本質を視る、考える、言葉にする
――この5年で、ほかにも変化したように感じることってありますか。
田中 言葉がどれだけ大切なのかは、すごく考えるようになりました。結成当初は「伝わればいい」って思ってたんですけど、そもそも“伝えること”がどれだけ難しいかわかったし。あとは、すごい考えるようになりました。ニュースを見て受け止めるだけで終わらず、自分の考えを持つようにしてます。お父さんとテレビを見ながら「これについてどう思うか」って話すことも増えました。
――ブログでは選挙についても触れてましたよね。
田中 18歳になったとき、何も知らないまま選挙を迎えるのはやばいと思って。最近は過去のマニフェストを読んだりしてます。本当にまだまだなんですけどね(笑)。でも、答えがないことを考えるのが楽しくなりました。
――雅功さんは好きな作家に伊坂幸太郎氏を挙げていたので、もともと考えるのが好きな方だと思っていました。
田中 中学生のころは、伏線や話の筋を楽しんでた感じがあります。でも、最近は読み終えてから「どういうことだろう」って考えるようになって。哲学的な要素も多い作家さんなので、ストーリー以外での魅せ方もあるのだと思うようになりました。
――彪我さんは、いかがでしょう。
髙田 僕は表現への理解が、広がった気がしてます。歌やギターはもちろんですけど、文章や写真、演技も表現じゃないですか。そういうものに触れて、思いは一緒だけど伝え方はいろいろあるんだなって。当然のことなんですけど、単にテクニックがあるだけじゃなくて、思いを歌に込めることが大切なんだと改めて思いました。ライブごとに「どういうことを伝えたいか」を、ふたりで深く考えるようになりましたね。
田中 最近はパフォーマンスがうまくいったときもいかなかったときも、“なんで”を言語化するようにしてるんです。なんとなく「こんなふうにダメだったんだろうな」って思ってても、意外と言葉にするのは難しかったりして。わかったつもりになってるより、「今のはこうだったね」って、同じものをちゃんと共有できたほうがいいじゃないですか。たまに、どうしても言語化できないときもあるんですけど、ひとりじゃないのは心強いです。
――その“なんでの言語化”を始めたきっかけってあったんですか。
髙田 雅功がズバッて提案してきた気が……。
田中 ふわって「やったほうがいい」と思って、自分でやってみたらよかったんですよ。それで、彪我に「やろう」って言った気がする。
――ボキャブラリーを増やそうと意識し始めたのも、その延長線ですか。
田中 できるだけ言葉の幅を広げたいんです。似たような響きでも、全然ニュアンスが違ったりするじゃないですか。それこそ阿部さんの『心をつかむ超言葉術』に出てきた、「可憐」と「華麗」とか。ボキャブラリーが増えれば、細かいところまで表現に反映できるかなって。
髙田 思ったことを、すぐに適切に言語化するって本当に難しい。作詞するときも、もっとボキャブラリーが欲しいって思うもんね。同じ意味でも違う言葉とか選べたほうが、表現の幅も広がるし。
――ここ最近、表現をする上で影響を受けた作品ってなんですか。
田中 4年ぶりくらいに、ふたりで映画を観に行った『ミッドサマー』かな。僕は有意義だったんですけど、彪我は二度と観たくないって(笑)。
髙田 すごかったよね。あれも表現の一部じゃないですか。あそこまで過激にするからこそ、伝わることもあるんだな……って。
田中 ああいう作品ってショッキングなシーンが多いし、そういう場面が切り取られやすかったりすると思うんです。映画を観た人に「ひと言で表してください」って頼んだら、ほとんどの人が「衝撃的だった」って答えるだろうし。でも、そういう場面だけで作品を判断しちゃいけないので、自分に言い聞かせながら観ました。
――強烈さに惑わされないで、本質を見なきゃいけない……と。
田中 中学3年生のときだったかな……山田孝之さんが言ってたんですよ。「大きいものに目が行きがちだけど、隠れてるものが意外と大切だったりする」って。それがずっと心に残ってて。
――強烈な見出しで目を引くゴシップ誌などに、届けたい言葉ですね……。
田中 見出しでバンッて興味を惹くことも、表現のひとつとしては大事だと思います。メッセージ性の強さを押されても、あまり観たいとはならないじゃないですか。だったら『アベンジャーズ』とかを観てたほうが楽しい(笑)。どっちも大切ですよね。刺激的なほうへ興味が惹かれるのはしょうがないことなんですけど、それで本質を見逃すことがないようにしたいです。映画に限らず、何事も。
さくらしめじ
田中雅功と髙田彪我のふたりからなるEBiDAN初のフォークデュオ。
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