横澤夏子「仕事も子育ても100%は無理」出産後の不安を消した“ニーゼロサンゴー”思考とは

横澤夏子

文=於ありさ 撮影=洞澤佐智子 編集=高橋千里


“女子あるある”ネタでブレイクした芸人・横澤夏子。

『R-1ぐらんぷり2016』決勝進出、『女芸人No.1決定戦 THE W 2018』準優勝などの功績を持つ彼女だが、プライベートでは2017年に結婚するまで、街コンや婚活パーティーに通う“婚活女子”としての一面も持っていた。

そんな彼女は、結婚して2児の母親となった今もなお『彼とオオカミちゃんには騙されない』(ABEMA)でスタジオMCを務めるなど、数々のテレビ番組で活躍している。

婚活・結婚・妊娠・出産というライフイベントを経験しながら、芸人としても活躍しつづける彼女に、自身のキャリアを振り返り、今思うことを聞いた。


「人の行動には裏がある」日常生活にも“オオカミ”は潜んでいる?

──人気恋愛番組『オオカミ』シリーズ初回からスタジオMCを務める横澤さん。ティーンたちの恋愛を視聴者の気持ちを代弁するように見守る姿が印象的ですが、どのような目線で恋愛模様を観ているのでしょう?

横澤夏子(以下、横澤) シーズンごとに気持ちは変わりますが、最初は弟・妹を見るかのように、30歳を超えてからは息子・娘を見るような気持ちで観ています。純粋な子もいれば、恋愛経験豊富な子もいて、年齢や職業もバラバラなので、観ているこちらも疑似恋愛気分を味わえるんです。

──ただの恋愛番組ではなく、恋をしない“嘘つき”オオカミがひとり以上含まれているのが『オオカミ』シリーズのおもしろさですが、息子・娘のように見ている参加者を疑わなければならないのは、つらいのではないでしょうか?

横澤 そうですね。ただ、私たちの日常においても“オオカミ”っているじゃないですか。人の言葉や行動には、いい意味でも、悪い意味でも裏がある。『オオカミ』シリーズでは、オオカミの正体がわかったときに、もう一度、その子の言葉や行動に着目すると「あ、こういう意味だったのね」と気づくのがおもしろいんですよね。

横澤夏子

──なるほど。恋愛における駆け引きの勉強にもなりそうですね。

横澤 やっぱり普段は私と私のまわりの友達の恋愛事情しか聞かないですから、新しい気づきというのは毎回得られますよね。男の子の言動を見て「こういうことに嫉妬するのか」「こういう考えになるんだ」と勉強になることは多いです。

たとえば、今回のシーズンで、好きな女の子がほかの男の子とグループデートに行くときに、自分も一緒に行ける選択はできたのに「嫉妬するから行かない」と決めた男の子がいたんですね。それを観て「そんな選択があるんだ! かっこいい〜」と思いました。私なら絶対に行っちゃうタイプなので(笑)。

ネタにできなかった「本気の婚活」。“婚活芸人”時代の意外な葛藤

横澤夏子

──横澤さんは、ブレイク当初“婚活芸人”という肩書で取り上げられることも多くありました。そのように取り上げられることについて、当時はどう思っていたのでしょう?

横澤 正直、最初はあまり(婚活していることを)言いたくなかったんですよね。さらっと「一般男性と結婚しました」と言ったほうがかっこいいんじゃないかなって思っていたので。

でも、婚活をしていると公表したことで「どうやって婚活をしているの?」と質問されたり、「実は私も……」と言われたりすることが増えて、「みんなまわりに言っていないだけで、婚活してたんだ!」とうれしくなりました。

──なるほど!

横澤 ただ、婚活していることが広まれば広まるほど「どうせ結婚しないんでしょ?」「やっぱり、婚活をネタにしてるんじゃない?」と言われることも増えて、そのことに対しては少し複雑でしたね。その言葉をバネに「絶対に結婚してやろう」と思えたので、結果的にはよかったですけど(笑)。

──婚活もネタだと勘違いされることが多かったんですね。

横澤 そうなんです。ネタ作りのために芸人として婚活をしていたのではなく、ただただ本気で婚活をしていました。

だから「“婚活女子あるある”ネタをやってください」とお題をいただいても、何も思い浮かばなかったんですよね。婚活パーティーでは、その場にいる男性とお互いの話をすることしかなかったので、女子をまったく見ていなくて。自分と男性の会話で起きた実体験しか出せなかった。そこに対して少しモヤモヤしたことがありました。

