年間100本以上のお笑いライブに足を運び、週20本以上の芸人ラジオを聴く、19歳・タレントの奥森皐月。
大盛況で幕を閉じた『THE SECOND~漫才トーナメント~』、そして中田敦彦のYouTubeでの発言など、奥森皐月がコメントせずにはいられない直近の“お笑い事件”を振り返る。
『THE SECOND』は誰も損しない奇跡の大会
『THE SECOND』決勝戦の直前に前回の記事を書いてから1カ月弱。次回の連載では、とりあえずその感想と、そのほかに何かあるだろうか、なんて呑気に思っていた。
たった数週の間にお笑い界は盛り上がり、騒々しくなって、変化している。中堅芸人さんが自撮りをしまくっている。恐ろしいほどの速さ。熱に胸が騒ぐ。
マシンガンズがコンビとして『ヒルナンデス!』に出演する未来を誰が予想できただろう。おもしろさは強く美しく残酷で、とても難しい。
さんざん賞賛され尽くしているが、改めて『THE SECOND』は素晴らしい大会だった。ストレスもノイズも感じることなく、ただ最高の漫才をたっぷり観られた番組。
トップバッターの金属バットの漫才が終わった時点で、凄まじいものが始まったと、誰もが心を揺さぶられたことであろう。どの組が優勝しても納得できるようなハイレベルな戦いで、とにかく観応えがあった。
誰のどのネタがおもしろかったか、とかはもういいや。全員おもしろくてかっこよくて、誰も損しない奇跡の大会だったと思う。
優勝を期待していた囲碁将棋の3本目が観られなかったのは残念だが、『THE SECOND』を通して今一度、囲碁将棋の魅力をたっぷり感じられた。彼らの漫才のおもしろさは確実に全国に広まっただろう。
決勝後に出演した『ラヴィット!』で、よくわからないゲームをしている姿も観られたのでよかった。囲碁将棋がよくわからないゲームをしているところを観られるのは幸せなこと。
『THE SECOND』は、ネタ披露の前のいわゆる「煽りV」がこれまた素敵だった。けっして情に訴えかけ涙を誘う内容ではなく、つらい過去や苦しい現状を詳細に描くこともない。
そのコンビに負けた芸人さんが登場することで、ここまで勝ち上がってきた様がよくわかるし、予選に出場した人が蔑ろにされていないことも伝わる。
システムから審査方法から、初回でこれだけ完成されているのは、制作していた方々の想像もできないほどの努力の賜物だろう。
新たな賞レースが生まれた意味がきちんとあるように感じられたし、お笑い好きがここまで熱くなれる機会もそうそうないので、これから先もつづいてほしい。
中田敦彦の騒動で考えさせられたこと
「最高の大会だったねぇ〜」というお笑いファンのホクホクした熱が落ち着き始めたタイミングで、まさかもう一度着火されるとは思わなかった。美しい花火でも見られればよかったが、どちらかというとボヤ騒ぎに近い。
いま巷をザワつかせているのは、もっぱら中田敦彦さんのYouTubeでの発言。さまざまな人が反応していることで余波が収まらない。インターネット上でもさまざまな意見を持つ人が現れ、かなりの騒動になってしまった。
この騒動は論点が複数あり、それらに対する考えがぶつかり混沌としていて、無駄に複雑化している。正直、お笑い界の権力については外野がとやかく言えることではないと思うし、視聴者の私は何も意見がない。自分が知っているのは、画面を通して楽しく観ている世界だけ。
今回の件で考えさせられたのは「お笑いを観るのに知性は必要か」という点だ(※)。観る上で知性が必要なお笑いと、何も考えずに観られるお笑いがある、というのが前提となっていたが私はその根幹に少し疑問を抱いている。
「Fun」「Exciting」「Interesting」が日本語では一緒くたに「おもしろい」となってしまうとはよくいうが、その広さこそが日本のお笑いなのではないかとも思う。5GAPのコントも、米粒写経の漫才も、おもしろい。この無秩序が成立してしまうところが楽しい。
そのおもしろさがどんな種類なのかは重要ではなく、「おもしろい」と感じられること自体が知性なのではないかと私は思っている。
おもしろさの種類には当然優劣はないし、好みが誰かと完全に一致することのほうが難しい。何を楽しめるかにそれぞれ差があるからこそ、お笑いは進化しつづけていて、観ている側はいつまでも飽きずに楽しんでいられる。
アングラのお笑いがわかるからツウだとか、テレビのお笑いが好きだからニワカだとか、そのような考えはむしろおもしろさの幅を狭めてしまうのでもったいなく感じる。「おもしろい」なんか広いに越したことはない。
私はネジが外れるほどお笑いを観ながら生きているので、最近はもうだいたいのことがおもしろいし楽しい。「何がおもしろくないか」で起こる争いがあるのは悲しい。
ちなみに、今の私が悲しいときでも笑えるお笑いは、キンタロー。さんの『トゥームレイダー』のものまねと、とにかく明るい安村さんの「なるべく大きく見せる」だ。後者は『さんまのお笑い向上委員会』でしか観られないので、レコーダーに録画してある。助かっている。
とにかく明るい安村は、日本を明るくするキーマン!
