オダギリジョーが“原作なしドラマ”にこだわる理由「ビジネスよりクリエイティブで勝負したい」

2023.11.15

文=安里和哲 撮影=矢島泰輔 編集=高橋千里


FODオリジナルドラマ『僕の手を売ります』が、FODとPrime Videoにて配信中だ。

多額の借金返済のために全国各地で働くオークワが、「人探し」を頼まれたのをきっかけに、数々のトラブルに巻き込まれていくロードムービー。主人公のオークワを演じるのはオダギリジョー。彼は本作でプロデューサーも務めている。

そんなオダギリが「同世代のスーパーヒーロー」と称えるのが、本作の脚本・監督を務める冨永昌敬だ。冨永監督に自由に撮ってもらうことをテーマに、本作はスタートしたという。

盟友であるふたりに、ロードムービーの魅力や、原作のないオリジナル作品へのこだわり、俳優がプロデューサーを兼任する意義を聞いた。

ロードムービーが深める「スタッフとキャストの結束」

オダギリジョー 1976年生まれ、岡山県出身。アメリカと日本でメソッド演技法を学び、『アカルイミライ』で映画初主演。以降『メゾン・ド・ヒミコ』や『ゆれる』など、作家性や芸術性を重視した作品選びで唯一無二のスタイルを確立。『悲夢』『宵闇真珠』などにも出演し、海外の映画人からの信頼も厚い。今年の公開に『658km、陽子の旅』『月』『サタデー・フィクション』

──ドラマ『僕の手を売ります』は素晴らしいロードムービーでした。横須賀や東北、四国などで実際にロケ撮影をされていますね。

オダギリジョー(以下:オダギ 冨永監督がわりと早い段階から「横須賀の姉妹」とか「山形の准教授」ってワードをいろいろ挙げていて、それがすごくおもしろそうだなと思ったんです。泊まりがけのロケもコロナ禍以降少なくなったんですが、ようやく動き出したぞと実感したくて、日本中を巡るロードムービーにしたかったんですよね。監督はシナハン(※)もかなり行かれてましたよね。

※シナリオハンティング:脚本を書くために、舞台となる場所に実際に足を運ぶ取材

冨永昌敬(以下:冨永) いろいろ行きましたね。ムダになったところもありましたが(笑)。

──どんなシナハンが実現しなかったんですか?

冨永 オダギリさんに教えてもらった鹿児島の、大量に鶴が来るところとかですね。気持ち悪いぐらい鶴が飛来するんですよ。そこでオークワが鶴に囲まれるシーンを撮りたかったんですけど、いろいろあって実現しなかった。

冨永昌敬(とみなが・まさのり) 映画監督。1975年生まれ、愛媛県出身。日本大学芸術学部映画学科卒業。主な映画作品は『亀虫』『パビリオン山椒魚』『コンナオトナノオンナノコ』『シャーリーの転落人生』『パンドラの匣』『乱暴と待機』『ローリング』『南瓜とマヨネーズ』『素敵なダイナマイトスキャンダル』『白鍵と黒鍵の間に』など

オダギリ そうやって監督が現地に足を運んで下調べする姿には、大きな刺激をもらいました。そうした行動が作品の細部を豊かにしますから。

冨永 人探しの旅を見せるのに、行った先の土地が曖昧だとおもしろみがないなと思ったんです。実際に足を運ぶことで、その土地土地の食べ物を自分の車で調理して食べるシーンも見せたくなりました。

オダギリ 移動先をもっと南北に広げてもよかったんですけどね。

──劇中でオークワは「北方領土と皇居以外は行った」と言ってましたね。

冨永 そうですね。東京からどれくらい離れた土地まで車を走らせているのか、その道中をもっと見せたかったんですが、そこはドラマとしての時間やテンポを優先しました。

──実際に旅をすることで、スタッフやキャストの関係性は深まるものですか。

オダギリ それはありますね。わざわざ足を運んで泊まりがけで撮影することで、共通の経験や思い出ができたり、結束が生まれたりします。

これは申し訳ないなとも思うんですが、スタッフがオークワの乗る車を東京から地方に移動させることになるじゃないですか。半日近く車を走らせたと聞くと、本当にありがたくて。でもそうしたイベントがチームの絆を深めたり、苦労を分かち合うことにもつながるんですよね。

