“全員曲者”の『M-1グランプリ2021』ファイナリスト──2020年からの流れと背景から決勝を考える

M-1 2021 てれびのスキマ

12月2日(木)、ついに『M-1グランプリ2021』ファイナリストが決定した。決勝戦に駒を進めたのは、インディアンス、真空ジェシカ、モグライダー、ゆにばーす、ロングコートダディ、オズワルド、錦鯉、もも、ランジャタイの全9組。

『M-1グランプリ2020』でのマヂカルラブリーの優勝により、お笑い界は節目を迎え、テレビバラエティの風景は一変した。そして迎えた『M-1グランプリ2021』。ファイナリストは明らかな曲者ぞろい。決勝戦を12月19日(日)に控えた今、てれびのスキマが改めて状況を整理し、予想する。


2020年に節目を迎えたお笑い界

「週4くらいでお笑いライブに通ってるお笑いファンが高熱のときに見る夢みたい」

ロングコートダディの堂前透は、『M-1グランプリ2021』決勝進出メンバーをそのように形容した。その発表のシーンでも「うおっ!」「おおお!」などとこれまで以上に大きなどよめきが何度も起こった。

昨年の『M-1グランプリ2020』は、大きな話題を集めた。4大会ぶりに吉本以外の事務所から複数のファイナリストが生まれ、ピン芸人同士のユニットも初めて決勝進出し、新風を吹かせた。優勝したマヂカルラブリーの野田クリスタルは、2017年から始まった上沼恵美子との“因縁”に決着をつけ、『M-1グランプリ2020』と『R-1ぐらんぷり2020』の2冠を達成。“物語”にひとつのピリオドを打つ一方で、「漫才論争」を巻き起こした。

そんなマヂカルラブリーが大ブレイクをしたのはもちろん、おいでやすこが、見取り図、錦鯉、ニューヨーク、オズワルドらファイナリストたちが軒並みブレイクを果たし、昨年までは「お笑い第七世代」が席巻していたテレビの風景を変えた。

『ボクらの時代』(フジテレビ)9月26日放送回、霜降り明星の粗品が「『第七』ブームを終わらせたのはマヂラブではないか」と言うと、野田は「俺らというより、去年の『M-1』ファイナリスト」と返したが、それは的を射た分析だろう。加えて、敗者復活戦で最下位になりながらも強烈なインパクトを与えたランジャタイまでもがブレイクした特異な大会だった。

『M-1グランプリ2021』決勝直前の状況整理

今回、昨年のファイナリストから残ったのは、オズワルド、錦鯉、インディアンス(2020年は敗者復活)の3組。ゆにばーすが2018年以来の返り咲き、もも、真空ジェシカ、モグライダー、ランジャタイ、ロングコートダディは初進出という新鮮なメンバーとなった。本大会を「番組」として考えるとかなり挑戦的なキャストだ。

『キングオブコント2021』では初出場組が半数にのぼり、審査員も一新されたこともあってか、コントの方向性まで変わった。ライブシーンで高く評価されてきた芸人がそのまま好成績を収めた印象がある。『M-1』でも、少なくとも準決勝の審査ではその傾向が強くなったと感じさせるファイナリストだといえる。

オズワルド(左:畠中悠 右:伊藤俊介)
オズワルド(左:畠中悠 右:伊藤俊介)

そんな中で大本命といえるのは、3年連続で決勝進出のオズワルドだろう。伊藤はもはやバラエティで引っ張りだこ。畠中の飄々とした掴みどころのないキャラクターも浸透しつつあり、「畠中は知り合いが多いとボケるんです。地下ライブで一緒だった芸人が多いので非常に安心している」と伊藤が発表会見で語ったように、伸び伸びと実力を発揮するはずだ。

さらに今年の『第42回ABCお笑いグランプリ』でも優勝。『M-1グランプリ2020』では松本が「静かな感じで観たかった」、巨人が「伊藤くんがもう少し最初から大きな声でツッコんだらどうですか?」と正反対のコメントだったことをたびたびネタにし、審査員との“物語”もある。初出場が多い今大会において“経験”も大きな武器になる。空気階段も『キングオブコント』3回目で優勝したように、脂が乗り切った状態での3回目のファイナルは大きなチャンスだ。

一方で、空気階段は賞レースで優勝するためには、新鮮味という意味合いでも「3回目」が限界。それ以降はどんどんハードルが高くなっていってしまうと考え、3度目が最後のチャンスと背水の陣で臨んでいた。それは『M-1』でも同じ。オズワルドにとって大チャンスであると同時に正念場ともいえるだろう。

錦鯉(左:長谷川雅紀 右:渡辺隆)
錦鯉(左:長谷川雅紀 右:渡辺隆)

