世界を席巻中のXGが、自分たちを「宇宙人」と呼ぶ理由。アルバム『NEW DNA』が表す、自信・能動性・ギャルマインド

2023.10.20

文=岸野恵加 編集=菅原史稀


XGが鮮烈にデビューしてから1年半。しばらくは楽曲をシングルとして発表し、じっくりとそれぞれの世界観を届けてきた彼女たちが、ついに1stミニアルバム『NEW DNA』をリリースした。本稿では、その収録曲から浮かび上がるXGのメッセージを掘り下げていきたい。

XG
JURIN(ジュリン)、CHISA(チサ)、HARVEY(ハーヴィー)、HINATA(ヒナタ)、JURIA(ジュリア)、MAYA(マヤ)、COCONA(ココナ)の7人で構成されるガールズグループ。2022年3月18日、グローバルエンタテインメントプロダクション“XGALX”が輩出した初のアーティストとしてデビュー。

今、快進撃を続けるガールズグループ・XG

XGはメンバー全員が日本人ながら、韓国をはじめグローバルに活動する7人組ガールズグループ。新曲を発表する際には韓国の音楽番組に精力的に出演し、楽曲は全曲英語で歌唱するというこれまでにない活動スタイルを展開し、“Xtraordinary Girls(規格外の女子たち)”というグループ名のとおり、固定観念を破り続けてきた。

2022年に発表した2曲「Tippy Toes」「MASCARA」は世界各国でチャートインし、COCONA、MAYA、HARVEY、JURINによるラップパフォーマンス動画『[XG TAPE #2] GALZ XYPHER』がTikTokで1カ月の間に1100万再生超のバズを見せるなど、世界中からグループへの注目度は高まる一方。2023年に入ってからもアクセルをゆるめることはなく、彼女たちは自分たちのアティチュードをより強く打ち出している。

メンバーの実力の高さや活動スタイルが規格外であることは「Tippy Toes」「MASCARA」でもじゅうぶんに示されていたが、ビジュアル、メイク、スタイリングなどの面においては、一般的なガールズグループの枠を出るものではなかった。ところが2023年1月にリリースされたシングル「SHOOTING STAR」では、全員がそろって鮮やかなブルーヘアで登場。華やかでインパクトの大きいメイクと、ティースジュエリーを取り入れるなどエッジの効いたスタイリングでも度肝を抜いた。

「宇宙人」を自称する理由

ニューチャプターに入ったことを示したXGは、6月27日に1stミニアルバムのリリースを発表。そこからちょうど3カ月後のアルバム発売日までの間、先行リリースというかたちで立て続けに収録曲を届けてきた。1stミニアルバム『NEW DNA』は6曲入りで、全体を通して“新たな種族”の誕生が表現されている。

1曲目を飾っているのは「HESONOO」。イメージビデオで彼女たちは、胎児のように円になって眠っている。「へその緒」は、彼女たちが円陣を組むときのかけ声としてもおなじみのフレーズで、7人の絆を象徴するキーワードだ。リリックでは「7 life-forms detected(7つの生命体を検出)」「Landing sequence initiated(着陸態勢に入る)」と、宇宙船内の音声のような、はたまたコンピュータが新たなプログラムをローディングするかのような世界観が描かれている。

続く「X-GENE」はドリルサウンドに乗せた強烈なラップナンバー。「Fresh out the Xtraordinary womb(非凡な子宮から生まれたばかり)」というリリックで、自信に満ちあふれた姿勢が示されている。「HESONOO」は53秒、「X-GENE」は1分25秒と短く、いずれもアルバムのイントロダクションを担う楽曲だといえるだろう。

2曲ともに宇宙を連想させるキーワードがちりばめられているのだが、ここでXGの世界観を形作る“宇宙”について触れておきたい。彼女たちの育成プロジェクト名も“銀河”が冠された「X-GALAXY」だったが、XGはよく自分たちを「宇宙人」と自称する。もともと全員宇宙が好きで、グループの定例ミーティングも「宇宙会議」と呼んでいるのだそうだ。

