<いとうせいこう×Zeebra>日本語ラップの開拓者たちが語るフリースタイルブーム

2020.1.26
Zeebra

文=鈴木 工 撮影=木村心保


自由に発言をしたいと思ったとき、今はリアルな場でもSNSでも、選択肢はたくさんある。その中であえて「ラップ」を手段に選ぶのはなぜなのか。テレビ朝日『フリースタイルダンジョン』から一般にも広まったフリースタイル文化。その原点と変遷について、いとうせいこうとZeebraが語り合った。

※本記事は、2016年7月7日に発売された『クイック・ジャパン』vol.126掲載の記事を転載したものです。


自由が求められる時代にブームが起きた

『フリースタイルダンジョン』の審査員とオーガナイザー。若者からはそう見えるであろう、いとうせいこうとZeebraは80年代、90年代に、それぞれが日本語ラップの土台を築いてきた開拓者である。それから時は経ち、今や日常的にラップする若者が登場する時代へ。シーンの原点を知り、変遷を眺めてきたふたりに、現在のフリースタイル文化はどう映っているのか?

――今のフリースタイルブームをどう見ていますか?

いとう それこそZeebraは自分でブームを作ってきたわけじゃない?

Zeebra これに関してはそうかもしれませんね。ただ正確にはブームを作ったというより、MCバトルが盛り上がっていた中で、僕がメディアに乗せたみたいな立場なんですけど。

いとう でも『高校生RAP選手権』に最初から関わってきて、次にバトルを地上波でやってみたら一気に水が流れたみたいな感じはあるよね?

Zeebra MCバトルって、そもそも面白いコンテンツとしての強みを持っていたと思うんです。そこがうまく流れに乗った感覚はありますね。

いとう 『フリースタイルダンジョン』がはじまるにあたってさ、Zeebraが「審査員の席に座らないか」って俺に振ってきたのは、「ああ、TV的な角度をつけてほしいってことだな」と思ったわけ。

Zeebra その通りです。

いとうせいこう

いとう ハードコアなヒップホップファン、つまりヘッズたちは字幕がない状態でワーッとバトルを楽しめて、それはすごいいいわけじゃん。だから俺はヘッズに向かってというよりは、なにも知らない視聴者に向かって、今どんなことが面白くなってるかを解説していく。これってTV的な仕事なんだよね。それによって、ラップに詳しくない人が番組をふと見たとき、「お笑いの審査みたいなことやってるなー」で引っかかって、入っていけるから。またヘッズはヘッズで、「あのラッパーが出てきた!」で騒ぐ。それに今、TVはそこまで自由じゃなくなってるから、「コンプラかかってる中で、あんなすごいこと言ってるぞ」という刺激を受けてる気もして。

Zeebra そうですね。自由度が少ないゆえ、TV離れが起きてる気もするんですよ。ネットメディアの方がよっぽど自由で、それこそ『高校生RAP選手権』をはじめた『BAZOOKA!!!』なんて自由の塊みたいな番組だし(笑)。スポンサーがないから、なんの企画をしようがかまわない。フリースタイルがブーム化してきた背景には、そういう自由さがウケてることもあるのかなと。
ここ最近、Twitterにしても、昔に比べると炎上しやすくなっているじゃないですか。みんなだんだん言葉を選ぶようになって、言いたいことが言いづらい状況がある。その中で『フリースタイルダンジョン』に出てくるラッパーは言いたい放題、けなしたい放題言ってるわけで、そういうスッキリ感みたいなものも支持されてるんじゃないですかね。

いとう それはディスり合いではあるんだけど、ネットの炎上のような意地の悪いディスり合いじゃない。最後に「お前よかったよ」って握手もするしさ、拳も合わせるしさ、騎士道精神があるうえでのディスり合いじゃん。そこが重要。

Zeebra ディベートみたいなもんですね。アメリカだったらそれこそ大統領選ですよ。ふたりが一騎打ちで議論して、それがエンターテイメントにもなっている。

いとう 人は自由度が高いものに納得するし、しかもラップは自由に思ったことをその場で言えちゃうから、議論するうえでますます説得力を増していくわけで。

Zeebra

Zeebra その面白さや楽しみ方が、番組から広がっていけばいいのかなと思います。

いとう 本当にそう。ただそれが上から引っ張る必要もなく、草の根的に下からぞろぞろ出てきちゃったというのが面白いよね。僕らはその通風口を開けて、風の流れ方を多少コントロールする役割を果たせばいい。

Zeebra そのへんは我々年配組の仕事ですね(笑)。ラッパーがマイナスの印象を与えたらもったいないし、道をうまく作りたいですよね。


いとうせいこう
1961年生まれ、東京都出身。1988年に小説『ノーライフ・キング』でデビュー。
1999年、『ボタニカル・ライフ』で第15回講談社エッセイ賞受賞、『想像ラジオ』で第35回野間文芸新人賞受賞。近著に『鼻に挟み撃ち』『我々の恋愛』『どんぶらこ』『「国境なき医師団」を見に行く』『小説禁止令に賛同する』『今夜、笑いの数を数えましょう』『「国境なき医師団」になろう!』などがある。
執筆活動を続ける一方で、宮沢章夫、竹中直人、シティボーイズらと数多くの舞台をこなす。
みうらじゅんとは共作『見仏記』で新たな仏像の鑑賞を発信し、武道館を超満員にするほどの大人気イベント『ザ・スライドショー』をプロデュースする。
音楽活動においては日本にヒップホップカルチャーを広く知らしめ、日本語ラップの先駆者の一人である。現在は、ロロロ(クチロロ)、レキシ、DUBFORCE、いとうせいこう is the poetで活動。
テレビのレギュラー出演に『ビットワールド』(Eテレ)、『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日)、『トウキョウもっと!2元気計画研究所』(TOKYO MX)、『新テレビ見仏記』(関西テレビ)などがある。

Zeebra
(ジブラ)東京を代表するヒップホップ・アクティビスト。GRAND MASTER代表。97年のソロデビュー後、その音楽性の高さから他のアーティストからの信頼も厚く、安室奈美恵、DREAMS COME TRUE、長渕剛、EXILE、小室哲哉などのメジャーアーティストや、TOKUや日野賢二といったJAZZミュージシャンとの共演もこなすなど、その幅広い客演作品は総数100をも超えている。2014年、『クラブとクラブカルチャーを守る会』を設立。その活動が2016年6月23日の法改正へとつながり、大きな話題となった。テレビ朝日『フリースタイルダンジョン』の企画・司会も務め、同番組はインターネットテレビ「AbemaTV」にて放送され、若い世代を中心に空前のMCバトル人気となっている。


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鈴木 工

(すずき・たくみ)ライター。雑誌『プレジデント』、『芸人芸人芸人』など、芸人関係からビジネスまで執筆する。

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