2年連続ファイナリストの錦鯉も、昨年は長谷川のキャラクターを最大限活かした漫才だったが、今年は徐々にSMAのブレーンである渡辺の才気が知れ渡り始めている。ふたりのキャラクターの化学反応が起これば優勝もじゅうぶんあるだろう。一方で、50代で決勝進出となった長谷川の最年長記録を優勝しないまま限界まで上げていってほしいなというほのかな期待もあるのだけど。

返り咲きのゆにばーすは、川瀬は「『M-1』で優勝したら引退」と公言するほど『M-1』に賭けているコンビ。が、『M-1』決勝では、2017年に8位、2018年に最下位と結果を残せていない。けれど、マヂカルラブリーが最下位から3年後に再び決勝進出し優勝したとおり、最下位から3年後の決勝進出。同じような流れが生まれればおもしろい。

今年のファイナリストの特徴のひとつとしては昨年を超える非・吉本の躍進が上げられるだろう。

吉本が5組に対し、ソニー・ミュージックアーティスツ(錦鯉)、プロダクション人力舎(真空ジェシカ)、マセキ芸能社(モグライダー)、グレープカンパニー(ランジャタイ)と4組の非・吉本勢がそろった。

真空ジェシカ(左:ガク 右:川北茂澄)
真空ジェシカ(左:ガク 右:川北茂澄)

人力舎からは実に2004年に優勝したアンタッチャブル以来17年ぶりの決勝進出だ。真空ジェシカは、ライブシーンでは絶大な支持を集めながらも、その強烈な個性ゆえか『M-1』には縁がなく、これまで準決勝にすら上がったことがなかった。準決勝初挑戦で一気に決勝。こうした勢いのときこそ、大波乱を起こす予感がするし、その実力はじゅうぶんにある。彼らは賞レースを席巻し昨今、注目される大学お笑い出身でもある。

モグライダー(左:芝大輔 右:ともしげ)
モグライダー(左:芝大輔 右:ともしげ)

「お待たせしました!」

モグライダーの芝(大輔)が決勝進出者発表会見の第一声でそう発したように、モグライダーは早くからその実力とキャラクターが評価されネクストブレイクに挙げられていたコンビ。いよいよお笑いファン以外にも「見つかる」ときが来たといえるだろう。

ランジャタイ(左:伊藤幸司 右:国崎和也)
ランジャタイ(左:伊藤幸司 右:国崎和也)

そして決勝を大きくかき回すことが予想されるのがランジャタイ。彼らの漫才に審査員たちが頭を抱える光景だけはハッキリと予想できる。もし彼らが「笑神籤(えみくじ)」でトップバッターに選ばれてしまったら、大会がいったいどうなってしまうのかまったく予測不能だ。思えば今年は『マヂカルラブリーno寄席』の思わぬ大ヒットから始まった。そこで大爆発したのがランジャタイだった。願わくば、ランジャタイの漫才のときだけは、このとき同様、マヂラブらの「野次あり」になれば……なんて夢想してしまう。

もも(左:まもる。 右:せめる。)
もも(左:まもる。 右:せめる。)

ももやロングコートダディといった関西の実力者も見過ごせない。特に、ももは全国的にはほぼ無名。久々の「麒麟枠」といえる存在だろう。

敗者復活戦もものすごいレベルになることは必至。ラストイヤーで挑戦したアルコ&ピースやハライチ、ファイナリスト常連組の見取り図、ニューヨーク、『キングオブコント2021』で強烈なインパクトを残した男性ブランコ、『THE W』ファイナル進出でも話題の新星・ヨネダ2000、ファイナル経験者のからし蓮根、東京ホテイソン、さや香、決勝進出が待望されて久しい金属バット、キュウ……と、そのままメンバーを入れ替えて決勝と銘打っても遜色ない(むしろ知名度でいえば上)。どこが復活しても実力はもちろん物語性もあり、ほかのファイナリストの驚異となるはずだ。

全員曲者──。

昨年の「漫才論争」がなんだったのかと思えるような奇想天外、枠組みに捉われない自由な発想の漫才が次々に観られるのではないか。

「ここからは運です」

川瀬名人がハッキリ断言したように、実力伯仲、当日の空気や流れ次第で誰が優勝してもおかしくない。ただひとつ確かなのは、強烈な個性が爆発するであろうことだ。観たあと高熱におかされてしまうような史上最狂のカオスな大会になるに違いない。

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てれびのスキマ

1978年生まれ。ライター。テレビっ子。著書に『タモリ学』(イースト・プレス)、『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『笑福亭鶴瓶論』(新潮社)、『全部やれ。日本テレビ えげつない勝ち方』(文藝春秋)など。