とにかく明るい安村さんといえば、先日イギリスの大人気番組『ブリテンズ・ゴット・タレント』にて日本人初の決勝進出という快挙を成し遂げ、話題となっていた。
明る過ぎる話題。なんていいニュースだろう。4月に出演したときにも大きな反響を呼んでいたが、再び盛り上がりを見せている。いよいよ世界的スターだ、カッコいい。
1度目の『ゴット・タレント』後にゲスト出演していた『ワイドナショー』で、「旅行感覚で行った」「お土産は何を買おうかということくらいしか考えていなかった」と飄々としていたところもおもしろかった。
勝ってやろうとか人生逆転してやろうとか、そういう張り切った意気込みがないのが逆によいのだろうか。堂々たる姿勢も含めて風格になっている。
安村さんといえばやはり全裸ポーズでブレイクしたイメージが強いが、『有吉の壁』で常に新しいお笑いを生み出しているのも印象的。
名曲「東京ってすごい」をはじめ、いつ見ても見たことのないお笑いをしていてすごい。大喜利もおもしろいし、一発屋風の一発屋芸人ではない芸人さんの代表格だと思う。
コロナ禍になって間もないころの『有吉の壁』で、各芸人さんが自宅からリモート収録をしていた回のことをたまに思い出す。
リモートでできるおもしろいことなんて限界があると思われたなか、安村さんが自宅の一室でバケツの水を何度も被るというボケをして、爆笑をかっさらっていた。何気なくテレビを観ているときにそれを目撃してしまって、涙が出るほど笑った記憶がある。
日本は、とにかく明るい安村さんがいるという事実をもっと誇っていくべき。日本を明るくするキーマンなのかもしれない。
第6回『AUN』開催。大喜利でお笑いが変わる?
6月3日(土)草月ホールにて、第6回『AUN~コンビ大喜利王決定戦〜』が開催された。
ひとつのお題に対してふたりでひとつ回答する「コンビ大喜利」の頂上決戦。この大会の予選となる『AUN~新呼吸~』と『AUN』本戦、どちらもMCとして出演させていただき、激戦を間近で観ることができた。最高のお仕事。
第1回から欠かさず観ていた『AUN』だが、やはり現場で観ると迫力と熱気が凄まじい。大喜利以外の部分の楽しさも名物ではあるが、やはりいざ大喜利が始まったときの真剣さが、どのライブよりもひしひしと伝わってくる。
芸人さんが現在進行形でおもしろいことを考えているのを観られるのが大喜利ライブの醍醐味だと思っている。それをコンビでしているというのがまた特別で、観ていて楽しい。
あなたがもしまだ『AUN』を観たことがないのであれば、一度でいいからこの興奮を体験してもらいたい。ほかのライブとは違うよさが詰まっている。
過去5回の大会で4度優勝している絶対王者・真空ジェシカが今回は決勝戦にも進むことができなかったほど、波乱の展開だった。
優勝は、予選から勝ち上がってきた「こんにちパンクール」。大喜利特化型のYouTubeチャンネル『こんにちパンクール』のメンバーから選出された警備員さんとぺるともさんのユニットだ。歴史に残るドラマチックな闘いが繰り広げられていて、感動すら覚えた。
警備員さんはお笑いトリオ・ハチカイとしても活動しているが、ぺるともさんは芸人さんですらない。ただ大喜利が強い人。このふたりが多数のメディアで活躍する芸人さんを差し置いて優勝するのだから、本当にすごい。実力だけで勝ち上がっている。
おもしろい人がたくさんの人に見つかってほしいといつも思っているので、芸人さんを紹介する仕事もたまにすることがある。
ただ、「大喜利の人」に関しては説明があまりにも難しい。そもそも一般の人がほとんどだから、売れるという概念もないし、誰かにおすすめする必要もない。あくまで趣味で大喜利をしている人たちなので、こちらはこっそり楽しく観るだけだ。
ところが、こうして大喜利だけでYouTubeで動画配信をする集団が生まれ、芸人さんの大会で優勝するまでに波及するようになった。
「大喜利界のQuizKnock」ともいわれているこんにちパンクールは、ほかに似たことをしている人がいない上に、今回優勝したメンバー以外も同じレベルの実力者たちなのだからおそろしい。今後間違いなく登録者が増えると思うので、お笑い好きにはぜひチェックしていてほしいチャンネルだ。
大喜利をやり過ぎていて、ひとつの単語から大喜利をしたり、お題なしで大喜利をしたりしている。大喜利の可能性を広げる企画も数々生み出しているので、これからも楽しみ。大喜利からお笑いが大きく変わる日も遠くないのかもしれない。
夏が近づき『M-1』を感じ始め、自分が重症だったことを思い出す。『THE SECOND』に対して、今年は『UNDER 25 OWARAI CHAMPIONSHIP』『UNDER5 AWARD』といった若手向けの賞レースもあり、予選が進んでいる。
そして、当然賞レースなど関係ないところにもお笑いが点在している。忙しい夏がもう目の前だ。忙しいのは夏に限ったことではない。そもそも忙しいというのもおかしな話だが。
※該当動画の一部は2023年6月11日現在削除されています
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『AUN~コンビ大喜利王決定戦~』第6回
「AUN(阿吽)」とは、金剛力士像や狛犬など“一対の存在”を表す言葉。呼吸をあわせ、ぴったりと行動するふたりを「阿吽の仲」「阿吽の呼吸」と表現します。
つまり、これは“ふたり(コンビ)で戦う”新境地の大喜利イベント。ひとりではできないお題にコンビで挑戦し、トーナメント形式で優勝を決める戦いです。
・『AUN~コンビ大喜利王決定戦~』第6回:〜6月17日(土)アーカイブ配信
・『AUN~新呼吸~』第2回:〜6月17日(土)アーカイブ配信関連リンク