miletが“チーム戦”で仕事に向き合う理由。「みんなで作り上げるから楽しい、人との関わりが好き」

2022.10.13

文=安里和哲 撮影=二瓶 彩 編集=菅原史稀


「今でもツアーに出ると、ホームシックになります」と笑うのは、シンガーソングライターのmilet。

2019年のデビュー以来、2度の紅白出場や、東京オリンピック閉会式での歌唱など、大舞台で多くの人に歌を届けた彼女。大舞台でパフォーマンスしてきたmiletの、等身大の姿が気になる。幼いころの記憶や仕事のやりがいなど、話を聞いた。

milet
(ミレイ)シンガーソングライター。東京都出身。思春期をカナダで過ごす。2018年より音楽活動をスタートさせた。2019年3月、ONE OK ROCKのToruがプロデュースした「inside you」でメジャーデビュー。2021年は8月に『東京2020オリンピック』閉会式に歌唱出演し、年末は2年連続となる『NHK紅白歌合戦』に出場した。2022年2月、2ndフルアルバム『visions』をリリース。公開中の映画『七人の秘書 THE MOVIE』では、ドラマシリーズに引きつづき主題歌を担当する。その楽曲「Final Call」はデジタルシングルとして発売中。

miletはウォーカーズ・ハイ?

──公開中の映画『七人の秘書 THE MOVIE』では、ドラマでも主題歌を担当されていました。

舞台が長野県の奥深いところで、風景も素晴らしかったです。7人が立ち向かう敵も手強くなっておもしろかったです。映画ではドラマにはなかった恋愛要素も新鮮でした。木村文乃さん演じる千代が、か弱くなる瞬間も新たな一面で。

──ちなみに本作の登場人物の中で、miletさんに一番近いのは誰だと思いますか。

七菜(広瀬アリス)さんかなぁ。感情が表に出やすいところが似てます。あんなふうに男性に振り回されるわけではないですけど(笑)。でも、怒るときは怒るし、怯えるときは怯えるし、喜ぶときは喜ぶ。そういうところが自分に近い気がします。

──感情を抑制するイメージを抱いていたので意外です。miletさんはひとりで9時間も散歩するんですよね。

そうですね。もちろんひとりで歩くときもありますけど、「ウォーカーズ・ハイ」って企画をやってて、誰かと歩くこともあります……といっても、私ともうひとりしかいないんですけど(笑)。ちょっと田舎のほうとか、のどかな感じも好きなので、その親友と旅行先で「あそこ行ってみよう」って5〜6時間くらい平気で歩いたりしてます。

──途中で道草を食うこともありますか。

しないです。ひたすら歩く! 食べるとしても目的地に着いたときとかですかね。とにかく歩くのが好きだから、全然疲れないんです。

──ひとりで歩くときは、どんなことを考えることが多いですか。

何かを考えるというより、普通に観光しているような気分です。新しい場所に行くと、聞こえる音も違う。ちょっとした歌詞やメロディを思いつくこともありますけど、曲のアイデアを求めているわけでもなく、歩くのが好きで歩いてるだけなんです。

日焼け止めの匂いが呼び寄せる記憶

──新しい場所に行ってまず感じるのは音なんですね。

音と……匂いや湿度、気温も土地土地で違うから楽しいです。東京で暮らしていると、朝早くから夜遅くまで、車とか電車の音が途絶えなくて、街を歩いててもイヤホンしていることが多いんです。でも、東京から離れると、風や水の自然の音が聞こえてきたり、「鳥の声ってこんな感じだったな!」って思い出してうれしくなったり。そういうリフレッシュを求めているところはありますね。

──音だけでなく、匂いや空気も感じて、五感で楽しむ。

もともと香りには敏感なんですが、それでもマスクでの生活が当たり前になってからは、外の匂いを忘れてきてて。最近はマスクを外せる機会も増えてきたので、「外ってこんな匂いだったなー!」と思うことが増えて、ますます外の匂いを嗅ぎたくなっていますね(笑)。

──この時期は金木犀とかも素敵ですもんね。

そうなんですよ。銀杏とかも「秋の匂いだー!」って感じつつ歩いてます。

──ちなみにどんな匂いが好きですか?

苔っぽい匂い。小さいときに仲よかった友達のことを思い出すんです。彼女のお家のまわりが、ちょっと湿気てて、苔が生えていて。今でも苔っぽい匂いを嗅ぐと、当時のことを思い出して懐かしくなります。

あと、日焼け止めの匂いを嗅ぐと、子供のころ連れてってもらったプールや海を思い出すんですよ。私、泳げるんですけど、平泳ぎしているお母さんの背中に乗ってプカプカ浮かぶのがお気に入りで。そうやって浮かんでるときにお母さんから漂ってくる日焼け止めの匂いがすごく好きでした。夏も大好きです。

逃げてしまったことも無駄じゃなかった

──2019年のデビューからここまで順調に活躍されている印象ですが、デビュー前のmiletさんはどう過ごされていましたか。

もちろんいろいろな挫折もしてきましたし、音楽に出会うまではいろんなものから逃げてしまったこともありました。自分にはこれしかないっていうものもないし、夢や目標もなかった。ただ音楽や映画が好きで漠然と、いつかそういうことに関わる仕事ができたらいいなと思うだけでしたね。

でも、そんな私の歌を褒めてくれる人がいて、その出会いのおかげで今歌っている。逃げ惑ったことで今があるので、あの時間も無駄ではなかったなと思います。

──どんなことから逃げましたか?

