ビートルズ27年ぶりの新曲はなぜ泣ける?「今のビートルズが何よりも尊い」理由を、ファンが熱弁(ダーリンハニー長嶋)

2023.12.1

TOP画像=The Beatles - Now And Then(Official Music Video)より

文=長嶋トモヒコ(ダーリンハニー) 編集=菅原史稀


2023年11月2日、ザ・ビートルズの“最後の曲”とされる「Now And Then」が世界同時配信された。オリジナルメンバー4人がそろった27年ぶりの新曲は、1980年に死去したジョン・レノンが遺したデモ・テープに、ほかのメンバーの演奏を重ねて仕上げられた。本作はどのような過程を経てリリースへと至り、人々の心へ届いたのか──UKロックに造詣が深い“大のビートルズファン”、お笑いコンビ・ダーリンハニーの長嶋トモヒコが語る。


「ビートルズはあります!」と言いたい理由

僕の好きな言葉に「ザ・ビートルズは解散していない」というものがあります。

これはビートルズ評論家の中山康樹さんの言葉です。解散の定義って何?って曖昧で、何年もツアーをしていないから解散? そうでもない、そんなバンドいっぱいいる。じゃあアルバムや新曲をリリースしていないから解散? これも当てはまらない。マイペースにリスナーを待たせまくっているアーティストなんて山ほどいる。誰々とかね。知らんけど。今日は歌いたくない!っていうアーティストもいます。これはとばっちりか。ごめんなさい、反省に苦いセロリ食べます。

『スターズ・オブ・’66 <ラスト・コンサート>』

ビートルズは66年を最後にツアーバンドから卒業して音楽集団へと変容しました。4人での活動はなくなりましたがみんな仲がよかったし、ジョンやジョージ(・ハリスン)がいなくなってもビートルズ名義のアルバムは定期的にリリースされています。だから、結論。ビートルズはあります! STAP細胞より確実にそこにあります。

27年ぶりのスペシャルプレゼント

前置きが長くなりましたが、その定義からいうとビートルズは超絶最高現役スーパーバンドだということになります(鼻息)。そこへきての27年ぶりの新曲発表! こんなスペシャルなプレゼントはありません。

というか、60年に全世界を席巻した「ブリティッシュ・インヴェイジョン」という英国音楽の波を先頭でサヴァイブしていたビートルズと(ローリング・)ストーンズの2大バンドがそろって新作アルバムと新作シングルをリリースするなんてうれしすぎるし、アンタたち元気すぎるだろ!と号泣しながら手がちぎれるほど拍手を送りたいわけです。

え? ミック(・ジャガー)とキース(・リチャーズ)っていくつで子供できたんだっけ? ポールの一番下の娘って今、高校生くらいだっけ?と彼らが何かアクションを起こしたときに必ずここに行き着くのはファンのお決まりコースとなっています。

「Now And Then」発表までの紆余曲折

『ザ・ビートルズ アンソロジー1』

今作「Now And Then」の発表まではなかなか簡単にはいかず、ジョンが亡くなった少しあとにビートルズのすべてを詰め込もうと制作されたアルバム『ザ・ビートルズ アンソロジー1』に遡ります。そのアルバムには未発表曲やレコーディング中の会話、リリースされる前の星屑のようなデモ音源、僕たちが知っている曲の全然アレンジの違うバージョンなどなどファン垂涎のコレクターズアルバムがあり、そのときに「新曲出したら盛り上がるんじゃね?」と、残された3人が奮起してくれてリリースされたのが「Free As A Bird」と「Real Love」の2曲。ジョンの遺してくれた音源をもとに名曲をリリースしてくれました。

そして同時にリリースする予定だったのが今作の「Now And Then」でした。ほかの2曲のようにゴールできなかった要因がいくつかあり、まずひとつは「テープに残っているジョンの声とピアノを切り離せない」ということ。

