“ヒール役”の令和ロマンが盛り上げた『ABCお笑いグランプリ2024』。ダウ90000、天才ピアニスト、ぎょねこ「魅力と才能で埋め尽くされている」【今月のお笑い事件簿】

文=奥森皐月 編集=高橋千里


年間100本以上のお笑いライブに足を運び、週20本以上の芸人ラジオを聴く、19歳・タレントの奥森皐月

今月は、7月7日に決勝戦が行われた『第45回ABCお笑いグランプリ2024』を奥森の視点で解説。特に気になったファイナリストは?

ドラマがありすぎる『ABCお笑いグランプリ』決勝戦

都知事選で東京がざわめいていた七夕の日、大阪ではまったく違う熱き戦いが繰り広げられた。『ABCお笑いグランプリ2024』(以下:『ABC』)はとにかく盛り上がっていて、終始楽しい大会だった。

『ABCお笑いグランプリ』
(C)ABCテレビ

Aブロックは金魚番長、ぐろう、ダウ90000、天才ピアニスト。Bブロックは青色1号、エバース、フランスピアノ、やました。Cブロックは、かが屋、ぎょねこ、フースーヤ、令和ロマン。どのブロックも一分の隙もない、魅力と才能で埋め尽くされているようなファイナリスト12組がそろっている。

活動拠点がかなりバラバラで、人数や芸風や事務所などもさまざま。“若手お笑いの登竜門”という名目どおり、とにかくおもしろい芸歴10年以内の芸人さんが集まっている。

最終予選メンバー45組の時点でもテレビやライブで活躍している人ばかりで、若手お笑い界の層の厚さを実感した。大阪の歴史ある賞レースだが、近年は関東のコント師が評価されて結果を残しているのが素敵だ。

これまでを振り返ると、2018年に優勝しているファイヤーサンダーは本当にすごいということも改めて思う。のちの『キングオブコント』チャンピオンふた組と、『R-1グランプリ』チャンピオンふたりと、『M-1グランプリ』(以下:『M-1』)決勝常連メンバーを破って優勝していた。みんなもっとすごさに気づいたほうがいい。

今年の決勝メンバーの関東コント勢も、圧倒的な実力を持つ、いい意味で渋いラインナップだった。固定の劇場がある吉本の芸人さんとは違う環境でネタを磨き続けているからこその魅力がある。

過去に決勝大会に進んだ経験のあるダウ90000、フランスピアノ、かが屋。ラストイヤーの青色1号、とそれぞれにドラマがある熱い戦いだった。

ぎょねこの決勝進出に大歓喜!

そして、個人的にはぎょねこが初めて決勝に進出したことがとてもうれしかった。

数年前から東京のお笑いライブシーンではネタに定評があり、実際どのコントも本当におもしろい。しかし、なぜか賞レースでなかなかよい結果が出ていなかったぎょねこ。

『ワタナベお笑いNo.1決定戦』であれば決勝にいて当然の実力だし、『キングオブコント』でももっと勝ち進むべきトリオだと思っている。

金の国やえびしゃが『ツギクル芸人グランプリ』で優勝し、ワタナベエンターテインメントの若手コント師がしのぎを削っているが、ぎょねこはその真髄だと思う。

今回ようやく賞レースの決勝の舞台で観ることができたのは、とても幸せに感じた。強者ぞろいのCグループで惜しかったが、今後あらゆる賞レースで活躍すると思う。

3人全員が小学校からの幼なじみというのも相当珍しくておもしろい。余談だが、3人とも大喜利が強い。トリオ大喜利の大会があったら優勝するのではないかと思う。青木さんの大喜利は数多の芸人さんの中でもトップレベルに好きだ。青木トロッコさん。トロッコさん?