本当にいろんなことです。勉強だって上位の成績を取るときもあれば、本当にビリに近いところまで落ち込むこともありました。人間関係もうまくいかなくて、ケンカもいろいろして、体調を崩したりすることもあった。でもそうやって逃げてでも死ななかったから、なんとかなったんだという思いが今はあります。

……結果オーライっていう人生ではあるんですが、今はあの苦しい時間があったからこそ、歌える歌があるなと思える。かつての私のような人は少なからずいらっしゃると思うので、私が歌うことでそういう人たちの力や救いに少しでもなれたらいいなと思います。

──ミュージシャンとしての挫折や悩みについてはいかがですか?

悩むこと、考えることはけっこうありますけど、挫折というほどのものはまだないですね。想像とは違うこともたくさんあるけど、その期待を裏切られる感覚もこの仕事ならでは。全部おもしろがれてます。

──すごく前向きになった。

そうですね。過去の挫折を経て「死ななきゃ、大丈夫」と思えたのが大きいかもしれません。あと、今はまわりにポジティブな人が集まっていて助けられてます。周囲の人の気分の波に左右されやすい性格なので、前向きな人に囲まれて仕事ができているのは、すごくラッキーです。

誰に届けるのか、そのイメージがないと歌えない

──心を病んだ友人のために歌ったことが、歌手になったきっかけだそうですね。miletさんは、最初から歌を届ける相手がいた。

そうですね。むしろ人に向けてじゃないと、歌えないです。映画の主題歌にしても、やっぱり人と人。今回の「Final Call」はもちろん『七人の秘書』の彼女たちを思って歌いました。

でも、もっというと、映画を観て曲を聴いてくれたみなさんの人生が、前向きに進んでいけますようにと願って書いた曲です。誰に届けるのか、そのイメージがないと、私は曲は作れないし歌えない。

──miletさんはデビュー時からタイアップもすごく多いですよね。映像作品に楽曲を提供するのは難しくないですか。

もちろん簡単なことではないですけど、私はすごく好きなお仕事です。スタッフやキャストの方々が、作品に愛を持って取り組んでいる、その熱に巻き込まれていくのが楽しくて。そういう熱を生み出す歯車のひとつになれるのもすごくうれしいです。

──miletさんはあまりエゴがないんですね。

ソロで歌っていると、全部ひとりでやっていると思われがちだし、私もそういう気持ちになることもあります。でも、実際は全然そんなことはなくて、常にチーム戦なんです。今日の取材もメイクさん、スタイリストさん、マネージャー、プロデューサーの方がいて、みんなで作り上げる仕事だから楽しいと、私は思えています。

ひとりで音楽を作って、届ける人もわからなかったら、私はつづけられない。人との関わりが好きみたいです。

──『七人の秘書』に引き寄せると、それぞれ個性的な7人がチームでひとつの目標に向かうのとも似ていますね。ちょっと強引ですが(笑)。

あはは(笑)。いや、でも納得できます。こんなバラバラな人たちでも、同じ目的があったらひとつになれる。それは私の実感でもあります。

この仕事って、みんなで考えて、ときにはぶつかり合うこともある。でもその衝突はみんながそれぞれ本気で、いいものを作りたいと思っているから。みんなでアイデアを出して、創作することは私の生きるエネルギーになってます。今はその時間が楽しいんです。

作品情報

『七人の秘書 THE MOVIE』

2022年10月7日(金)より全国東宝系にて公開中

監督:田村直己
脚本:中園ミホ
音楽:沢田完
主題歌:milet「Final Call」
出演:木村文乃、広瀬アリス、菜々緒、シム・ウンギョン、大島優子、室井滋、江口洋介、玉木宏、濱田岳、吉瀬美智子、笑福亭鶴瓶
制作プロダクション:ザ・ワークス
配給:東宝

(C)2022「七人の秘書 THE MOVIE」製作委員会

出口の見えない日々に、停滞する日本社会。富める者はますます富み、貧しき者はますます貧しくなるばかり。この理不尽な世の中を変えるのは誰だ?  国や政界のトップか?  いや、そうじゃない──。名も無き影の黒子たち、「七人の秘書」が史上最凶の敵に挑む!

連載「&Life」

今気になる芸能人たちの生き方を辿る連載「&Life(and Life)」。インタビューを通して見えた、彼・彼女たちの“これまで”と“これから”とは。

第1回:重川茉弥
第2回:後藤真希
第3回:若月佑美
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第5回:工藤遥
第6回:本田仁美
第7回:横澤夏子
第8回:大久保桜子
第9回:milet

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  • 『七人の秘書 THE MOVIE』

    2022年10月7日(金)より全国東宝系にて公開中

    監督:田村直己
    脚本:中園ミホ
    音楽:沢田完
    主題歌:milet「Final Call」
    出演:木村文乃、広瀬アリス、菜々緒、シム・ウンギョン、大島優子、室井滋、江口洋介、玉木宏、濱田岳、吉瀬美智子、笑福亭鶴瓶
    制作プロダクション:ザ・ワークス
    配給:東宝
    (C)2022「七人の秘書 THE MOVIE」製作委員会
    出口の見えない日々に、停滞する日本社会。富める者はますます富み、貧しき者はますます貧しくなるばかり。この理不尽な世の中を変えるのは誰だ? 国や政界のトップか? いや、そうじゃない──。名も無き影の黒子たち、「七人の秘書」が史上最凶の敵に挑む!

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安里和哲

(あさと・かずあき)ライター。1990年、沖縄県生まれ。ブログ『ひとつ恋でもしてみようか』(https://massarassa.hatenablog.com/)に日記や感想文を書く。趣味範囲は、映画、音楽、寄席演芸、お笑い、ラジオなど。執筆経験『クイック・ジャパン』『週刊SPA!』『Maybe!』..

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