ともすれば「突飛なキャラクターづけをしようとしているのか」と思われてしまいそうな話だが、けっしてそうではない。彼女たちが“宇宙”を随所で取り入れるのは、国境や人種などさまざまなカテゴライズを超越した存在であろうとし、本気で世界中の人を音楽でエンパワーしたいという意思の表れなのだと思う。

彼女たちが持つ最大の魅力は“自信”と“能動性

残る4曲のテーマはそれぞれ、「GRL GVNG」がArrival(到着)、「TGIF」がExpand(拡張)、「NEW DANCE」がExplore(探索)、「PUPPET SHOW」がParade(祝祭)であるとメンバーが説明している。宇宙から飛来してきた彼女たちは、まず「GRL GVNG」で「We go hard everyday/Me and my girls ain’t here to play(努力して全力を尽くす毎日 甘えた気持ちで来たわけじゃない)」「There’s no limit/Nothing that we can’t do(極限なんて存在しない 努力したらできないことなど何もない)」と歌う。

XGの大きな魅力であり、コアにあるものは“自信”そして“能動性”だ。歌詞にも滲むこの“自信”は、並大抵ではない努力に裏打ちされたものであることを、我々はYouTubeで公開されているドキュメンタリーシリーズ『XTRA XTRA』を通して知ることができる。

2017年から5年に及ぶ練習生期間を送り、XGのデビューメンバーとして夢を叶えた7人。プロジェクト始動時、最年少組のMAYAとCOCONAはわずか11歳だった。韓国と日本を行き来するハードな練習の日々が続き、プロデューサーSIMONは「誰でもできることをやっていたら、特別な存在にはなれない」と、厳しい言葉で指導にあたる。翌日から急に来なくなる練習生もいたほどの過酷な日々を経て、彼女たちのダンスや歌の実力は着実に磨き上げられていくのだが、SIMONが彼女たちに一番身に付けてほしかったものは、人間力、そして絶対に夢を叶えるという強い意思。そこに7人がしっかりと向き合い、自分の意思で培ってきたからこそ、XGとして輝く今がある。

『XTRA XTRA』のEP4でHARVEYは「ここで自分というひとりの存在を見つけることができた」と笑顔で語り、CHISAは「GALAXYで一番大切にしている『人間力』が、自分でも動画を見返したときにすごく変わったと思うし、メンバーと話しても肌で感じるくらい変われた」と振り返っている。与えられた課題にただ向かうのではなく、「思考が人生を変える」と繰り返しSIMONから教えられてきた彼女たちは、過酷なプログラムを乗り越え、主体性を持つアーティストに成長した。

彗星のごとく彼女たちが音楽シーンに現れた際、技術力の高さはもちろん目を見張るものがあったのだが、一番印象的だったのは、新人らしからぬ余裕と、自信に満ち溢れた佇まいだった。このドキュメンタリーを観て、そこに至った背景がよく理解できた。努力によって育まれた実力、そして確固たる自信が彼女たちの土台となり、多くの人を惹きつける様は、まるで少年マンガのヒーローを見ているかのようでもある。

ギャルマインド”の象徴として

「TGIF」では中毒性あるビートに乗せて「When I’m with my ladies,Oh the party don’t stop(うちらが集まると Partyは終わらない)」「Wake up, look up in the mirror(鏡の中の自分に酔いしれて)」と自己肯定感高く歌い、続く「NEW DANCE」でも、そこからつながるように「Slide with my girls to the party(うちらは最高な仲間とPartyへくりだす)」と始める。ハッピーなバイブスを伝播させていくXGは、続けて、踊り方を知らない人に「First thing you gotta do if your gonna do it/Slide to the left and the right now(まずはこれをやってみて 左から右に 私ぐらい腰を下げてみて)」と優しく指南。

