東出昌大「仲よくなりたい相手には、利益を与える必要がある」:人生相談連載「赤信号を渡ってしまう夜に」

取材・文=安里和哲 撮影(TOP画像)=西村 満 編集・文(リード箇所)=菅原史稀


東出昌大はかつて、自らの“失敗”からコミュニケーションに対する考えが変化したと語った。

「人から悩み相談を受ける機会も増えたんですよ。すねに傷のある僕にしか話せないこともあるらしくて」

「昔は作品を通じて、観客やファンの方、同業者とコミュニケーションが取れればいいと考えていて。でも、やはり純粋に会話や相談というかたちで交流することも必要なんですよね。こんな時代だからこそ、もっと話したほうがいい」

インタビュー<東出昌大が考える、“SNSの炎上”との正しい向き合い方。「ネットの誹謗中傷は、便所のラクガキ」>より

これは、そんな彼がさまざまな悩みを抱える読者と「人生相談」を通じて対話を試みる企画だ。

第1回では、本連載への思いを明かしていた東出。読者から寄せられたメッセージに対して、文章だけでは各自の意図が理解できない可能性がある不安、そして“人生相談”が相談者側だけの視点に偏ってしまう性質を持つことから「あらかじめそういった限界を抱えている企画だと思う」とした。

しかしその上で、彼は「できる限りのことはやってみたい」と考えているという。その理由については、これから始まる連載第2回の結びで語られている。

【連載】赤信号を渡ってしまう夜に(東出昌大)記事一覧

“二兎を得る”こともある

Letter No.03
10年来のパートナーがスポーツカー好きで、そんな彼への憧れもあり、最近私もマイカーを買いました。どうせスポーツカーを買うならと自動車競技を始めて、大会や練習会に行っています。

彼と趣味を共有できるだろうといううれしさもあり、練習を指導してほしいと大会に誘ったところ、「競技に打ち込む熱意についていけない」と言われました。彼から禁止されたりといったことは無いです。

が、一緒に趣味を楽しめたらと期待していたこともあり、すごく空虚な気持ちになっています。彼との時間や関係を捨てて競技に打ち込んでいいのか、それとも……今後の身の振り方について、なにかアドバイスをいただけないでしょうか。

うーん、これは人生相談の回答で一番言っちゃいけない言葉だと思うんですが……知らんし!と思いました(苦笑)。

私はけっこう興味深い悩みだなぁと思ったんです。もともと恋人が好きだった趣味なのに、自分のほうが熱量で上回って引かれるのもスゴいなと。

その情熱はおもしろいですよね。でも、悩みとしてはよくわからなかったなぁ。

恋人を取るか、趣味を取るか、どちらかを選ばないといけないっていう二択だったらたしかにキツいと思います。でも単純に、彼との関係を続けながら競技に打ち込むってできないのかな? 趣味を恋人と一緒にやるという選択肢はなくなったのかもしれないけど、彼と付き合い続けながら、競技も続ける。そうやってどっちもうまくやる方向性を探ればいいんじゃないですか?

なるほど。

よく「二兎を追う者は一兎をも得ず」っていうし、それは猟師の感覚としては正しい。目の前に獲物が二頭いるとき、どちらも仕留めようとするよりも、一頭を丁寧に獲ったほうがずっといいんです。そのほうが損傷も少なく、可食部を多く残せるから。でも、この相談者さんの場合、彼とスポーツカーは、二兎じゃないんですよ。一つひとつの問題なんです。

たしかにそうですね。

両方の問題を切り分けて、それぞれ最善を尽くせば、どっちも失わなくて済むと思うんです。だから天秤にかけるっていうのがそもそも違うのかなと。まずは二兎を得る方向で考えてみたらいいんじゃないかな。

人間関係における利益とは?

Letter No.04
私は人を誘うのが苦手です。自分から遊びに行こうと友達に連絡するのにすごく勇気が必要で、よっぽどのことがない限りは自分から連絡しません。付き合いが長くても、です。

相手には相手の生活があるから、私が連絡することで(遊ぶ時間を含め)時間を取られるため生活の邪魔をしてしまうんじゃないか、と考えてしまうからです。

皆家庭があったり彼氏がいたり友達が多かったり……暇なのは私だけでほかの人は忙しいのに申し訳ないなとか、私ごときが図々しいよなあとも考えます。

自分は友達に遊びに誘ってもらえたらうれしいのに、どうしてもできないのです。そのせいで、ひとりでどこへでも行くようにもなりましたが……。

友達に話してみたところ、「そんなこと(誘うことを躊躇[ためら]うとか)考えたこともない」と一蹴されてしまいました。こんなネガティブな考え方するのって私だけなのかなあと思い、そんな奴に誘われてもなあ、なんて余計に誘うことに抵抗が出てしまいました。