お笑いも演劇も全部本気。一時代を築いているダウ90000

3年連続で決勝に進んでいるダウ90000。演劇公演も単独ライブも定期的に開催し、それぞれ活躍しているのに『ABC』で決勝に残れるというすごさ。間違いなく一時代を築いている集団だと思う。

これだけマルチに活動しているからこそ、すべてを疎かにしたくないのだろうなとなんとなく思う。お笑いも演劇もリスペクトしているから、でもあるだろう。

『M-1』も『キングオブコント』も『ABC』も岸田國士戯曲賞も全部本気。だからかっこいい。限られた時間の中で8人全員が活きている、おもしろいネタができるのはダウ90000だけだ。

前例がないから今は「お芝居みたい」と思う人もいる。きっとそれはマイナスな意味ではない。今後大人数のコントをする人が出てくれば、おそらく「ダウ90000みたい」と言われるし、それだけの大きな挑戦を彼らはしている。

いつかお笑いの大会で8人が優勝しているところが見たい。きっとそんな日も来るのであろう。

主人公にもほどがある、天才ピアニスト

今、本当にネタがすごい芸人の1位は天才ピアニストなのではないだろうか。今回のタクシー設定のネタも、ますみさんの器用さと竹内(知咲)さんのキレのよさが際立つ最高のネタだった。

『NHK上方漫才コンテスト』『女芸人No.1決定戦 THE W』『上方漫才協会大賞』『NHK新人お笑い大賞』など数年の間に賞レースで軒並み優勝していて、その勢いはとどまることを知らない。コンビ名に「天才」が入っていてよかった。

ファイナリスト発表配信ではますみさんが「趣味:賞レース、特技:勝つこと」と話していたが、結果が出ているので嫌味でもなんでもない。むしろすがすがしくて気持ちいい。これまでにないレベルのネタ職人だと思う。

ネタ披露後のトークで「山里さん、賞レース楽しいです!」と放っていて、感嘆と恐怖が同時に押し寄せてきた。ただまっすぐに賞レースを楽しんで、楽しく勝っている。主人公にもほどがある。この先どうなってしまうのであろう。

“ヒール役”の令和ロマンがいたからこそ、盛り上がった

これだけのメンバーが集まっても、最終的に令和ロマンを倒すことはできなかった。

すっかり令和ロマンが「敵」の表現をしてしまったが、実際に今回は『M-1』チャンピオンとして登場し、ほかの11組はチャレンジャーのような側面もあった。彼らこそが一番賞レースを楽しんでいて、ホンモノの賞レースフリークだ。

ただ、『ABC』においては2年連続準優勝という結果があっての今回。リベンジという意味では特別な過去を持っている。

トーク中の振る舞いや「漫才とは、♪JAZZ♫」からは、今大会のヒール的役割を感じたが(本来お笑いの賞レースにヒールはいなかった気もする)、ひと目ネタを観れば本気だとわかった。

ファイナル進出決定時にかが屋・賀屋(壮也)さんが放った「マジでダルいわ」にすべてが詰まっている。この世代の芸人さんの仲間であり、星であり、敵。着々と令和ロマンが進んで作っている道があり、そこを最高速度で走るふたりを阻止することは至難の業。

くるまさんがヒールになった大会だからこそ、最終的に全員がそれに呆れたりぶつかったりする構図になっていて、大会としてだけでなくお笑いの番組としても美しく完成させられていた。

『ABCお笑いグランプリ』
(C)ABCテレビ

QJWebで昨年公開された上半期のお笑いを振り返る記事でも、髙比良くるまさんは『ABC』という大会の魅力を話されていた。

ライブの延長のような感覚で、若手の盛り上がりを届けているのが特徴とのことだったが、今年はその中心人物となり、昨年をさらに上回るおもしろさと盛り上がりを作っていた。優勝をかっさらうところまで含めてスターだ。

決勝の漫才を観ているときに、改めて松井ケムリさんのすごさも思い知った。声を張り上げず、端的なワードで的確にツッコミを入れる。日常会話のままのようなテンションだからこそ、どんな場面でも言葉でもおもしろい。

何年も前からずっとネットニュースにツッコむ投稿(X)をされているが、漫才でもそのインターネット由来のキレのよさのようなものを感じることがある。インターネット育ちのボケがあると近年言われることがあるが、それはツッコミも同様なのかもしれない。

審査員コメントも、カベポスターMCの後番組もおもしろい!