──音楽バンドのツアーみたいですね。

オダギリ 本当にそんな感じですね。その土地の食べ物を、スタッフ・キャストのみんなで食べるだけでも盛り上がる。コロナ禍で忘れかけていたロケの素晴らしさを再認識しましたね。

冨永監督が撮りやすい環境を作りたかった

──オダギリさんと冨永監督は、本作で三度目のタッグとなりました。一度目は2006年の『パビリオン山椒魚』、二度目は2016年の『南瓜とマヨネーズ』です。

冨永 『パビリオン山椒魚』は僕にとって初めての商業映画だったので忘れがたいですね。一方的に観客として見ていたオダギリさんに出演いただいて、緊張しました。

オダギリ 冨永監督と僕は同い年なんですが、映画界にようやく自分と同世代のスーパーヒーローが現れたようなうれしさがあったんですよ。冨永監督の作品は自主制作時代から拝見していたので、『パビリオン山椒魚』は自分のキャリアの中でも勝負の作品になると思っていました。

冨永 オダギリさんはいつもそう言ってくださるのでうれしいです(笑)。僕にとってオダギリさんは俳優としての基準になっているんですよ。

──どういうことでしょうか?

冨永 アマチュア時代は、プロの俳優って自分の役割だけに徹するものだと思ってたんです。でも、オダギリさんは自ら率先して現場で動いて、雰囲気作りもしてくれて、「ここまでやってくれるんだ」と驚かされました。オダギリさんがプロフェッショナルとしてのあり方を見せてくれたんです。

でも、今回の『僕の手を売ります』では逆に「今回は監督に言われたことしかしません」と言ったんです。

オダギリ そんなこと言いましたっけ?

冨永 忘れたんですか(笑)。「普段はいろいろ現場で動いてしまうけど、今回は台本に書いてあることだけをやろうと思う」と、すごく決意した表情で言ってました。

オダギリ 全然、覚えてないですね……(苦笑)。でも、たしかにそういう意識で臨んでました。僕は冨永監督のクリエイティブを100%信頼しているから、自分が変にアドリブで広げないほうがいい気がしていたんです。

今までは俳優の意識で現場にいたから、芝居を中心に考えていましたが、今回はプロデューサーとしての意識もあったので、冨永監督の思うように撮ってもらいたかったんですよね。

──今回はクランクイン時点で、冨永監督のための環境ができ上がっていたということですかね。ところで、今お話にあったように『僕の手を売ります』はオダギリさんがプロデューサーとして入っています。どうやって企画が立ち上がったのでしょうか。

オダギリ もともとは自分でやりたい企画があって、それを冨永監督で作るべく動いていたんです。そんなとき、フジテレビの鹿内(植)さんが別で冨永監督と企画を進めようとしていると聞いて、じゃあちょうどいい機会だし、一緒にやりましょうよと手を組むことになって。

その後、僕がやりたかった企画はいろいろな問題で実現できなくなってしまい、逆に冨永監督に何かやりたい企画があれば、それを進めましょう!とシフトチェンジしたんです。

冨永 今回はオダギリさんとフジテレビで企画を作ってくださって、「イチから監督の好きなように作ってください」とオファーしてもらったので一番やりやすいかたちでしたね。普通は完全なオリジナル作品ってなかなか企画が通らないので、ありがたかったです。

クリエティブな挑戦のためなら、プロデューサーも兼任する

──日本で活動する俳優で、オダギリさんのように出演とプロデューサーを兼任するパターンは珍しいように思います。なぜプロデュース業に積極的なんですか?

オダギリ 強いていえば、やっぱりモノづくりやクリエイティブに携わりたいからですかね。役者をしていると、こういうインタビューとかで「今後やりたい役はありますか?」とよく聞かれるんですけど。

──確かにインタビュアーが聞きがちな質問です。

オダギリ でも、俳優はオファーをもらう側であって、役を作る側ではないですからね。やりたい役があったとしても、実現できない可能性のほうが高いんです。

だから、本当にやりたい役があるなら、自分で企画から進めていくしかないんです。僕が脚本・監督・出演を務めた『オリバーな犬、(Gosh!!) このヤロウ』なんて、自分で企画したからこそ実現した役ですから。

