令和ロマンは「下降しないジェットコースター」奥森皐月も予想していた『M-1』新王者の進化と加速【今月のお笑い事件簿】

文=奥森皐月 編集=高橋千里


年間100本以上のお笑いライブに足を運び、週20本以上の芸人ラジオを聴く、19歳・タレントの奥森皐月

今月は、『M-1グランプリ2023』で優勝を勝ち取ったお笑いコンビ・令和ロマンの魅力を奥森の視点から語る。

年末年始のお笑い番組の消化が追いつかない

年末年始に急増するお笑い番組に、世のお笑い好きの人たちはどう対応しているのだろうかと毎年疑問に思う。

ありがたいことにTVerでの見逃し配信は多いけれど、それも期限がある。足が早い。大量のひき肉を買ってジップロックに分けて冷凍しておくみたいに、いい具合に保存できればいいのに。「〇〇no寄席」もあるし、消化がまるで追いつかない。

私はというと、移動中はラジオの消化、家にいる間は極力お笑いを止めず再生し続ける根性スタイルでどうにかしている。正直これは正月に限らず年中同じである。最適解はいつまでも見つけられない。

『M-1』トップバッター優勝・最短芸歴優勝の令和ロマン

令和ロマンが優勝した2023年の『M-1グランプリ』。中川家以来のトップバッターでの優勝、また最短芸歴優勝(霜降り明星と同率ということになったらしい)という歴史に残る記録を残した。

令和ロマン
令和ロマンインタビューより(撮影=長野竜成)

笑神籤(えみくじ)で1番に令和ロマンが出たときは「今年の優勝は無理か……」と思ったのだが、1本目のネタが始まってから番組が終わるまでずっと令和ロマンの空気が流れていたように感じられた。会場だけでなく世の中を現在進行形で席巻していくさまは本当にすごかった。

令和ロマンのテレビでの露出が増え始めたのは、おそらく2022年の『M-1グランプリ』敗者復活戦以降だ。それ以前はお茶の間の人には知られていなかっただろうし、優勝して初めて知った人も世の中にはたくさんいると思う。

「芸歴6年目でこの貫禄はすごい」と方々で言われているが、私は芸歴1年目のときにもまったく同じことを思った。何がどういうわけでこんなにもリラックスしておもしろいことをし続けられるのだろうかと不思議でならなかった。

2018年、令和ロマンが単独ラジオで見せたおもしろさ

2018年に令和ロマン(当時は魔人無骨)が単独で民放ラジオのパーソナリティをしたことがあり、何気なく聴いて度肝を抜かれたことがある。

単発での放送だったのに、あたかも数年レギュラーでやっているかのような落ち着きと、いい意味での気の抜け方。深夜の3時間生放送だったが、最後までずっとおもしろくて感動したのを鮮明に覚えている。

令和ロマン
令和ロマンインタビューより(撮影=長野竜成)

きっと結成してから一度も立ち止まることなく上昇しているのだと思う。下降しないジェットコースターとでもいうのだろうか、下降するのがジェットコースターなのに。たまにライブでネタを観ても、毎回必ず「前に観たときよりおもしろい」という感想を抱いた。

2020年「3年後に必ず来る芸人」に令和ロマンを予想

私が2020年に『アウト×デラックス』に出演した際に、「3年後に必ず来る芸人」について話す機会があった。そのときに真っ先に名前を挙げたのが令和ロマンだった。

奥森皐月(『アウト×デラックス』出演時の様子)
『アウト×デラックス』収録時の奥森皐月

当時は3年以内に『M-1グランプリ』の決勝に行くと思っていたのだが、さすがにここまで早く優勝するとは想像できなかった。

活躍を予想できていた自慢をしたいわけではなく、3年前と同じ速度と角度で、それどころかより加速しながら進化してそのまま頂点に登り詰めた令和ロマンがあまりにもすごすぎるということを記したい。足踏みすることも、伸び悩むこともなく駆け抜けているように見える。

