山下敦弘と宮藤官九郎が台湾映画をリメイク!不意に消えた“1日”を探す『1秒先の彼』

2023.8.19

中国語圏の映画の祭典、第57回金馬奨で5冠に輝いた『1秒先の彼女』の日本版リメイク映画が公開中。監督に山下敦弘、脚本に宮藤官九郎を迎え、元のメインキャラの男女を反転させる、という改作に挑んでいる。

今回は、台湾発のSF(少し不思議)ラブストーリー映画をレビューする。

※この記事は『クイック・ジャパン』vol.167掲載のコラムを再編成し、転載したものです。

2人をつなぐ「不意に消えた“1日”を探す旅」

そういう手で来たか。ついに実現したこの並び、監督を山下敦弘が務め、宮藤官九郎が脚本を手がけた映画『1秒先の彼』のことである。

ふたりは今回、かなりハードルの高いリメイクに挑んだのだが、オリジナル版は台湾映画界の鬼才、チェン・ユーシュン監督が突飛すぎる奇想を見事にヴィジュアル化した『1秒先の彼女』。題名の違いからもわかるように、元のメインキャラの男女を反転させる作戦に出たのであった。

©2023『1秒先の彼』製作委員会

ちなみに『1秒先の彼女』は2020年、中国語圏の“映画の祭典”、第57回金馬奨にて5冠(作品賞、監督賞、脚本賞、編集賞、視覚効果賞)に輝き、日本では翌年に公開されている。リメイク作では舞台を京都に設定し、岡田将生と清原果耶をダブル主演に。役名をフルネームで書いておけば「皇一」「長宗我部麗華」となり、ここにもクドカン流の“遊びと企み”が。すなわち、名前の画数の多さが行動のスピードに影響を及ぼす、という世界線なのだ。

てなわけで、郵便局の窓口係のハジメは、昔からなにをするにもワンテンポ早くなってしまうキャラクターとして登場。一方その郵便局へ毎日やって来て、なぜか彼から切手を買う大学7回生のレイカは人よりワンテンポ遅く、つまりは時差(タイムラグ)が肝の、タイミングが合わないふたりのSF(少し不思議)話が展開してゆくのである。

©2023『1秒先の彼』製作委員会

オリジナル版と同様に本作には、ハジメとレイカをつなぐ「不意に消えた“1日”を探す旅」と、それにまつわるワンダーでワンダフルなバスのシーンが用意されているのだが、筆者はここで個人的な思い出を観ながら蘇らせてしまった。13年ほど前、某雑誌の企画で岡田将生とロケバスに乗って半日、浅草巡りをしたのだった。浅草寺に行き、屋台でかき氷を食べたり、おみくじを引いたり。会話を交わしたかき氷屋のおばさんから「“頑張りなさいよ”と言われたんです」と教えてくれた、キラキラの彼の笑顔が今も目に浮かぶ。

岡田くんはその半日をとっくに忘れているだろう。だが筆者はこうして、覚えている。ある時間が相手の中で「存在しなかったもの」になっても、記憶し続ける側がいる限りは歴史から消えはしない。実はハジメとレイカの関係も、これに似てるかも。

©2023『1秒先の彼』製作委員会

岡田くんが山下監督の映画に出演するのは『天然コケッコー』(07)以来だ。「将来的に、役者として自分が成長できたなら、山下監督に一番見てほしい」と以前、取材の場で語っていた。この場を勝手に借りて彼に、「やっと格好の機会が訪れて良かったね!」と言っておこう。

『1秒先の彼

©2023『1秒先の彼』製作委員会

監督:山下敦弘
脚本:宮藤官九郎
出演:岡田将生、清原果耶ほか
配給:ビターズ・エンド
7月7日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国順次公開
©2023『1秒先の彼』製作委員会

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轟 夕起夫

(とどろき・ゆきお)1963年東京都生まれ。映画評論家。近著(編著・執筆協力)に、『好き勝手 夏木陽介 スタアの時代』(講談社)、『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』(スペースシャワーブックス)、『寅さん語録』(ぴあ)、『冒険監督 塚本晋也』(ぱる出版)など。読む映画館 todorokiyukio...

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