ポール(・マッカートニー)は「ピアノが聞き取りにくい」と漏らし、リンゴは「ジョンが隠れてしまっている」とそれぞれ発言しています。もうひとつは、当時の編集技術だと膨大な時間がかかってしまうこととそれに伴うメンバーのスケジュールが確保できないということでした。そしてなんといっても最大の理由は「ジョージが乗り気じゃなかった!」ということ。テクノロジーうんぬんじゃなくてこれが一番の理由だろ!と思います。

旋風を起こしたアイドル時代、一番年下で寡黙に見えるイケメンのジョージは実はかなりシニカルで頑固で皮肉屋でした。ジョンが発言のバズーカ持ちなら、ジョージは日本刀のような鋭さがあったと聞いています。であるなら、なるほどそれは頓挫するわ!と納得しかありません。

AIが現代によみがえらせた4人の姿

『ザ・ビートルズ:Get Back』

そしてビートルズ最後のシングル2曲をありがたくちょうだいした我々は、以後ビートルズの過去作を毎度愛でる無限のルーティンに入っていくこととなります。そんな平穏無事な生活が破られたのは、ドキュメンタリー映画『ザ・ビートルズ:Get Back』が公開されるというニュース。これはアルバム『Get Back』のレコーディング風景をまんま記録していた60時間のムービーを8時間の3部作にした、観る者を歓喜と嘆息の渦に巻き込んだ修行映画が発端でした。監督のピーター・ジャクソンの根気にはただただ頭が下がる思いです。

このときに活用された最新AIリマスター技術「デミックス」が今作につながるエポックメイキングな出来事でした。モノラル音源から特定のギターの音や、ボーカルを取り出してAIに学習させ、元の音源と分離させるというモノすごい技術です。訳知り顔で書いてますが、大丈夫、僕もイマイチよくわかってません。だいたい昭和は置いてかれるんです。「うんうん」って言っておけばいいんです。

それはいいとして、これによって映像・音源ともにクリアな当時の丸裸ビートルズが僕らの眼前に現れたワケです。死ぬほど長いけども!

最新技術に知的好奇心をくすぐられたポール

『リボルバー:スペシャル エディション』

そして『ザ・ビートルズ:Get Back』で培ったデミックスを応用してリリースされたのが、ビートルズが66年にリリースしたアルバム『Revolver』の最新編集盤『リボルバー:スペシャル エディション』です。5人目のビートルズと称されたプロデューサー、ジョージ・マーティンの息子であるジャイルズ・マーティンによって製作されました。

この一連のデミックスショックに我々ファンはもちろん、当のポールも驚き、知的好奇心をくすぐられたようです。ビートルズ持ち前の知的好奇心がここで存分に発揮されることになり、ずっと置きっ放しにしていた「Now And Then」へと情熱が向くことになりました。

こうなってからのポールの(ビートルズの)仕事ぶりは素晴らしいもので、誰々とやりたい! 見せ方はこうしたい!と、湯水のごとくアイデアが湧き出てきます。そして今作の製作に取りかかる上で、ポールは「テープを遺してくれたジョンに聞いてみたんだ。そしたらこう言うよ。いいよ!って」といつもの帳尻をミリ単位でフィットさせる愛嬌でゴーサインを出し、ギターソロがあるからここは保存してあったジョージのスライドギターを入れようよ!となり、ビートルズ後期のジョンの曲っていったらオーケストラでしょう!ということでジャイルズにオーケストラの発注をしてポールはニンマリ。かくして時空を越えた名曲「Now And Then」は完成しました。

「これぞビートルズ!」

The Beatles - Now And Then(Official Music Video)

さて、ここからは個人的な感想になります。フムフム、なかなかの見解ですな!と腑に落ちたい方はほかの評論スペシャリストに投げっぱなしジャーマンするとして、感情のままに吐露させていただきますと……。