東出さんは人を誘うことに対して特に躊躇いはありませんか? それとも誘われる機会が多すぎて誘うことは少ないですか? また、うれしい誘われ方ってありますか? ご意見をお伺いしたいです。

「すべての友情は利益から発する」という言葉がヒントになるかなと思いました。

これは僕が好きな古代ギリシャのエピクロスという哲学者の言葉です。「友情なのに損得勘定かよ」と訝(いぶか)しむ人もいるかもしれませんが、僕はこの言葉を、「誰かと仲よくなりたいなら、相手に対してなにかしらプラスを与える必要がある」ということだと解釈しました。

東出さんはいつもどんな利益を与えようとしていますか。

僕はやっぱり山にいるので、狩りや釣りに誘うこともありますけど、相手がシティボーイで自然も虫も苦手みたいなヤツだったら、「今度東京行くから飲もうよ」って言うかな。相手にとって何が利益かを考えるのはすごく大事ですよね。自分が詳しいことに相手を無理やり付き合わせたらダメだし。

でも、ここでいう利益って、有意義なことをするとか、金が儲かるとかじゃないですよ。「あなたと仲よくしたい」という思い自体がポジティブで、有益じゃないですか。好意を持たれること自体はうれしい。だからそこは気にしすぎなくていいと思うんです。

でも、ストレートに言葉にして「あなたと友だちになりたい」とか「好きだよ」って言いすぎても、なんだかうっとうしい。恋愛だったらストーカーになりますし。

このポジティブな気持ちを、相手にとって心地いい方法で伝えられるだろうかって考えるところから始めればいいんじゃないかな。

「自分なんかと関わっても、おもしろくないんじゃないかな」と気に病む人もいると思うんです。

別におもしろくなくていいじゃないですか、ポジティブな空気をまとっている人と一緒にいれば、それだけで心地いい。それだってじゅうぶん利益です。

「コイツといたらなんか気分いいな」とさえ思わせれば、ふたりきりで喫茶店で会話が止まっても、なんか楽しくなると思うし。逆に、「どうしよう、会話が盛り上がらない……」ってひとりでネガティブに入っちゃうと、相手もその空気を感じ取っちゃう。みうらじゅんとか、中島らもみたいにおもしろい人なんてめったにいないんだし、「おもしろいこと話さなきゃ」って焦る必要はないと思うな。

今回届いたお悩みの中では、友だちがいない系の悩みが最も多かったんです。共通してるのは、相談文に「こんな自分」っていう言葉が出てくることで。

「こんな自分」とか「自分なんて……」っていうのは自然と湧き起こってしまう感情なので、それをなくすのはなかなか難しいと思います。でも「こんな自分」を真剣に悩んで、わざわざここに相談メールを送ってこられるような人は、その時点でそこそこおもしろいと思いますよ。

そもそも別に友だちいないからってネガティブにならなくていいよ、って言ってあげたいかな。人は孤独がデフォですから。

ありふれた正義じゃない話でラクになってもらえるように

愛犬・シーちゃんと(写真提供=東出昌大)

人生相談企画、実際にやってみていかがでしたか?

いやぁ、やっぱり難しいですね。この企画は、あくまでも「それっぽいことを言う」ことになるような気がしました。僕もまだまだ若輩者だし、こういう人生を歩むような、偏った人間だから。そういう事情を頭の片隅に入れて読んでもらえるとありがたいです。もちろん相談者の方の人生がよりよくなるように精いっぱい答えますが、どうしたって至らないところはあるでしょう。

こうやって話してみて、これから僕が伝えていくことはたぶん、ありふれた正義の話じゃないだろうなという予感がしました。こんな時代だからこそ必要な、ルールに囚われない話が出てくると思う。それこそ、連載第1回で僕がしたお話のように「たまには赤信号も渡るよね」っていうような。今の社会で息苦しさを感じている人が、少しでもラクになってもらえるようにがんばってみます。

本連載では、読者の皆様から引き続き人生相談を募集中! 東出さんに相談したいお悩みがある方は、どうぞ下のボタンをクリックしてお寄せください(※お答えできない場合もございます。あらかじめご了承ください)

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安里和哲

(あさと・かずあき)ライター。1990年、沖縄県生まれ。ブログ『ひとつ恋でもしてみようか』(https://massarassa.hatenablog.com/)に日記や感想文を書く。趣味範囲は、映画、音楽、寄席演芸、お笑い、ラジオなど。執筆経験『クイック・ジャパン』『週刊SPA!』『Maybe!』..

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