『アンという名の少女』シーズン3<7話>赤毛の革命家、アンの正義暴走の果てに

Netflixシリーズ『アンという名の少女』シーズン1~3独占配信中

文=米光一成 編集=アライユキコ


L.M.モンゴメリ不朽の名作『赤毛のアン』に、大胆な現代的アレンジを加えたNetflixドラマ『アンという名の少女』シーズン3第7話「正義を信じる行い」は、6話で起きたジョーシーの事件に怒って起こしたアンの行動が、村を巻き込む大騒動に発展する。『ぷよぷよ』『はぁって言うゲーム』『変顔マッチ』などのゲームの作家でライターの米光一成による全話レビュー。


「どうして止めてくれなかったの赤毛の革命家を!」

アンたち学生が作ったアヴォンリー新聞は「フェア特集」。この「フェア」は、第6話で描かれたカウンティフェア(農作物品評会を中心にした夏祭り)のこと。だが、開くと「WHAT IS FAIR?」というアンが書いた記事が出てくる。このフェアは「公平」の意味で、「公平さとは?」という記事がまるまる1ページ!

ざわ、ざわ。

“体の不可侵性” “愚かな古いルール” “女は男に補完されない。生まれながら完全”

などの文字が踊る。

教会で、アンの記事が波紋を呼ぶ。

しかも、名前は伏せているが、カウンティフェアで起こったジョーシーとビリーの件を受けて書かれているのは明白だ。ビリーは、ジョーシーに強引に関係を迫ったうえに、嘘を交えた噂を流してしまったのだ。
読んだジョーシーは泣きながら、教会から出ていく。
先生も声を尖らせて、「どうして止めてくれなかったの赤毛の革命家を!」とギルバートに詰め寄る。「知らなかったんです。彼女が勝手に」 そうギルバートたちは何も知らない。アンが深夜、ひとりでやったことなのだ。
「たかが学校新聞なのに、まるで政治家の演説だ」と男がステイシー先生を責める。

ジョーシーはアンを許せない

教会から戻ったマリラは、アンを叱る。アンは反論する。

「女性は意見を述べちゃいけないっていうの?」

マリラが「ジョーシー・パイを傷つけたでしょ」と言っても、「彼女の名前は出さずに女性全般について書いた」と反論する。正義が暴走して視野狭窄に陥っている。
「誰のことか明らかだった。ジョーシーは泣きながら教会を駆け出していったんですよ」と言われて、アンはようやくことの重大さに気づく。
アンは、ジョーシーに謝りに行く。だが、ジョーシーはアンを許せない。アンを平手打ちする。

学校でも、アンの暴走は止まらない。
ギルバートが冷静に語ろうとしても、アンが口をはさむ。先生が諌めて、ギルバートに話をさせる。

Netflixシリーズ『アンという名の少女』シーズン1~3独占配信中
ギルバートの言葉にもアンは耳を貸さない/Netflixシリーズ『アンという名の少女』シーズン1~3独占配信中

「君は公平な姿勢じゃなかった、ぼくらに対して。みんなで話し合っていっしょに内容を練ればよかったんだ。平等を訴えるにしても、だれかひとりを傷つけることなく記事が書けたはずだ」

ギルバートの意見にも、聞く耳を持たない。
「あなた平等を主張できる立場?」と棘のある声で返し、「土地でも買うみたいに女性を買おうとしてた」と、これはちょっとひどい言い方。おそらく嫉妬も混じっている。


アンがもしSNSをやっていたら……

ステイシー先生が「編集長は私よ」と場をまとめ、許可なく新聞を印刷することを禁止した。
「相談してくれればよかったのに」とステイシー先生がアンにやさしく言うが、アンは「すぐ記事にしないとインパクトが薄れると思ったんです」と主張する。
急ぎ過ぎたせいで読者にも受け入れられず人を傷つけたのだ、と先生はゆっくりとアンを説得する。

伝え方や言葉の選び方に慎重にならなければ正論であっても人を傷つけることがあることを、アンの行動で描いていく。
正義を味方につけたアンは、なかなか聞く耳を持たず、正義を主張する。けれど、傷つけたジョーシーのことや、先生やギルバートの声によって、少しずつ考えを深めていく。

SNSで個人が情報を発信できるようになって、正義の暴走は、大きな問題になっている。指先だけでカタカタと人を傷つける言葉を発することが簡単にできるようになってしまった。
アンがもしSNSをやっていたら、次々と炎上を巻き起こして、もっと大騒ぎになっていたかもしれない。

その一方で、アンが主張した内容については、物語は妥協しない。

学校評議会の男たちが、リンド夫人の意見を無視して、一方的に決議を取る。新聞の内容は評議会が決定し、アンを新聞づくりから外すことを決めた。
これにはステイシー先生もご立腹。「おおごとねー」とマリラ。だが、ステイシー先生は、頭に血がのぼって、もう止まらない。