やがて「Don’t care who’s watching let me show you how it goes(まわりの人の目なんて気にしないで どうやるか教えてあげる)」と鼓舞したあと、「Get up get up this is your time/So here we go(立ち上がって! あなたたちの番だよ さぁ行こう)」と呼びかける。XGは誰でも受け入れる寛容さをもって、リスナーと併走してくれるのだ。

またこの2曲では、優しく手を取り合うような連帯が描かれている。XGの魅力を語る上で欠かせないのが、メンバー間の強固なチームワークと、ポジティブなムードだ。彼女たちは長年の苦難を一緒に乗り越えてきたからこそ、単なるグループ内のメンバー同士という関係性以上の絆でつながっている。そして常に底抜けに明るく、時には「全員同時にしゃべってないか?」とツッコみたくなってしまうほど賑やかだ。近年、周囲の意見に捉われずポジティブに我が道を行く“ギャルマインド”が巷で注目されているが、まさにXGはその象徴のような存在といえる。

YouTubeには彼女たちの素顔を捉えたコンテンツも多数アップされているが、メンバーの誕生日を祝う様子はとりわけハイテンションだ。COCONAの誕生日の動画では、なぜか床で寝ているCOCONAを、6人が大きな声でバースデーソングを歌ってノリノリで起こす。ド派手なサングラスをかけ、しまいにはCOCONAの好きなところをあいうえお作文で発表して爆笑モードに。

しかし盛り上がるだけに留まらず、“へその緒”で繋がっているお互いへの強い愛に感動を誘われるシーンも多い。どんなに多忙な毎日でも、メンバーの誕生日にはそれぞれ手書きの手紙を贈り、ストレートに愛情を表現するのだ。ハードな練習生期間をともに送った仲間は、HARVEY曰くズッ友ならぬ「ずっかぞ(ずっと家族)」であり、「メンバー同士で自信を伝染させていく」関係性であるそうだ。

メンバーの精神性が、楽曲のメッセージを強固にする

話をミニアルバムに戻そう。フィナーレを飾った「PUPPET SHOW」は、PUPPET=操り人形をモチーフとしたナンバー。歌詞は、とあるカップルの不和を描いているようなパートもあるが、ジェンダーバランスが不均衡な社会を表したようにも、「お人形さん」と形容されがちな存在であるアイドル産業の構図を描いているようにも読み取れる。楽曲が発表されるやいなや、ファンタジックな世界観のMVの描写も含め、細部に至るまでさまざまな考察が巻き起こった。

人それぞれ異なる解釈が生まれる余白があることもこの曲の魅力だが、いずれにせよ強く胸に残るのは、「自分の人生の主導権を自分で持とう」という強いメッセージだ。「Automatic when I want for it to please me/Might just make you do the things I want you to(自分の喜びは自ら作る 私の望むままに)」「I’ll make all of my own dreams come true(夢も自分で叶えられる)」というリリックは、それを体現してきた彼女たちが歌うからこそ、強い説得力を持つ。

こうして『NEW DNA』の6曲を通して描かれるのは、これまでに彼女たちが培ってきた自信、そしてリスナーの人生に寄り添い、「主体的に生きよう」と呼びかけエンパワーする姿勢。XGの快進撃を見ていると「同じ日本人として誇らしい」などという思いをつい抱いてしまうが、彼女たちからのメッセージを真摯に受け止めると、「同じ日本人として」という枕詞を付けることも、なんだかマッチしないように思えてくる。今作はXGが紡いでいく物語の、まだまだ序章。同じ時代に、ともに地球上に生きる生命体として、彼女たちの活躍をこれからも目撃できることをとても幸せに思う。

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岸野恵加

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岸野恵加

(きしの・けいか)ライター・編集者。ぴあでの勤務を経て『コミックナタリー』『音楽ナタリー』副編集長を務めたのち、フリーランスとして2023年に独立。音楽、マンガなどエンタメ領域を中心に取材・執筆を行っている。2児の母。インタビューZINE『meine』主宰。

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