もうね、とにかく「これぞビートルズ!」なワケですよ。ジョンのソロ曲だろうが、AIを駆使しようが、クリアに編集しようがジョンが歌えばビートルズ、ポールが弾けばビートルズ、リンゴ(・スター)が叩けばビートルズ、ジョージの意匠が加わればビートルズなんです。たしかにサポートミュージシャンでまかなうことは簡単です。

しかし、ポールが弾くベースには持ち前の跳ねた愛嬌を感じてしまうし、うまくないと浅い評論家たちに言われたこともあるリンゴのフィルやグルーヴ感はやはり他人では出せないものがある。これはファンびいきであることは差し引いてもまごうことなき事実であります!(泡沫野党の選挙演説の勢いで)。

曲調もロックを望む声があるのもわかります、かくいう僕もそう思うことがありました。でも違うんですよ、ロックはいつでもできるんです。戻ることなんて容易いんです。それよりも今のビートルズが何よりも尊いんです! 心が震えるのはロックだけど、心のスキマに入り込んでくれるのはバラードだと僕は思います。でもハッキリ言わせてください。今作、まあまあです。(←ココ炎上ポイント)

それよりなにより、一番のトピックはなんといってもMVです。これはかなり悪質です。ジョンの昔の自分たちを思い浮かべる横顔から始まって、さまざまな年代のジョンとジョージの演奏シーンにクロスオーバーして今のポールとリンゴが歌い叩く。過去のジョンを今のポールが冷やかし、今のオーケストラをジョンが茶化す。それをサブでポールが訝しげに眺める。ビートルズの本気と茶目っ気と職人気質と飽き性が全部詰め込まれてて涙なくして観られません! これは完全に泣かせにかかってます。やはりかなり悪質なMVといえると思います。だだひと言、ありがとう

「Now And Then」

あと、サラッとイマイチなことを言わせてもらうとそれはジャケットです。これはポールが発注したらしいのですが、もうハイセンスすぎてわからないですね。なんだったら少しダサいとすら感じてしまいます。いや、でもそれは僕の見識の低さと中二病が相まった死に至る病であって、本当はすごいジャケなのかもしれません。こういう懐の深さもビートルズである理由だと結論します。

いつだってビートルズが音楽シーンの先頭

ここまで書かせていただきやはり思うのは、僕らの前にまだビートルズがいて、それが最新で、ビートルズの仲間みんなで作り上げてくれて本当に感謝しかありません。最後のシングルとは銘打っているけど、ポールの心変わりなんて日常茶飯事だからそのキャプションは鵜呑みにしません。きっとまた最新の彼らで驚かせてくれると思います。

最後に、ビートルズを過去の偉人と思っている人がいるとしたら、その考えをぜひ改めていただきたいです。ビートルズは常に音楽シーンの先頭でした。人気があるから売れている、人気があるから最新カルチャーが集まる、売れているからできたばかりの最近機材で遊べる、売れているから思いもよらない実験を試せる。そしてそれらを深刻ぶらずにシニカルに飄々と時代の波に乗ってゆく。ほら、ビートルズってヤバくね? これはもう追うしかないでしょ! こちらのゾーンに来る方を絶賛募集中です。いつでもウェルカムです。

売れているから論を展開していたらなんか悲しくなったのでこのへんで筆を置きます。ジャーン!(ペコリ)


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  • 『スターズ・オブ・'66 <ラスト・コンサート>』

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  • 『リボルバー:スペシャル エディション』

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  • 『ザ・ビートルズアンソロジー』

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  • 『ザ・ビートルズ:Get Back』Blu-rayコレクターズ・セット

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  • 「Now And Then」(生産限定盤)

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長嶋トモヒコ(ダーリンハニー)

(ナガシマ・トモヒコ)1977年生まれ、神奈川県出身。太田プロダクション所属。相方の吉川正洋とコントデュオ・ダーリンハニーを結成。イギリス文化・音楽に造詣が深い。また、趣味の革ジャン集めや純喫茶巡りなどで『アメトーーク!』にも出演。そのほかにも歴史、美術館巡り、歌舞伎観覧、モーターサイクルと多岐にわ..

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