これはお笑いに限らず、何に置き換えても卓越している才能と努力だ。それを軽々とやってのけているように見えるところまで、カリスマ以外の何者でもないと思う。

くるまの特殊能力が発揮された『令和ロマンの娯楽がたり』

年明けの『フットンダ王決定戦2024』で、ウエストランド井口(浩之)さんがさっそく「令和ロマンの分析がウザい!」と言っていた。

令和ロマン、特に(髙比良)くるまさんの特徴のひとつが「分析好き」というところ。くるまさんはお笑いを職業にしている人とは思えない量のお笑いを観ているし、芸人さんとは思えないくらいお笑いファンのような見方と捉え方をしていると思う。

芸人としての主観とお笑い好きとしての俯瞰、その絶妙なバランス感覚で令和ロマンを操縦しているのはもはや恐ろしい。公言するかは別として分析自体はさまざまな芸人さんがしていると思うが、くるまさんから飛び出る言葉の端々にはお笑いファンが垣間見られる。

令和ロマン
令和ロマンインタビューより(撮影=長野竜成)

特殊能力といってもいい分析を軸に年末に放送された特番『令和ロマンの娯楽がたり』はとにかく見応えがあった。

「さまざまな娯楽やカルチャーに関する“答えのないギモン”をひたすら分析してとことん語り尽くす」というテーマは、令和ロマンが中心だからこそ成り立つものだろう。初の冠番組がきちんと令和ロマンありきの企画なのは素敵だと思った。

番組冒頭からくるまさんによるエンタメ理論の話が始まる。「ベタ」は「メタ」に批判され、「メタ」をさらに批判する「シュール」がある、そして「シュール」に対しては王道の「ベタ」がある。この3つがじゃんけんのように成り立っているという論だ。首がもげるほどうなずけるし、納得がいく。

そして今現在、令和ロマン自体もまたこのサイクルの中にいるような気がする。

たとえば、『M-1』を観て「令和ロマンはおもしろいしカッコいい」と思う人がいて、それを「顔ファンだ」と揶揄する人がいて、それに「ファンを区分するなんてナンセンスだ」と批判する人がいる。これは先ほどの理論にかなり近い状況だろう。

どの意見が正解かは知る由もないが、最近はより広い範囲で俯瞰できた者勝ち、のような風潮ができ上がってきているように思える。熱中したり感情的になったりして視野が狭くなったほうが負けで、冷静に広く捉えれば優位に立っていることになるような。

ただ、最初のくるまさんの理論でいえば、そこに勝つのは「ベタ」となる。結局、誰かがとやかく言っていることすら無視して、自分の好きな対象に夢中になっているのが一番健全で楽しいのではないかと私は思う。

むやみやたらに俯瞰マウントを取る暇があれば、目の前のことに熱中していたい。しかし、これらをすべて文章にしたためている時点で、私もそのサイクルの外側に入り込もうとしていることになるのかもしれない。最後尾のない電車ごっこのようだ。

日本の芸能界は「肩書」が好き

「お笑い番組における各芸人さんのキャッチコピーはないほうがいい」「日本の芸能界は肩書が好き」などの話をテレビという媒体でしている構図もなかなか奇妙でおもしろかった。

メディアの「肩書好き」は私もさんざん感じていたので、山崎怜奈さんが明言していてとても清々しく思った。

たとえばお笑い好きとして仕事をするときは、必ず数字として何時間、何本、お笑いを観ているのかを尋ねられる。

高校生のころは必ず「現役女子高生」という肩書のあとに名前がついていた。結婚の発表をすれば「19歳」と載って、名前が書かれないこともあった。

それに対して私がどう思うかを書くと長くなるので省くが、とにかく芸能界は「肩書」から物事を進めていると思う。もしかしたらこれは芸能界にとどまらず、どの世界にも共通していえることなのかもしれない。

肩書に関する話を親しい友人と議論したことがあったのだが、テレビという手段でこの題材を話されているのを目にする日が来るとは思わなかった。答えのない疑問を語る番組だからこそ生まれた流れだったと思う。