横澤夏子

──そうだったんですね。その後、2017年に結婚されました。過去のインタビューで当時のことを「結婚はキラーカードにならなかった」とおっしゃっていたのが印象的だったのですが、詳しく教えてください。

横澤 独身のころは、“結婚”ってすごい威力を持ったカードだと思っていました。でも、いざ結婚してみたら、生活の一部でしかなかったんですよね。何も変わらなかったんです。

それから、もうひとつ印象的なことがあって、婚活パーティーで出会って結婚したことに対して「恋愛しなくてもいいんですか?」という質問をたくさん受けました。自分では、出会いの場がたまたま婚活パーティーだっただけで、ちゃんと恋愛していたので、「恋愛してないって思われてるんだ」と衝撃を受けたんですよね。

──確かに5年前は、今ほど婚活パーティーやマッチングアプリへの理解が広まっていなかった気もします。

横澤 そうなんです。その反応を見て「だから、公にしている人が少ないのか」と気づかされましたね。でも、自分自身も結婚式での新郎新婦なれそめエピソードで「婚活パーティーで出会った」と言うことには抵抗があったので、なんとなく気持ちは理解できました。

結局、友人に「婚活パーティーも人が作ったものだから、“知人の紹介”だよ」と言われて開き直ることができたんですがね。


目標は“ニーゼロサンゴー”。照準を置くことで生まれた、心の余裕

横澤夏子

──出産後も仕事をつづける女性は年々増加し、制度も増えてきました。その一方で「出産後に、今と同じように活躍できるか」と不安を感じている女性もいるのは事実です。横澤さんは今年、ふたり目のお子さんの産休から復帰したばかりですが、芸人としてブレイクしているなか、妊娠・出産を経験することに不安はなかったのでしょうか?

横澤 めちゃくちゃありましたし、今もずっとあります。妊娠中も育児中も、新ネタライブなどの制作から稽古までのカロリーを考えると、やっぱり劇場に立つことは難しいですし、子育てと単独ライブの両立って無理だろうなというのは身に染みて感じているので。

──どういうときに無理だなと感じるのでしょう?

横澤 体調の面で制限がかかるのはもちろん、そもそも妊婦でコントをするのってすごく難しいんですよね。たとえば、お酒を飲むようなコントをやっても、妊娠中だと観ている人は違和感を覚えちゃうでしょうし、妊婦姿で女の悪口のネタをやっても、胎教に悪そう……と心配されてしまいます(笑)。そう考えると、ネタの設定が意外と限られるんです。

横澤夏子

──なるほど。そのような不安を横澤さんは、どのように乗り越えたのでしょう?

横澤 2035年をピークに迎えて、絶対に単独ライブをすると決めました。ニーゼロサンゴーです!

──なぜニーゼロサンゴー(2035年)に照準を合わせようと思ったんですか?

横澤 私、人生の逆算をすることが趣味なのですが、2035年にはきっと3番目の子が小学校高学年になっているころだと思うんです。3番目の子なんて、まだできてもいないんですけど(笑)。

3人の子どもたちがある程度は自分のことができるようになったら、私もいっぱいテレビに出られるかな、単独ライブを開催する余裕が生まれるかなって。

そうやって、自分の目標を少し遠くにして「2035年までにネタを仕上げておけばいいか」と思えたら、心の余裕が生まれたんですよね。

──なるほど。まわりと比べず、自分の中で目標を設定したんですね。

横澤 それでもまわりと比べちゃうことはありますけどね。でも、すべてのことを100%でやるのは難しいので、今一番やらなきゃいけないことは何かを考えたんです。私の中で一番優先したいことは、子育てと、生活が回ること。その中でできる限り働こうと決めました。

そうやって、ちょっと余力を残すことで「私、まだこんなもんじゃないのよ?」っていう体(テイ)にして、自分も落ち着かせる。心に逃げ道を作ってあげました。

横澤夏子

──そういう考えに辿り着いたきっかけはなんだったんでしょう?

横澤 子どもの寝かしつけの時間に辿り着きました。寝かしつけの時間って、早く自分のことをしたいのに全然寝てくれなくて、最初のころはめちゃくちゃイライラしてしまったんですよ。しかも携帯を触っていると、子どもは寝てくれない。だから、寝かしつけの時間は、考え事をする時間と決めたんです。

「明日何を着て行こうかな」とか「ご飯何にしようかな」と考えることもあれば、なぜイライラしちゃったのか、そのためには何をするべきだったか、次からどうするかを筋道立てて深掘りすることもあります。そうやって自分の気持ちに耳を傾けるようになったときに“ニーゼロサンゴー”の考えに辿り着きました。

“女子あるある”も進化する!ネタのスタイルは憧れから日常へ

横澤夏子

──横澤さんがテレビに出始めたころと比べて、時代の風潮やお笑いのトレンドが変わり、また、横澤さん自身のライフスタイルも変わりました。今、どんなネタをやりたいなと考えていますか?

