声優・島﨑信長が「“エゴイスト”が集結するアニメ制作」で思いを貫くための武器

2024.4.17
島﨑信長

文=ちゃんめい 撮影=佐々木康太 編集=梅山織愛


4月19日(金)に全国公開される『劇場版ブルーロック -EPISODE 凪-』。本作は天才ストライカー・凪 誠士郎(なぎ・せいしろう)の視点で、テレビシリーズ『ブルーロック』の主人公・潔 世一(いさぎ・よいち)との出会いや、“ブルーロック(青い監獄)”での対戦が描かれる。

同級生の御影玲王(みかげ・れお)に誘われるがままサッカーを始めた凪。しかし、“ブルーロック”で全国から集められた選りすぐりのストライカーたちと出会い、徐々に凪の中にもサッカーに対する“エゴ”が生まれていく──。

そんな凪の心情の変化も描かれる本作で、凪を演じる島﨑信長。声優として第一線で活躍し続けている彼も、登場人物たちと同じように仕事に対しては常に“エゴ”を感じているという。作品と向き合う上で必要なエゴについて、さらにその思いを突き通すために欠かせない声優としての武器を聞いた。

島﨑信長

島﨑信長
(しまざき・のぶなが)12月6日生まれ、宮城県出身。2009年に声優デビュー後、『Free!』の七瀬遙役や『バキ/範馬刃牙』の範馬刃牙役などに出演。『島﨑信長のパケドリ。』(文化放送・超!A&G+)のパーソナリティも務める

作品をよりよいものにするために必要な“エゴ”

島﨑信長(以下、島﨑) 常に感じています。そもそもエゴがない役者はいないと思うんですよ。一般的には「俺はこう思う」みたいな、自分だけ突出する意味に捉えられがち。でも、「みんなで足並みをそろえよう」とチームワークを重んじるのも、そう思っている人間のエゴですよね。だから、自分の中の強い思いは内容にかかわらず全部そうだと思います。特に役者をやっている人たちは、何か表現したいという強いものがあるわけだから、みなさんエゴイストです。

島﨑 作品をよりよいものにしたい、という強い気持ちが常にあります。でも、いいものの定義は人それぞれ違いますし。僕は自分なりにいいと思って、芝居はもちろん、現場でもいろいろと立ち回るのだから、結局これも本当に僕のエゴですよね。

島﨑 身近なたとえでいうと、誰かに対して幸せになってほしいという強い思いもそうです。自分以外の人の本当の幸せなんて誰にもわからないですし。でも、だからといって自分が思う幸せを一方的に相手に押しつけたら、悪いエゴイストになってしまうと思うんです。一方で、いいエゴイストは相手とのコミュニケーションを大切にする人。相手にとっての幸せとは何か、そのために自分は何ができるのかと、会話を重ねて突き通していくんです。アニメ制作は分業体制なので、各分野のエゴイストが集結する現場なのですが、時には衝突しつつも、互いに歩み寄ったり議論を繰り返してそれぞれの「これが作りたいんだ」を実現させていく。自分だけではなく相手も含めてすべてを突き詰めていく姿を見ていると、いいエゴイストというか、これが本当のエゴイストなのかなと思います。

島﨑信長

声優業界の奥深さも知ってほしい

島﨑 声のお芝居がすごく好き、それが僕の一番の武器です。人は結局、興味があるものでなければがんばれないと思うんですよ。「好きこそものの上手なれ」という言葉がありますが、好きになること自体は後天的にできる。いや、むしろ好きじゃなくて、嫌いでもいい。ポジティブでもネガティブでも、すべてのことにエネルギーがあるので。ただ、そのエネルギーというか、興味がちょっと尋常ではないくらいのベクトルの向き方をしているものだというところが重要で、それがのちのち武器になるのだと思います。僕の場合は、声優という業界はもちろん、声優さんが関わるコンテンツも大好きで。つまり声のお芝居が大好きなところがひとつの大きな武器だと思っています。

島﨑 思考の深さについては、僕は全然。第一線で活躍されている方はみなさん物事を深く考えていらっしゃると思います。ただ、それをインタビューでわざわざ言わないだけかなと。逆に僕の場合は、インタビューであえて細かく、めんどくさく答えてしまうタイプなんですよ。

