興奮冷めやらぬ『M-1グランプリ2023』決勝の感想とファイナリストたちの魅力

2023.12.31

文=かんそう 編集=鈴木 梢


12月24日(日)に開催された『M-1グランプリ2023』決勝。決勝に初進出した令和ロマンが優勝したが、ファイナリストそれぞれの印象的なネタや大会全体の見どころが話題を呼び、今も興奮冷めやらぬ人々であふれている。本記事では、そんな決勝全体の感想を、ブロガーのかんそうが興奮をそのままに綴る。


ファイナルラウンドに進んだ3組の感想

「『M-1グランプリ2001』中川家以来のトップバッター優勝」という展開を誰が予想したか。「新時代」という言葉しか出てこない。

令和ロマン(左:髙比良くるま、右:松井ケムリ)(C)M-1グランプリ事務局

優勝した令和ロマンは今年で結成5年目だというが、決勝初進出の緊張感を一切感じさせない貫禄、肝の据わり方はいったいなんなのか。ツカミにじっくりと時間をかけることで令和ロマンを知らない人間にも「こいつらはなんかヤバい」という印象を与え、場の空気を支配していた。

本ネタ序盤での「え? 学校どこ?」の間のすごさには鳥肌が立ち、直後の「それをマジで全員で考えたくて」と言いながら客席に向かって座り込んだのには、おもしろさと同時に恐怖すら覚えた。ファイナルラウンド『町工場』での「単純作業ばっかでつまんねえな」然り、ひとつのくだりに時間をかけることで観ている側のハードルはどんどん上がっていくはずなのに、そのハードルをすべて超えてくる。5年どころか芸歴35年目にしか見えなかった。

また、ボケの髙比良くるまが優勝後に言った「事前にネタを4本用意していて前の組がしゃべくり漫才をやったら漫才コントを、漫才コントをやられたらしゃべくり漫才をやろうと作戦を立てていた」というコメントの冷静さ、狂人に見えてその裏で冷静な一面を見せる姿は、アメフトマンガ『アイシールド21』に登場する主人公チーム・泥門デビルバッツの司令塔・蛭魔妖一を彷彿とさせた。

2020年大会で全体の流れを見ながら直前にネタを変更したマヂカルラブリー野田クリスタルもそうだったのだが、100のおもしろさを200にも300にも見せるために最善の準備をする。「才能」という言葉だけでは片づけられないすごみがあった。

ヤーレンズ(左:楢原真樹、右:出井隼之介)(C)M-1グランプリ事務局

その令和ロマンと僅差の戦いを繰り広げたヤーレンズも、決勝初進出とは思えないほど飄々とした雰囲気をまとっていた。今回の令和ロマンのネタとは対照的に、ひとつのくだりにかける時間を極限まで狭めて矢継ぎ早にボケを重ね、笑いの波が収まる前に次の笑いの波を起こすスタイルは、言葉にすれば簡単だが少しでもズレるとノイズになってしまいかねない。しかし、ヤーレンズは気持ちいい速度とテンポを正確に保ったまま無量空処のようにとんでもない量の笑いを脳に詰め込んでくる。

記憶が確かであれば、ヤーレンズは数年前までは「脱力系」といわれるゆるい雰囲気の漫才をやっており、ちゃんと設定を決めて物語を積み重ねていく今のスタイルになってからそう年月は経ってないはず。とんでもない修練の末に現在のかたちが完成したものだということを踏まえて観ると、とんでもないものを観ているような感覚になった。特にファイナルラウンドで披露された『ラーメン屋』のネタは去年の敗者復活戦でも披露されたネタだったのだが、そのときよりもさらに精度が磨かれすべてがパワーアップしていた。

さや香(左:新山、右:石井)(C)M-1グランプリ事務局

ファイナルラウンドで『見せ算(※)』という1stラウンドとはまったく違うスタイルの漫才を披露し衝撃を与えたさや香は、芸人として本当に格好よかった。観る人間によっては悪手だと捉える人もいるかもしれないが、『M-1グランプリ2023』のテーマでもある「爆笑が、爆発する。」をどこまでも狙いに行くその姿は最高だった。『M-1グランプリ2021』の敗者復活戦で見せた伝説のネタ『からあげ4』を思い出させた。