令和ロマン
令和ロマンインタビューより(撮影=長野竜成)

「芸人の天下」という議題におけるAマッソ加納さんの説得力がすごかった。その人になりたいと思えるか、自分の世界を作っているか、ネットでの支持もあるか、など明確な条件をいくつも提示していて、それらすべてに納得がいく説明を添えている。そこに加勢するくるまさんとのやりとりが、あまりにも熱を帯びていて何度も見返してしまった。

強い意見を挟みながら温度を調整するような蓮見(翔)さんの語りと、すべての流れを読んでいるような(松井)ケムリさんの動き。それゆえにか、くるまさんが伸び伸びとしていて、ブレーキがかかることなく火花を散らしながら突っ走っていた。

お笑い以外のテーマも網羅した「カルチャー」を語るのにうってつけの、ジャンルレスなキャスティングもこの番組のすごさだ。あらゆる方向性での説得力を備えている。

ただ、最もスパイスが効いているのはやはり「隣の住人」という設定でたまに現れる永野さん。カルチャーを語る上で最強と思しきこのメンバーを、恐ろしい鋭角から突くことができる唯一の人類が永野さんだと思う。

『週刊ダウ通信』での絡みも大好きなのだが、蓮見さんと永野さんの攻防は本当におもしろい。蓮見翔という才能に真っ向から物申せるのは永野さんただひとりだ。「異才ぶりやがって」のひと言にそのすべてが集約されていた。

その結果か、加納さんが「永野さんはある種の天下を獲っている」という話をしていた。ここ1年でテレビにおける重要度が変わったと言っていて、これにも深く共感した。

『(さんまの)お笑い向上委員会』や『マルコポロリ!』を観ていて、永野さんが無敵だと思う瞬間がよくある。何をやっても許されてしまうような特別な存在になってきている。誰も敵わない。

同じく年末に放送されていた『ブチギレ-1グランプリ』でも、永野さんのすごさを感じたばかりだった。“天下”が代え難い存在のことを表すのであれば、本当に永野さんは天下を獲っていると思う。

ちなみに私はもうひとりだけ天下を獲っていると思っている芸人さんがいる。キンタロー。さんだ。もともと大好きだったのだが、この1年でその天才ぶりをあらゆる番組で感じられるようになった。

『天才子供歌手』『変面』『アンジェリーナ・ジョリー』のネタは何度観たかわからない。最近はanoさんなど流行りのものまねもしているので、2024年はキンタロー。さんをもっとたくさん見たい。

あらゆるカルチャーからお笑いに持ち帰ってトークする令和ロマンの業が圧巻だった『娯楽がたり』。番組として、テーマは「日プ」などキャッチーな事例が必要なのだろうが、そこから派生する漠然とした答えのない話に見応えがあると感じた。

レギュラー化するのかはわからないが、ぜひ第2回も観たい。

今期は『R-1グランプリ』予選がアツい!

私は『R-1グランプリ』の予選がすべての賞レースの中で一番好きなので、1月は個人的にかなりアツい。今年も1回戦でさまざまな収穫があった。

少し前の『水曜日のダウンタウン』で放送されていた「スベリ-1グランプリ」に負けず劣らない空気感を体験することができる。お金を払って観に来たのに、半ギレの表情で舞台を見つめている人もいた。やはりほかのお笑いのライブとは一線を画している。

これからの時期は、お笑い的にはあまりイベントの多くない時期に入るので『R-1グランプリ』の予選に今期は注力しようと思う。出場するわけでもないのに、だ。

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奥森皐月

(おくもり・さつき)女優・タレント。2004年生まれ、東京都出身。3歳で芸能界入り。『おはスタ』(テレビ東京)の「おはガール」、『りぼん』(集英社)の「りぼんガール」としても活動していた。現在は『にほんごであそぼ』(Eテレ)にレギュラー出演中。多彩な趣味の中でも特にお笑いを偏愛し、毎月150本のネタ..

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