言論の自由は基本的人権

ギルバートの力説で、みんなとアンは和解する。

アンは、ジョーシーに再び謝罪に行く。

「また叩いていいよ」
「顔にペンキついてる」

ジョーシーも少し落ち着いている。あの記事の内容そのものには共感しているのだ。
「明日行動を起こすの」とアンは計画に誘うが、「絶対にイヤよ」とそれは断られる。

アンたちは、公会堂まで行進し、人を集め、会議中の評議会メンバーに意見を表明する。
ジョーシーもやってくる。

「評議会はわたしたちを黙らせようとしました。そこで、私達からの返事です」

アンがそう言うと、さるぐつわをした学生たちが、木の板に書いたメッセージを示す。

「言論の自由は基本的人権」

評議会の男たちが「引きずりおろせ」と、実力行使に出ようとしたときにフラッシュ、写真が撮られる。
「ステイシーさん、こどもたちの暴挙を止めるんだ」という男に対して、
ステイシー先生は毅然として言う。

「かれらは子供じゃありません。これは暴挙じゃありません」

拍手が巻き起こる。

Netflixシリーズ『アンという名の少女』シーズン1~3独占配信中
「FREEDOM OF SPEECH IS A HUMAN RIGHT」(言論の自由は基本的人権)Netflixシリーズ『アンという名の少女』シーズン1~3独占配信中

原作の『赤毛のアン』に学校新聞をつくるエピソードは出てこない。が、シリーズ2作目『アンの青春』のなかで、アンたちが「アヴォンリー村改善協会」を設立して活動する場面がある。

アヴォンリー村改善協会は、正式に設立された。ギルバート・ブライスが会長、フレッド・ライトが副会長、アン・シャーリーは書紀、ダイアナ・バリーは会計係になった。彼らはほどなく「改善員」と呼ばれるようになり、二週間ごとに会員の家に集まることになった。もう秋口なので年内はたいした改善もできないが、来年夏の活動にむけて計画を練るつもりでアイディアをつのり、話しあい、また新聞に記事を書き送り、いろいろな紙面を読んだ。アンが語ったように、広く公共の気運を養うのだ。

『アンの青春』L.M.モンゴメリ 著/松本侑子 訳
『アンの青春』L.M.モンゴメリ 著/松本侑子 訳
『アンの青春』L.M.モンゴメリ 著/松本侑子 訳/文藝春秋

ダイアナとの諍い、ギルバートとの接近

大きなテーマを扱った激動の回だった。

そのなかで、アンと、アンの重要な人物の関係性が揺れ動いた。
ダイアナとジェリーが付き合ってることを知り、アンとダイアナは言い争いになってしまう。ダイアナは、シーズン2の第4話からずっと友情の証として首にさげていたロケットペンダントを引きちぎり地面に叩きつけてしまう。ふたりとも泣きながら、絶交する勢いで、別れる。評議会への抗議集会にもダイアナはやって来なかった。

アンは、ギルバートと、喧嘩をするが、こちらは仲直りする。ふたりの仲が深まっていった。
ラスト、見つめ合っていい感じだったのに、アンは恋には不器用だ。
「ウィニフレッドは幸せね」と言って、立ち去ってしまう。
アンとギルバートの恋、そしてアンとダイアナの仲はどうなっていくのか?

『アンという名の少女』全話レビュー・あらすじまとめ/記事一覧

Anne With An E | Season 3 Official Trailer | Netflix

『アンという名の少女』概要

原題:Anne with an “E”
制作:2017年 カナダ
原作:L・M・モンゴメリ
製作総指揮:モイラ・ウォリー=ベケット

キャスト
アン・シャーリー(エイミーベス・マクナルティ)(上田真紗子)
マリラ・カスバート(ジェラルディン・ジェームズ)(一柳みる)
マシュー・カスバート(R・H・トムソン)(浦山迅)
ダイアナ・バリー(ダリラ・ベラ)(米倉希代子)
ギルバート・ブライス(ルーカス・ジェイド・ズマン)(金本涼輔)
レイチェル・リンド(コリーン・コスロ)(堀越真己)
ジェリー・ベイナード(エイメリック・ジェット・モンタズ)(霧生晃司)

Netflixシーズン1から3まで配信中

「11歳」「小さな顔は青白くて、肉が薄く、そばかすが散っている」「口は大きいが、目も大きく」「額が広く豊か」まさにアン!Netflixオリジナルシリーズ『アンという名の少女』シーズン1~3独占配信中
シーズン1のアン/Netflixシリーズ『アンという名の少女』シーズン1~3独占配信中

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