※「見せ算」=四則演算の五つ目で、数字と数字を見せ合わせて「どう思うか」を考える演算方法。

1stラウンドで印象的だったコンビとネタの魅力

ダンビラムーチョ
ダンビラムーチョ(左:大原優一、右:原田フニャオ)(C)M-1グランプリ事務局

3組以外で好きだったのは、決勝初進出のダンビラムーチョだ。得点こそふるわなかったが、曲のメロディを口で演奏することを「カラオケ」と言い張る世にも奇妙なネタは、私も趣味で曲のメロディを文字起こしする活動をしているので激しいシンパシーを感じた。1曲目、BUMP OF CHICKEN「天体観測」のイントロのギター音である

「チョオオオオオ〜〜〜…チィイイイイイイイ………!チカチカチイィイイチカチカチイチカチィジャチカチイチカチカチィ!ジャチカチイチカチイチカチィジャチカチイチカチイチカチィ!ジョンゼゲゼゲゼスゥーーゼッ!スゥーーゼッ!」

から、あまりにも完璧な再現度。どれだけ原曲を聴き込んでメロディを奏でているのか、私には痛いほど伝わってきた。しかも、イントロだけでなくワンコーラスすべてをコピーする異常性には震え上がった。「最初のツッコミまでが長い」と言われてしまったが「何してんのこれ?」という狂気を笑うネタだと思う。心から「もっとウケてほしい」と願ったネタだったし、ぜひ「天体観測」を聴いてからもう一度見返してほしい。

マユリカ
マユリカ(左:阪本、右:中谷)(C)M-1グランプリ事務局

マユリカも、決勝初進出組で確実に爪あとを残した1組だと思った。ふたりの持つ雰囲気とネタの合致具合が相変わらず最高で、ネタを見るとふたりのことを知りたくなるし、ふたりのことを知るとネタを見たくなる。そんな相乗効果が生まれるコンビだと思う。

また、3歳で出会った幼なじみコンビというマンガとしか思えないほどドラマチックなバックグラウンドがありながら、コンビ紹介ムービーで「ずっとキモダチ」と紹介され盛大にイジられるなど、少ない出演時間にもかかわらずネタ以外でもおもしろいポイントが多すぎた。優勝した令和ロマンを除けば、これから最も露出が増えそうなコンビだと思った。

くらげ
くらげ(左:杉昇、右:渡辺翔太)(C)M-1グランプリ事務局

2019年大会でその存在を知った、くらげも本当におもしろかった。「おじさんがサーティワンアイスやサンリオやリップに異常に詳しい」というネタは一見単純だが、昭和の俳優のような渋いビジュアルを持つ渡辺翔太と、何を言われても動じなさそうなサイコパスみのある雰囲気の杉昇でしか成立しない漫才になっていたと思う。それぞれのガチ勢の感想はわからないが、自分のようなそれをほとんど知らない人間にとっては呪文としか思えない奇妙な文字の羅列の中に、ワンテンポ溜めてブチ込まれる「ナッツトゥユー」「みんなのたあ坊」「ちふれ」の間抜けさがたまらなかった。

シシガシラ
シシガシラ(左:浜中英昌、右:脇田)(C)M-1グランプリ事務局

敗者復活戦で勝ち上がったシシガシラも「ハゲネタで一生行く」という覚悟は芸人の魂を感じたし、決勝経験組である、真空ジェシカ、カベポスター、モグライダーも手の内がバレているなかでより磨き上げられた漫才を見せてくれた。敗者復活戦に出場した芸人を含めた30組すべて1組も似た漫才がない「まだこんなおもしろい漫才があるのか」と再確認させてくれた最高の『M-1グランプリ』だった。

1ミリも想像していなかった「トップバッターの優勝」が現実に起こってしまった。もはや、何が起こっても不思議ではない。『M-1グランプリ2024』はラブリースマイリーベイビーの優勝を予想したい。


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かんそう

1989年生まれ。ブログ「kansou」でお笑い、音楽、ドラマなど様々な「感想」を書いている。

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