2020年の夏を彩った一枚、さとうもか『GLINTS』。“稀代の才能”に渋谷直角が迫る

2021.1.17

「ずっと不安でいたほうがかっこいいし、楽なんだと思う」

さとうもか - オレンジ sato moka “Orange” Music Video

渋谷 2曲目の「オレンジ」のメロディもすごくキャッチーでポップですよね。

さとう この曲は『夢のクレヨン王国』とか『おジャ魔女どれみ』とか、私が小学生のころに観ていたアニメの主題歌と渋谷系の音楽をイメージして作りました。

渋谷 さとうさんの渋谷系のイメージって、どんなもの?

さとう ピチカート・ファイヴ……とかですよね。あまり詳しくはないんですけど、ちょっとヨーロピアンな音楽で、ボサノバを少し明るくしたようなイメージかな。

渋谷 「オレンジ」は、2019年12月に吉祥寺スターパインズカフェのライブで聴いた記憶があります。そのとき、さとうさんはこの曲の歌詞について「花をくれるなら絶対バラがいい」「バラの花だとまだ笑えるけど、そうじゃないなら引く」みたいな話をしていて、さっぱり理解できなくて焦ったんですよ(笑)。

さとう 私は自然体の人が好きで、ちょっといいところを見せようとしてプレゼントしてくれる花とかはあまり喜べないというか……。ナチュラルに花を買って「どうぞ」って感じだったらうれしいと思うけど、ちょっとかっこつけた花とかは逆に冷めてしまう。でもバラの花まで振り切っていたら、一周回ってギャグっぽいんで笑えるなっていう発言なんです(笑)。

渋谷 そういう発想の曲だったんですね。

さとう かっこつける人が本当に苦手で……。私は思ったことをパッと言ってしまったり、本当のことしか言えないタイプ。でもかっこつけたり背伸びすることがデフォルトになっている人にはそれを疑われたり、本音で言ってないんじゃないかって思われたりするので、「え?」ってなったことがあって。そのモヤモヤから作った曲でした。

渋谷 つづいて3曲目の「Poolside」は、わりとクールな雰囲気の曲ですね。アルバムの中ではどういうポジションなんですか?

さとう 「Glints」と「オレンジ」でぶっ飛ばして、フーッて息をつくところに「Poolside」が来て、ちょっと涼むってイメージです。

渋谷 客観的に自分を見ている感じが、さとうさんっぽい曲だなって思いました。

さとう このアルバムで歌詞が一番気に入ってる曲なんです。なんだろう、みんなすごくないものねだりをしてるなって思ってて。安定とか安心を目指していろんなことに挑戦しても、いざ安定すると次は安定してしまっていること自体が不安になったり、それを繰り返しちゃうんですよね。

編集部 プレス資料のセルフライナーノーツで「永遠に終わりの見えない海と、泳ぐ前からゴールの見えるプール。昔はプールみたいに答えやゴールの見えるものを選ぶのが嫌だった。もっと言えばそういう人の事を馬鹿にもしてた。大人になって、安定を選ぶことで得るものがある事を知った」と書かれていましたよね。『A子さんの恋人』っていうマンガにもこれと似た情景のシーンがあってリンクしてるなって思ったんですけど、もかさんはゴールを気にしないで海を泳ぐタイプですか?

さとう 気にしないで泳いでいたつもりだったんですけど、どんどん経験を積むことで自分のプールができてしまったり……。安心を抱いている瞬間にすごく焦りますね。ずっと不安でいたほうがかっこいいし、楽なんだと思います。

渋谷 「Glints」の100曲メロディづくりみたいなものを、常にやっていないと落ち着かない感じですか?

さとう あれは逆に少し無理していたので、普段の自分からすると不自然ではあるんですよ。本当はもっと自然にできるもののほうが、本物の音楽なんじゃないかって思うこともあります。

渋谷 プロであろうとすることと、自分の芸術的な側面とのせめぎ合いに戸惑うっていうのはありますよね。

編集部 詞は自然に思い浮かぶ感じなんですか?

さとう いや、歌詞のほうがもっと時間をかけて書いています。ほぼ毎日くらい思ったことをメモしていて、キーワードになる言葉があればそこからバーっと書けたりとか、過去の自分の思い出を完全な他人事だと思えるようにいろいろなバランスを調整しつつ書いたりしています。

ユニコーンにも通じる自由さ

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