『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』涙腺が崩壊する“ダンボールの中身”。予想を超えない誠実さを解説【ネタバレ】

2022.1.19
『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』

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執筆=しの 編集=田島太陽


コロナ禍における、洋画邦画を含む実写映画として圧倒的ナンバーワンのスタートを切った『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』。これからさらに記録を伸ばすであろう本作の魅力、ヒットの要因はどこにあるのか?

全米では累計興行収入が6.6億ドル(約760億円)を超え、『タイタニック』を抜いて歴代6位。全世界累計興行収入では15億ドル(約1760億円)を超えて『アベンジャーズ』を抜き、歴代8位に浮上した。

日本でも公開初日から4日間での動員は100万人を突破し、1月18日時点で興収25億円超え。観客からは絶賛の声が相次ぎ、『アベンジャーズ/エンドゲーム』に匹敵するほどの大ヒットとなりそうだ。

本作で描かれる物語の構造、過去作との関係性などから、その魅力を解説する。

<注意>この記事は『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』及びスパイダーマンシリーズの結末までのネタバレを含みます。未見の方は先に本作を鑑賞の上で閲覧ください。

MCU版での違和感。早く“トムホ版”の話をしてほしかった

『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』
スパイダーマンは今作でも、トニー・スタークにもらったアイアンスーツを着用

正直、今までのMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)版『スパイダーマン』には、楽しみつつも煮え切らない部分があった。 

『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』でトニー・スタークにスカウトされるかたちで急遽サプライズ的に参戦したことをきっかけに、『スパイダーマン:ホームカミング』ではベンおじさんや蜘蛛に噛まれるエピソードなどをすっ飛ばしてMCU本格参戦。

しかしやっていることはトニーの尻拭いだったし、ラストで地に足をつける選択をするも、結局『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』で半ばどさくさ紛れにアベンジャーズ加入。『エンドゲーム』を経てつづく『スパイダーマン/ファー・フロム・ホーム』では、これまたトニーの尻拭いをさせられるわけで、しかもアイアンマンの後継者探しの文脈に押し込められてしまう。

もちろん、初めてピーター・パーカーが自分でスーツを作ることで彼自身の道を歩もうとはしたものの、個人的にはやっぱりそれはトニーの遺産の上に成り立っているものだし、何より「ハイテクスーツ」だし……という違和感は拭えなかった。 

つまり、これまでのMCUスパイダーマンの歴史は、必然的にMCUという大きな世界の文脈に立脚し、ゆえに引っ張り回され、それでもなんとかNYという小さな世界を守る「親愛なる隣人」になろうと足掻いてきた歴史だったと思う。だから自分は、早くMCU文脈から脱却してトム・ホランド版スパイディの話をしてくれとずっと思っていた。 

これ以上なく誠実な「予想を超えない」映画

『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』
トビー版『スパイダーマン2』(2004年)にも登場した「ドック・オク」ことドクター・オットー・オクタビアス

そんななか、シリーズ3作目となる『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』のマルチバースコンセプトが発表されたとき、何より不安だったのは「最終作でゴチャついて終わる」という歴代スパイダーマンシリーズと同じ轍を踏んでしまわないかということ。そして単なるファンムービーに終わってしまわないかということだった。

正直、予告編の不自然なカットやらなんやらで、歴代スパイダーマン3人(トビー・マグワイア、アンドリュー・ガーフィールド、トム・ホランド)がそろい踏みすることはわかり切っていたので、そうなると最後の最後でお祭り状態で訳がわからなくなりそうだと危惧していた。スパイダーマンのドラマが蔑ろにされるのではないかと。

そうなるとサプライズ感を楽しむしかないが、しかしサプライズ要素にしたって、そろい踏み以上の何かがないと真の意味では驚かないだろうし……とモヤモヤは晴れなかったのだ。 

しかし鑑賞後の今、そのころの自分は完全に間違っていたといえる。

『ノー・ウェイ・ホーム』がやったことは、むしろ「いい意味で予想を超えない」ことだった。我々が見たかったものに最大限丁寧に向き合い、提示し、そしてその見たかったものをもトムホスパイディのドラマの決着を描くために利用するという、これ以上なく誠実な作品だった。 

自分がそれを実感したのは、あのラストシーンだ。

「自分の尻拭い」の結末が詰まった“ダンボールの中身”

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