放送後にABEMAで配信されたカベポスターMCの後番組もとても見応えがあった。中でも、決勝での令和ロマンのネタをもう一度流し、永見(大吾)さんが気になる部分で停止して詳しく話す、という企画がよかった。

コントに入る前のツカミについて深掘りしたり、フレーズのよさを賞賛したりと、王者同士の贅沢なやりとりを見られる貴重な時間。くるまさんいわく、2本目の実家のネタはフルだと19分あり、決勝ステージでもウケを見ながらどのボケを入れるか調整していたそう。

そこに完璧にツッコミを入れられるケムリさんも併せて、やはり唯一無二の恐ろしい漫才師だ。「『M-1』で会いましょう」なんて言われたら、今年も優勝するのではないかと思ってしまう。

『ABCお笑いグランプリ2024』令和ロマンが決勝ネタをガチ解説!?

昨年、審査員にかもめんたるの岩崎う大さんが加わったことにより、審査員のコメントが全体的に具体性を帯びるようになったと感じた。漫才・コント・ピン芸とジャンルレスな大会だから、審査員も多種多様なほうがよりおもしろい。

そこに今年は立川志らくさんが加わって、また新たな色が出たように感じた。特に激戦のCブロックにおいて、令和ロマンを2位にしてフースーヤを1位に選んでいた場面。

「両方おもしろくて競ってたが、令和ロマンは意味のわかる笑い、フースーヤは意味のないお笑い。持論として意味があるものは意味のないものに勝てないと思っているため、フースーヤを1位にした」というようなコメントがあった。

各審査員に基準があり、このような考えを持つ人もひとりはいるべきだと思う。これを志らくさんが明言したことには大きな意味がある気がする。少し選挙と似ているかもしれないと感じた。叶うのであれば来年以降も審査員にいてほしい。

「ライブ感」のよさは、山里さんのMCがキーポイント

大会全体を通して、審査コメントの前後やブロック発表の前後など、しっかりとMCや審査員との絡みがあるのが楽しい。

山里(亮太)さんのMCがあるからこそ、ほかの賞レースと違う温かい平場の時間ができて、芸人さんものびのびとしているように感じる。『ABC』の「ライブ感」のよさは山里さんのMCがキーポイントだろう。

【ABCお笑いグランプリ】決勝のAブロックを司会の山里亮太が発表!

決勝進出者発表会も山里さんがMCだったが、その場で次々と流れやくだりが発生して進んでいた。特に「今の気持ちを○○さんに伝えたいです」と次々に言うくだりが続いていたが、どれもこれも山里さんがフォローできるから全員が体重を乗せて楽しくやっているように見えた。

今回の決勝では、1本目のネタ終わりにダウ90000の蓮見(翔)さんが「2年連続ここで負けてるのでなんとか勝って、2本目はミュージカルなんで」と言い、すかさず金魚番長が「僕らも2本目『ワンピース歌舞伎』やるんで」と差し込んだ流れが最高だった。

わずかな時間でも何度も笑わせられるので、トークパートのおもしろさは『ABC』が一番かもしれない。

来年の『ABC』も楽しみだ!

昨年に増す勢いで今年も大盛り上がりだった『ABC』。ファイナリストが今年の『M-1』や『キングオブコント』で優勝する可能性もじゅうぶんにある。

ここからの1年でまたお笑い界が盛り上がれば、来年もまた新たな楽しみのある大会になるであろう。漫才・コント・ピン芸・ミュージカル・歌舞伎が戦う大会なんて想像ができない。

ネットニュースで令和ロマン優勝の画像に「ワンピース歌舞伎」が写っていてゲラゲラ笑った。来年は並んでいる人全員白塗りかもしれない。また1年楽しみだ。

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奥森皐月

(おくもり・さつき)女優・タレント。2004年生まれ、東京都出身。3歳で芸能界入り。『おはスタ』(テレビ東京)の「おはガール」、『りぼん』(集英社)の「りぼんガール」としても活動していた。現在は『にほんごであそぼ』(Eテレ)にレギュラー出演中。多彩な趣味の中でも特にお笑いを偏愛し、毎月150本のネタ..

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