部(文祥)さんからも「タバコだけは、やめな」と言われるんです。たしかに体力は落ちるでしょうから、もっといい猟師になるためには、止めたほうがいい。

わざわざ高い金払って、体悪くしてる自分はバカだなぁと思うんだけど、やっぱり一服すると、幸せを感じるんだよなぁ。この矛盾を生きることが人生だって思いながら、僕は意識低い系でやっていきます。

親と子も、孤独な個と個でしかないから

Letter No.10
私は生まれて直ぐに育ての両親(養父は他界)のところに養子として来ました。養父母に子供が出来なかったからです。

私が小学校に入る頃、そのことを養母から聞かされましたが、何と無くそのことは養父母と私の間で口にすることはタブーのような雰囲気でした。

しかしながらその数年後に生みの親に会う機会がありました。私の上には5人の姉がおり、そのうちの何人かとも会うこともできました。しかし私にとっては養父母が親であり、生みの親には感謝はしていますが、特に何と言う感情も持てず、姉たちを見ても不思議な気持ちになるだけでした。

そのことは養父母にも話しましたが、私の気持ちが生みの親、姉たちにいってしまってるのでは、戻りたくなってしまったのでは、と疑心暗鬼になった養母はよく酔っ払っては「もう向こうの親のところに帰りたいでしょう」などと絡んでくることが多くなり、その度に宥め、時には涙ながらに否定もしてきました。

そして何十年も経ち、養母は83歳、私も50歳を超え、生みの親は他界してしまっていますが、養母も人生の終わりを見据えてなのでしょう、先日お線香をあげに連れて行かれました。一人の姉にも会い、これから仲良くしなさいと言われました。

私のこれまでの気持ちは何だったのか? 口にすることさえはばかられた生みの親や姉たちのこと、まるでなかったかのような行動に腹が立つと同時に、これから仲良く出来るのが嬉しくて仕方ない様子の姉に対して、とても引いてしまっている自分がいます。そんな自分はおかしいのでしょうか。

言葉足らずの説明不足の点多々あるかと思いますが、もし東出さんなりの少し離れたお立場からのご意見お聞かせいただければ嬉しいです。

50歳を超えているということで、人生の先輩に対して僕がアドバイスするのはおこがましいよなと思うので、あくまでも対話ということで聞いてほしいです。まぁこの「人生相談」は常に対話のつもりですが。

まず、「これから仲良くできるのが嬉しくて仕方ない様子に対して、とても引いてしまっている自分がいます。そんな自分はおかしいのでしょうか」ということですが、湧き起こってしまった感情には、正しいもおかしいもありません。それをどう表現するかが問われるのであって、その気持ちを抱いた自分を否定する必要はない。

それに僕がもしこの相談者と同じ立場に立ったら、自分もその実の姉に対して引いてしまう気がする。血がつながっているだけなのに、初対面でガンガン距離を詰めてくる人とすぐ打ち解けるなんて無理だと思います。

育てのお母さんに言われた「もう向こうの親のところに帰りたいでしょう」や「姉とこれから仲良くしなさい」という言葉に突き放されたような気持ちがして、相談者は本当につらかっただろうなと思います。

そうですね。でも、お母さんがこの娘さんを愛していることはたしかだと思う。相談者さんもそのことは理解しているんだろうなと感じました。

ただ、親子といえども、孤独な個と個ですからね。お母さんだっていろいろ不安を抱えながら育てあげて、深酒したときについ自信のなさが頭をもたげてしまったんでしょう。実姉と仲良くしなさいというのも、自分がいつか他界したあとのことを考えて、兄弟のいない娘さんのために言っているのかもしれない。

この文面からは、相談者とお母さんがお互いを思いやっていることが伝わってきます。だけど、その表現の仕方がズレてしまっている。繰り返しになるけれど、親と子も個と個だから、そうやってすれ違うんですよね。それでもあきらめずに、お互いのことを「いいお母さんだな」「いい娘だな」と、労わり合えることを祈っています。

「私のこれまでの気持ちはなんだったのか」という一文はいかがですか?

「これまでの気持ち」にこだわりすぎなくていいと思います。相談者の方にとって、この記憶は不変で強固なものに感じられるかもしれない。でも過去の記憶って、時間が経つにつれて、知らぬ間に新たな解釈にすり替わったり、細部を忘れてしまったりして、改変されていくものです。記憶ってすごく不安定なんですよ。記憶は真実ではない。

少しズレるかもしれないんですが、過去の記憶に自分のあり方を求めてしまうと、それが呪縛になって身動きが取れなくなります。だったらいっそ、記憶は不安定なものだと割り切って未来に目を向けたほうがいい。

もちろん、親や姉に腹が立ったり引いてしまったりするのも、自然に湧き起こる感情だから、無理に抑えなくていいです。でも、過去とは関係なく、「今の私」が実姉とは関わりたくないんだ、と自覚するといいのかもしれません。

人間は自分のアイデンティティをたしかめるために苦痛でさえも反復してしまうところがありますね。

「過去の傷こそが自分だ」と繰り返し思うことで、その傷つきとアイデンティティの結びつきが強固になって解けにくくなっていく。

だからこそ、過去に捉われていたその視点を180度転換して、今の自分を大事にしてあげてほしい。どんなことが楽しくて、何が心地いいのか。これからの人生をどうしていきたいのか。そっちの方向性で考えられたらいいですよね。

未来のほうを向くためにできるアクションって、具体的にどんなことがあるでしょうか。

歩くことかな。僕は散歩信者だから(笑)。部屋の中でいろいろ考えてしまうなら、毎日散歩することをルーティンにするといい。できれば朝がいいです。日光を浴びると精神を安定させる脳内物質のセロトニンが分泌されるし、歩きながら未来のことを考えると、思考がはかどるから。

昔の哲学者はよく歩いていたと言いますよね。

そうそう。歩きながら考えるのって理にかなってるんです。抑うつ的な状態に陥ってしまったときほど、動いたほうがいい。まぁめんどくさいんですけどね。

だから、コーヒーを一杯淹れるだけでもいい。そうやって気分転換しながら、前を向いてほしいです。若輩者から言えるのはこれくらいでしょうか。また、お話ししたくなったら、ここにメッセージをください。

東出の人生相談連載「赤信号を渡ってしまう夜に」は、月2回のペースで公開。2024年4月号は、近日公開予定の後編へ続く

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