『激レアさん』『シンパイ賞!!』『キョコロヒー』『お笑い実力刃』、“クズ芸人”と“涙”の話、賞レース【2021年バラエティ番組振り返り(2)】

【2021年バラエティ番組振り返り(2)】

昨日観たテレビを記録する連載「きのうのテレビ」を2020年4月からQJWebで毎日連載中のてれびのスキマ、『ユリイカ』『リアルサウンド』『朝日新聞』『文學界』などさまざまな媒体でテレビドラマをはじめとしたエンタテインメントについて幅広く執筆しているライターの西森路代、音楽・ジェンダー論・お笑い・コミックなどについて『ダ・ヴィンチ』や『MUSICA』などで執筆し、今年はQJWebに『ラヴィット!』や浜田雅功についての考察を寄稿したライターのヒラギノ游ゴ。

そんな3人のテレビっ子が2021年のバラエティ番組を中心にした“テレビ”を振り返るメール鼎談を実施。後編では、それぞれの印象に残った番組について、“クズ芸人”をどう考えるのか、“涙”の話、“テレビ”の変化、『キングオブコント』『M-1グランプリ』など賞レースについて、さまざまなテーマについて話された。

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『シンパイ賞!!』が果たした役割

ヒラギノ 『激レアさんを連れてきた。』が好きなんですが、今年でいうと5月24日放送回。自宅に入った強盗の身の上話を聞いて「好きなものを盗っていっていい」と言って演奏でもてなしたピアニストの回です。『激レアさん』とクラシックって相性いいんですよね。スミさん(※)の回の録画データは僕の宝物で、人を愛したい気分のときに繰り返し観てます。

※ヨーロッパ貴族社会に慣れ親しんだプロヴァイオリニスト。貴族が経営するサロンだと思い込んで鳥貴族でアルバイトをしていた。

『激レアさん』や『博士ちゃん』、あと『しくじり先生』は最近ちょっと違ってきてますが、非芸能人やテレビ的なトークが達者でない人を軸にした番組に可能性を感じています。というのも、アドリブでテレビ的なトークができない人を中心に据えてもショーが成立するフォーマットを、それぞれの番組が編み出しているから。

『激レアさん』でいえば弘中(綾香)アナの紙芝居プレゼン。激レアさん本人にトークの負担をかけず、なおかつ番組のメインコンテンツになっている。

『しくじり先生』でいえば「学校」というインターフェース。あれによって「先生」役の人が手元の教科書(台本)を見ながらしゃべることを自然に見せているわけですよね。こういう構成の番組にはディレクターさんたちの作家性がフルに出ているように思えてわくわくします。

スキマ 今年の前半といえば、年始早々に『家、ついて行ってイイですか?』で上出(遼平)さんによるイノマー密着回という年間ベスト級の番組が放送されたのが印象深いです。バラエティといっていいのかわかりませんが。

僕にとって今年は大好きな番組がたくさん終わってしまった年でした。中でも『(爆笑問題&霜降り明星の)シンパイ賞!!』。「まーごめハウス」密着の回とか加賀復帰回、宮下草薙ケンカ問題の回とか、本当に芸人の愛すべき部分を抽出した番組でした。ほかにも『勇者ああああ』や『マヂカルクリエイターズ』、『アニマルエレジー』や『伯山カレンの反省だ!!』とか……。『反省だ』はとてもいい完璧な最終回だったと思います。

僕は“番組内コンビ”みたいなのが好きなんですが、夏目三久×上杉みちくん(ロバート秋山竜次)、(神田)伯山×(滝沢)カレン(このコンビはテレ東の番組からですが)は本当にいいコンビで組み合わせの妙を感じました。そういう意味で『キョコロヒー』のヒコロヒー×齊藤京子のチグハグコンビは発見だなあと思ってます。

ヒラギノ 『シンパイ賞!!』僕も大好きです。『キョコロヒー』も『激レアさん』もそうですが、舟橋(政宏)さんのファンなんです。

いわゆるお笑い第七世代というムーブメントにおいて『ネタパレ』と『シンパイ賞!!』が果たした役割はとても大きいと思っています。『ネタパレ』ではネタ見せを通してのキャラクター紹介だけでなく、陣内智則によって個々の取扱説明書が定められた。『シンパイ賞!!』はそれらが定着したあとの段階を担っていて、それぞれがテレビ的なキャラクターを脱いで生身の人間として振る舞える場として機能していたように思います。『シンパイ賞!!』もまた本音のトークが聴ける番組でした。

『M-1 2020』の前から錦鯉・長谷川(雅紀)をフィーチャーしていたという先見の明もあったし、語るべきことはたくさんあるんですが、個人的に最も印象深かったのが“クズ芸人”特集回での四千頭身・都築(拓紀)です。

ラランド・ニシダの不誠実な私生活のエピソードを聞いて、「今後バラエティでこういう人を取り上げるのやめません?」「取り上げるから笑いになると思ってやめないんですよ」と言った。呆れ笑いでも、キレ芸的でもなく、普通によくないなと思ったから言っておこう、というスタンスに見えたんですよね。ああ、バラエティってこのトーンでしゃべってもいいんだ!ってなんだかうれしくなったし、その実に真っ当な姿がおもしろかった。新しいことが起こっていたと思います。

『お笑い実力刃』と『あちこちオードリー』の裏被り


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てれびのスキマ

1978年生まれ。ライター。テレビっ子。著書に『タモリ学』(イースト・プレス)、『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『笑福亭鶴瓶論』(新潮社)、『全部やれ。日本テレビ えげつない勝ち方』(文藝春秋)など。

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