横澤 今までは、結婚したら、お母さんになったらこんなことを言いたい!という“憧れの女子あるあるネタ”をやってきたのですが、これからは実際に自分が経験して気づいた本当の“あるある”を披露したいです。

たとえば、子どもから服にシールをつけられたお母さんの「やだー! 子どもがつけちゃって♡」みたいなキラキラした感じに憧れていたのですが、実際は「あーもう、なんでこんなところに……」とため息をつきながらシールを剥がすのがリアルなんだなと気づきましたから。

──「そういう人いるよね」と思わせるネタ以上に、「わかる!」と共感を生みそうですね。

横澤 月日が経って、人との付き合い方も変わったし、まわりの人たちの境遇も変化しました。みんな変わらずおもしろい人たちばかりなのですが、より日常的な「わかってもらいたい」みたいな“あるある”を「これって私だけじゃないですよね?」という感じで見せていけたらなと思います。

横澤夏子

連載「&Life」

今気になる芸能人たちの生き方を辿る連載「&Life(and Life)」。インタビューを通して見えた、彼・彼女たちの“これまで”と“これから”とは。

第1回:重川茉弥
第2回:後藤真希
第3回:若月佑美
第4回:宇垣美里
第5回:工藤遥
第6回:本田仁美
第7回:横澤夏子

【関連】お笑いにおいて、女は「キャラクター」なのか──“女芸人”の葛藤と歴史、そしてこれから

【関連】後藤真希「今が一番自分らしい」モー娘。加入から22年目で気づいたこと


この記事の画像(全11枚)



  • 『彼とオオカミちゃんには騙されない』(ABEMA)

    ABEMAで放送中の人気恋愛番組。最高の恋を手にするために集まった男女10人だが、メンバーの中には、恋をしようとしない「“嘘つき”オオカミちゃん」がひとり以上潜んでいる。オオカミちゃんの甘い誘惑や嘘に惑わされることなく、最高の恋を見つけることができるのか? そして、メンバーの恋物語を増幅させる“彼”とは……?

    関連リンク


この記事が掲載されているカテゴリ

Written by

於 ありさ

(おき・ありさ)ライター・インタビュアー。金融機関、編プロでの勤務を経て2018年よりフリーランスに。サンリオ・男性アイドル・テレビ・ラジオ・お笑い・サッカーが好き。マイメロディや推しに囲まれて暮らしている。

CONTRIBUTOR

QJWeb今月の執筆陣

酔いどれ燻し銀コラムが話題

お笑い芸人

薄幸(納言)

「金借り」哲学を説くピン芸人

お笑い芸人

岡野陽一

“ラジオ変態”の女子高生

タレント・女優

奥森皐月

ドイツ公共テレビプロデューサー

翻訳・通訳・よろず物書き業

マライ・メントライン

毎日更新「きのうのテレビ」

テレビっ子ライター

てれびのスキマ

7ORDER/FLATLAND

アーティスト・モデル

森田美勇⼈

ケモノバカ一代

ライター・書評家

豊崎由美

VTuber記事を連載中

道民ライター

たまごまご

ホフディランのボーカルであり、カレーマニア

ミュージシャン

小宮山雄飛

俳優の魅力に迫る「告白的男優論」

ライター、ノベライザー、映画批評家

相田冬二

お笑い・音楽・ドラマの「感想」連載

ブロガー

かんそう

若手コント職人

お笑い芸人

加賀 翔(かが屋)

『キングオブコント2021』ファイナリスト

お笑い芸人

林田洋平(ザ・マミィ)

2023年に解散予定

"楽器を持たないパンクバンド"

セントチヒロ・チッチ(BiSH)

ドラマやバラエティでも活躍する“げんじぶ”メンバー

ボーカルダンスグループ

長野凌大(原因は自分にある。)

「お笑いクイズランド」連載中

お笑い芸人

仲嶺 巧(三日月マンハッタン)

“永遠に中学生”エビ中メンバー

アイドル

中山莉子(私立恵比寿中学)
ふっとう茶☆そそぐ子ちゃん(ランジャタイ国崎和也)
竹中夏海
でか美ちゃん
藤津亮太

QJWebはほぼ毎日更新
新着・人気記事をお知らせします。