『最後のジェダイ』を酷評する者は、“ディズニーの意思表示”に気づいていない

2020.5.10

文=しげる 編集=田島太陽


『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』で完結したスター・ウォーズ9部作。その評価はさておき、ここでは改めてエピソード8について考えたい。「『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』の評価が低すぎる問題」だ。

公開当時は熱心なファンほど激怒しバッシングの嵐となったが、アメコミ映画に精通するライター・しげるは作品を高く評価している。なぜなら、ディズニーの野心的試みと、物語が持つメッセージが強く合致していたからだ。改めて、エピソード8の見どころをレビューする。


ディズニーはスター・ウォーズで何を伝えたかったのか

スター・ウォーズ9部作、最後の1本である『スカイウォーカーの夜明け』のMovieNEXが発売された。この映画については、おれはここでは何も書かない。ただただ、ああいう形でこのシリーズが終わったというだけである。しかし、それとは別におれには解せないことがある。それが、『スカイウォーカーの夜明け』のひとつ前の作品であるエピソード8『最後のジェダイ』の評価が低すぎたのではないかという疑問だ。

孤島でルークの訓練を受けるレイ

『最後のジェダイ』は物議を醸した映画だ。公開当初からこの映画をめぐるオタクたちの憤激はネット上で燃え上がり、出演者への過剰なバッシングなど「それはやっちゃダメでしょう」というレベルの行動にまで広がった。どうやら、「自分たちが望んでいたスター・ウォーズではなかった」ということで、オールドファンの怒りが噴き上がったりしたようである。「ようである」というのは、おれには彼らの気持ちが全然わからないから、推測で書くしかないということだ。

おれは『最後のジェダイ』のことが案外好きである。確かに、出来がいい映画かと言われるとちょっとつらいところもある。2時間半の間ず~っとレジスタンスが逃げつづけている映画だし、ポーやフィンたちレジスタンスのメンバーの行動はバラバラもいいところで、軍隊らしい統制や緊張感はカケラもない。カント・バイトのカジノは正直ダサい(『フィフス・エレメント』のほうがずっと絵面はリッチだった。ああいうSF宇宙ラグジュアリー空間みたいなのを作るのはフランス人のほうが上手なのかもしれない)し、そこでのフィンとローズのドタバタも、あまりにも無意味過ぎたと思う。粗を探すつもりで『最後のジェダイ』を観れば、無数に齟齬や変なところやダサいところを発見できるだろう。

しかし、『最後のジェダイ』には明確なメッセージ、もっと言えば「志」や「気骨」のようなものがあったと思う。スター・ウォーズがディズニーのものになり、その上でどういったことを今後やっていくつもりだったのか。『最後のジェダイ』は2017年の時点での「ディズニーはスター・ウォーズで何を伝えたかったのか」がうかがえる作品なのである。

ルーク・スカイウォーカーこそがスター・ウォーズ

『最後のジェダイ』冒頭、レイからルークにライトセーバーが手渡される(ルークはすぐに投げ捨ててしまうが……)

『最後のジェダイ』は、ひと言で言えば継承の物語だ。銀河内乱後、最後のジェダイ騎士となり、共和国再建と歩みを共にしながら新たなジェダイ・オーダーを作ろうとしたルーク・スカイウォーカー。彼がなぜ挫折し、そして新たなる希望であるレイに何を見出し、何を伝えてどう身を引いたのか。映画の主題のひとつとなるのは、この点である。それと同時に、ジェダイとは血統とそれに伴う素質に縛られた存在であるのか否かも、この映画の大きな主題だ。

2012年、ウォルト・ディズニー・カンパニーはルーカスフィルムを買った。買った以上はそのまま寝かせておくわけにはいかない。巨大エンタテインメント企業にルーカスフィルムが買収されたということは、ルーカスのわがままに振り回されることなく、コンスタントにスター・ウォーズの新作が作られつづけることになったということである。『フォースの覚醒』はそのための第1作であり、過剰なまでのファンサービスと気遣いに満ちた映画だった。個人的には「ファンに気を遣っている」こと自体がスター・ウォーズっぽくないな……と感じたのをよく憶えている。

つづく『最後のジェダイ』では、ルークは新たな世代のジェダイを育てることに失敗し、親友と妹の息子であるベンをダークサイドに落としてしまい、その心痛から絶海の孤島に引きこもっている。そこに次世代のヒロインであるレイが現れ、自分にジェダイの訓練を施してほしいと頼み込む。何度も断ったルークだが、盟友R2-D2の説得(?)にほだされ、レイにジェダイとしての訓練を施す。かつてのヨーダを思わせるような食えないジジイになったルークの姿にはグッとくるが、反面ルーク自身もまた迷いを抱えている。

ルークと長い時間を過ごした盟友、R2-D2(画像は『スカイウォーカーの夜明け』より)

前述のように、ディズニーは今後ずっとスター・ウォーズを作りつづけて商売をしなくてはならない。ナンバリングタイトルは9つまでとか、そんな悠長なことは言っていられない。スピンオフも作るし連続ドラマも作るし、多角的にたくさんスター・ウォーズを作らなくてはならないのだ。そうなったときにちょっと困るのが、これまでのキャラクターをどう扱ったらいいかである。ルーク・スカイウォーカーこそがスター・ウォーズの中心である。しかし、このままずっとルークが出演する作品を作りつづけるのは不可能だ。マーク・ハミルだっていい歳なのである。

『最後のジェダイ』が酷評された理由とは?


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