島﨑 声優業界をよくしたい、声優業界はこうであってほしい、つまり僕のエゴですね(笑)。最近の世の中は、わかりやすくライトなものが好まれる傾向が強いなと感じていて、そういったもののほうがバズりやすいし、若い世代にも興味を持ってもらえるのだと理解しています。昨今、声優業界もさらに人気が出てきて、アニメもより評価を受けるコンテンツになりました。その勢いに乗って業界の表面的なわかりやすい部分を広げていくことは大切ですし、それも声優業界をよくするひとつの方法です。でも、世の中がキャッチーでインスタントなほうに流れていくなら、反対側の部分も知ってほしいなと、抗いがちなんです。もしかしたら、この記事を読んで声優業界を目指す人もいるかもしれない。そう考えると、何かちょっとでも僕が種をまけたらいいなという気持ちでいます。

“自分が思う凪”をやっと演れた

島﨑信長

島﨑 実はまったくないんですよ。たしかに、『-EPISODE 凪-』では、テレビシリーズでは描かれなかったことや、言っていなかったセリフがたくさん登場します。でも、テレビシリーズで凪と向き合ったときに自分なりに想像して埋めていった中身が『-EPISODE 凪-』とつながっていた。気持ちがずっと一緒だったんです。

『劇場版ブルーロック -EPISODE 凪-』
(C)金城宗幸・三宮宏太・ノ村優介・講談社/「劇場版ブルーロック」製作委員会

島﨑 むしろ、本作を通して“自分が思う凪”というものをやっと凪の視点で演じられたなと感じました。テレビシリーズは潔の視点で描かれるので、凪は「颯爽と現れた天才」「大いなる壁」であって、そうなるとやっぱりいつだって余裕でいてほしいじゃないですか? でも、凪の視点で“ブルーロック”の戦いを振り返ると、実は彼もかなり焦っている。潔視点で描かれる物語では、その焦りは見せないというか、作品をよりよくするためにそういうフィルターをかけて表現することを求められるんですよ。『-EPISODE 凪-』では、そのフィルターを外して本当に凪が思ったことを素直にやれた。その過程の中で、凪は本当に魅力的な人だなと改めて思いましたが、印象が変わるとか新しい発見は特にありませんでしたね。でも、ご覧いただくみなさんにとっては、きっと新しい発見でいっぱいだと思います。

島﨑 凪は言葉足らずなのですが、今回はモノローグによって彼の内側が細かく言語化されています。実はこんなことを考えていたんだとか、きっとみなさんが「それを口に出して言いなよ!」と言いたくなるところがたくさんあると思います(笑)。

島﨑 まずは、凪と玲王のふたりの歩みと、そこに(剣城)斬鉄(つるぎ・ざんてつ)が加わった「チームV」としての活躍ですね。先ほども話したとおり、凪の視点だとこう見えるんだと。ぜひテレビシリーズ本編と照らし合わせて観てほしいです。視点が変わると本当におもしろいんですよ。潔視点から見ると、凪はとんでもない怪物でしたが、「チームV」から見ると潔のほうがもう異質な怪物で、めちゃくちゃ怖い。潔と同じチームの雷市(陣吾/らいち・じんご)も、凪の視点で見るとかなり厄介な強敵。視点が変わるだけでこんなに違うのかと。その点だけでもおもしろいですが、さらに深掘りをしていくと、各登場人物の解像度が上がるのはもちろん、アニメーションの演出や作りなど、より細かいところの違いが見えてくるんじゃないかなと思います。

島﨑信長

『劇場版ブルーロック -EPISODE 凪-』

2024年4月19日(金)全国ロードショー
同級生の御影玲王に誘われるがままにサッカーを始めた高校2年生・凪 誠士郎の元にある日、“ブルーロック(青い監獄)”プロジェクトの招待状が届く。そこで待ち受けていたのは、全国から集められた選りすぐりのストライカーたちとの出会いだった。玲王と始めた世界一への挑戦が、凪をまだ見ぬ世界へと連れて行く……。

(C)金城宗幸・三宮宏太・ノ村優介・講談社/「劇場版ブルーロック」製作委員会

発売中の『クイック・ジャパン』vol.171では、本稿には掲載されていないインタビューと写真を掲載。「声に自身の人生を乗せて演じる」という島﨑が、役との向き合い方について語る。

【通常版】『クイック・ジャパン』vol.171 【ポストカード付特別版】『クイック・ジャパン』vol.171

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ちゃんめい

マンガライター。マンガを中心にエンタメ系のインタビュー、レビューの執筆や、女性誌のマンガ特集に出演。毎月100冊以上マンガを読む。

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