──「犬の着ぐるみを着て、警察犬を演じて」なんてオファーは、たしかにヨソからはなかなか来ないでしょうね(笑)。

オダギリ そうなんです。脚本・監督までやる必要はないかもしれませんが、もし俳優がクリエイティブなことも挑戦したいと思うなら、企画を立ち上げたり、脚本を一緒に作ったり、プロデュースから携わったほうが絶対にいい。作品に対する思い入れも責任の取り方も変わってくるから、パフォーマンスも当然変化すると思いますし。

冨永 そうやって役者の方が主体的に作品に関わってくれるのは、監督としてもうれしいです。しかもオダギリさんの場合は、最終的には全部僕に任せてくれるので。

原作のない「オリジナル作品」で勝負したい

──オダギリさんは、オリジナル作品へのこだわりも常々語られていますよね。小説やマンガといった原作のない映画やドラマを作ることの重要性はなんですか?

オダギリ 個人的に、あらゆる表現は作者がその形式で出したことに意味があると思うんです。マンガだったらマンガ、小説だったら小説という形式の上で作者は勝負した。それをなぜわざわざ映画化しなくちゃいけないのか、それに対して根本的な疑問があるんですよね。

もっというと、見せ方や醍醐味が違うわけじゃないですか。映画は映画の見せ方があるので、それを最大限利用したかたちで、オリジナリティあふれる作品を作るべきだと思っています。

映画ビジネスも大事ですが、僕にとって映画はもっとアートやカルチャーに近いものだと捉えているので、その人にしか作れないオリジナリティやクリエイティビティで勝負してもらいたいんですよね。そういう気持ちからオリジナル作品にこだわっています。

「完全オリジナルの映画・ドラマです」と胸を張って、日本の作品を海外にも紹介したい。そういう気持ちからオリジナル作品を求めてしまいますね。

冨永 僕は原作のある作品もいくつか撮ってきましたが、そういうときは「映画にすると、こうなってしまうんですよ」「このかたちもおもしろくないですか?」と提案する気持ちがあります。その結果「原作ぶち壊しだ」と怒られることもあるんですが……(笑)。

でも、いつも第一に考えているのは、原作者の方に「これだったら!」とおもしろがってもらえるような作品にしようということ。もちろん観客に満足してもらうことは前提ですけどね。

オダギリ 当然僕も冨永監督の作品は好きなんですが、やはりオリジナルで作るものには特に注目しています。『パビリオン山椒魚』の台本を読んだときのことが忘れられないんですよ。独創的で、こんなことを考えてる人がこの世界にいるのかって衝撃を受けました。

その才気を知っているから、やっぱり冨永監督には好きなことを突き詰めてもらいたい。一緒に作品が作れるなら、オリジナルで模索していきたいと思ってしまうんです。

──『僕の手を売ります』の続編も期待してしまいます。

オダギリ 続編を狙っていくためにも、本作がちゃんと届いてほしいですね。僕は夜寝る前に観ています。お酒を飲みながら毎晩1話ずつ、オークワの人生をのぞき見ながら眠りにつくのが心地いいんですよね。

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  • FODオリジナルドラマ『僕の手を売ります』

    理系の大学院まで出たものの、就職氷河期世代で大失敗をして、多額の借金を抱えた大桑北朗(オダギリジョー)。東京・町田市に妻の大桑雅美(尾野真千子)、娘の大桑丸子(當真あみ)を残し、自分は全国各地で多種多様なプロアルバイターをしながら、借金完済を目指して生きていく。しかし、人の好さに加え数々のアルバイト経験と持ち前の器用さから、どこへ行っても毎回その土地の個性あふれる人々のトラブルに巻き込まれてしまう。大桑は、無事に給料をもらい、次のアルバイトへ向かえるのか!? 抱えた借金はいつ完済できるのか……!?

    FOD/Prime Videoにて#8まで配信中(#1無料)
    #9〜#10:11月17日(金)0時配信
    ※配信日時は予告なく変更される場合があります。あらかじめご了承ください
    ※Prime Videoでの視聴には会員登録が必要です

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安里和哲

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安里和哲

(あさと・かずあき)ライター。1990年、沖縄県生まれ。ブログ『ひとつ恋でもしてみようか』(https://massarassa.hatenablog.com/)に日記や感想文を書く。趣味範囲は、映画、音楽、寄席演芸、お笑い、ラジオなど。執筆経験『クイック・ジャパン』『週刊SPA!』『Maybe!』..

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