松本まりか、迷いの中で見つけた“美しい生き方”「自分に恥じない自分でいること」

文=於ありさ 撮影=洞澤佐智子 編集=高橋千里


「大人になるって楽しい」「大人になりなよ」──そんな言葉を聞くことは多いものの、“大人になる”とはどういうことなのか具体的に言語化するのは難しい。

そのことを、女優・松本まりかにぶつけると、彼女が年齢を重ねるなかで出会えた“大人像”について話してくれた。

彼女が考える“大人”とは、どんな人なのだろうか。話を聞くと、30代で“遅咲き女優”としてブレイクするまでの18年、腐ることなく自分の道を歩んできた彼女“らしさ”が見えてきた。

松本まりか(まつもと・まりか)
1984年生まれ、東京都出身。2000年、ドラマ『六番目の小夜子』(NHK)でデビュー。2018年にドラマ『ホリデイラブ』(テレビ朝日)で注目を集めた。現在放送中の大河ドラマ『どうする家康』(NHK)に出演中。また、2023年7月14日公開の映画『アイスクリームフィーバー』に出演。待機作には、映画『湖の女たち』がある

自分の短所を“個性”として活かす

松本まりか

──松本さんは幼少期、どんな大人になりたいと考えていましたか?

クールでスマートな人、自分が持っていないようなものを持っている人に憧れていました。でも、自分が20代・30代と年を重ねていくうちに「自分はどうやっても、彼女たちのようにはなれない」とわかってきたんです。当たり前のことなんですけどね(笑)。

──そのことに気づいてからは、何を目標とするようになりましたか?

自分というものの“1番”を目指すようになりました。1番って言い方もおかしいんですけど、たとえば憧れの誰かをゴールにして、その人のコピーを目指してしまうと、どうがんばっても2番手にしかなれない。彼女を超えることはできないって気づいてしまって。

そうではなく、自分の長所はもちろん、短所をも個性として活かすことができれば、強くブレないですよね。

松本まりか

──逆に、自分に対して負い目を感じていたこともあったのでしょうか?

ありましたね。私の場合、まわりの友達がどんどん国民的スターといわれるようになっていったのですが、その中で自分は全然売れなくて。世間から求められるような人間とは違うんだってわかってくるわけですよね。

そこで自分の価値を測るべきではありませんが、そのときはそう思っていて、自分の存在価値を見出せない期間が18年ぐらいありましたね。

最終的には「この選択は美しいかどうか」で決める

松本まりか

──18年ってかなり長い期間のように感じるのですが、どうしてその間、女優として輝くことを諦めずにいられたのでしょう?

「これは正しい考えなのか」と迷うことも多くありました。でも、結局そうやって悩んでいるときって、自分の中での答えがだいたいわかっているはずなんです。

──なるほど。そのときの松本さんの“答え”とはなんだったのでしょうか?

自分の中身を詰めること。彼女たちに嫉妬しても仕方ないですよね。尊敬する大好きな女優たちですし、彼女たちから得られるものもありました。だから、自分の中身を追いつかせるしかないなって。

正直「絶対売れたい」とか、「こういうことがしたい」とかを明確に考えていたわけではないんです。ただひたすら「自分が30代になったときに、自分に恥ずかしくない自分でありたい」とは考えていて……。

そんなことをつづけていたら、あるときに運が巡ってきて、まわりの環境が変わっていって、奇跡みたいなことがつづいていった。そういう人生でした。

松本まりか

──「自分に恥ずかしくない自分」になるために、どんなことを意識しましたか?

“自分が美しいと思う行動”を基準にするようにしていました。私の尊敬する方が「誰も見てないところでこそかっこつける」とおっしゃっていたのを聞いて、見えていないところで、いかにかっこよく生きるかを考えるようにしました。

大人になったら自分を律することができるのは、自分しかいないですから。人の意見はたくさん聞きますけど、最終的には「この選択は美しいか」と考えながら、判断していく。そうすることですごく本質的な人生を歩めるようになったんですよね。

美しく、研磨された“ありのまま”でいることが大事

松本まりか

──具体的に、人からの評価に惑わされず自分軸で判断した転機があれば教えてください。

5年前の『ホリデイラブ』というドラマが多くの人に知ってもらえるきっかけでした。そのときの役が“あざとかわいい”と言われることが多く、私自身にもそのイメージを持ってくださる方が増えたんですよね。

──そうだったんですね。

一般的にいわれる「30代になったら結婚」とか「女優はこうあるべき」とかではなく、自分の美学に沿って生きること、「自分にとっての美しさってなんだろう」と問いながら自分を磨くことを大切にしたいと思っています。

松本まりか

結局は、よくいわれる「ありのままでいる」って言葉に帰結するんですけど、それは研磨された上での“ありのまま”であることが重要だと思っていて。

努力なしに「別にありのままでいいから、このまんま生きるぜ」って開き直るんじゃなくて、善く生きようと努めるなかで、腹の奥から湧き上がってくる「こうしたい」って、きっと自分にとって正しい思いだと思うんです。

それに身を任せていけば、自分自身を輝いていると感じられるようになると思います。

大人でありながらも、葛藤することの“人間らしさ”

松本まりか

──映画『アイスクリームフィーバー』で松本さんが演じた優は、一緒にいる人が姪っ子の美和なのか、会社の人なのかによっても印象が変わるキャラクターでしたよね。

すごく多面的で人間らしいなと共感しました。キャラクターが一貫しないことってあんまりよくないことのように思われることもあるんですけど、自分の状態に正直に生きる、かつ、人に対して迷惑はかけない程度にとなると、いろんな顔を持つのはすごくいいことだなと。

──確かに。大人でありながらも少女のような印象も受けました。

子供心を忘れていないというよりも、ずっと葛藤している、悩み、トライ&エラーしながら生きている。そんなところが少女のようなのかもしれません。そこが彼女のよさでもあり、人間らしいなと思います。

松本まりか

連載「&Life」

今気になる芸能人たちの生き方を辿る連載「&Life(and Life)」。インタビューを通して見えた、彼女たちの“これまで”と“これから”。

第1回:重川茉弥
第2回:後藤真希
第3回:若月佑美
第4回:宇垣美里
第5回:工藤遥
第6回:本田仁美
第7回:横澤夏子
第8回:大久保桜子
第9回:milet
第10回:前田敦子
第11回:峯岸みなみ
第12回:辻希美
第13回:中川翔子
第14回:西野未姫
第15回:松本まりか

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  • 映画『アイスクリームフィーバー』

    7月14日(金)より全国ロードショー

    美大を卒業してデザイン会社に就職するもうまくいかず、アイスクリーム店「SHIBUYA MILLION ICE CREAM」のバイト長として日々を送る常田菜摘(吉岡里帆)。デザイン業界に戻るか、このままアイス屋をつづけるか、思い悩む彼女はある日、店にやってきた作家・橋本佐保(モトーラ世理奈)に運命的なものを感じる。

    片や、アイスクリーム店のご近所さんの高嶋優(松本まりか)は、突然の来訪者に戸惑っていた。疎遠になっていた姉の娘・美和(南琴奈)が、何年も前に出ていった父を捜すため、高校の夏休みを利用して突撃してきたのだ。いきなり始まった共同生活。優の内心を占める不安は、それだけではなかった……。

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