L.M.モンゴメリ不朽の名作『赤毛のアン』に、大胆な現代的アレンジを加えたNetflixドラマ『アンという名の少女』シーズン3第6話「願望の行き着くところ」は、カウンティフェア(農作物品評会を中心にした夏祭り)で、みんな楽しく盛り上がっているところに、とんでもない事件が勃発するエピソードだ。『ぷよぷよ』『はぁって言うゲーム』の作者でライターの米光一成による全話レビュー。
美人と腕を組んで歩くギルバート発見
カウンティフェアの品評会(ケーキ部門)に向けて、アンは、ケーキを作っている。「へっくしょん!」 夏風邪を引いてしまってる。
「メアリーのレシピで優勝するって決めたから」
マシューは、巨大なカブを引き抜く。これで(巨大な農作物部門)優勝だとニンマリ。
そして、いよいよ品評会が開催される。
原作の『赤毛のアン』の中でも、アンは品評会に行っている。シャーロットタウンで開催された品評会の様子を、アンは、マリラに、報告する。人混みの中でレイチェル・リンド夫人を発見したのだと。
知らない人ばかりの人混みの中で、見慣れたおばさんの顔を見たとたん、どんなにおばさんのことが好きか、初めてわかったわ。何千人もの人出だったのよ、マリラ。自分がとてもちっぽけに感じられたわ。
『赤毛のアン』L.M.モンゴメリ 著/松本侑子 訳/文藝春秋
カウンティフェア当日。
アンは、お祭り会場の占い小屋に入り、「お願いです。どうしても知りたいことが」と切実に訴え、「花占いを何度も試した」とつけ足す。そりゃ占い師のマダムも「恋の悩みだね」とアンの心を当てられる。
タバコの煙を吹き込んだ水晶玉を覗いて「男が見えるよ」と答え、適当なことを告げ始める占い師。
「背が高くて、髪が黒くて、とってもハンサム、ダンスがうまい」
「なんて言いました!?」
アンは、「ダンス」という偶然の言葉を、必然と感じてしまう(第5話、ふたりはダンスで気持ちを近づけた)。
「わたしの真実の愛の相手はダンスがうまい! ギルバートが運命の人かも!」
と占いを信じないタイプのダイアナに報告すると──。
「あ、ギルバート」
とダイアナがつぶやく。視線の方向をアンが見ると、そこには、シャーロットタウンに住む美人のウィニフレッドと腕を組んで歩いているギルバートがいる! アンはショックを受ける。
「あなたが当てたのは天気がいいってことだけ」
返金を求めにプンプンで占い師を突撃するアンに、占い師は「世界は不思議に満ちてるんだよ」とにべもなし。
「あんたが見たことはどうやっても消せやしない。諦めることだね。その男はあんたのものにはならない」
さらに運命はアンに追い打ちをかける。品評会の審査委員が、アンのケーキを食べた直後、げほげほとむせて、「こりゃ、なんだ湿布薬の味だ」。
恥ずかしくてその場から逃げ出すアン。
「メアリーがあの場にいたとしたらきっと笑っただろう」と追いかけてきたギルバートが慰めるが、アンは落ち込みから脱することはできない。
マシューのカブが奇妙奇天烈野菜賞!
このあと、ケーキ作りの途中でビンを割って貯蔵庫のバニラを使ったことを語るアンに、マリラが「それじゃ、わたしのせいね。何年か前、湿布薬を割ってしまってバニラエッセンスのビンに中身を移したの」と答える場面がある。
これも、原作の『赤毛のアン』に登場するエピソード。品評会ではなく、アラン夫妻をお茶に招いたときに出したレイヤーケーキだ。
「何てことだろう、アン。あんたが使ったのは、痛み止めの塗り薬だよ。先週、塗り薬の瓶を割ったから、残りをヴァニラの古い空き瓶に移したんだよ。だから半分は、私の責任だね……ちゃんと言っておくべきだった……でも、どうして匂いを嗅いでみなかったの」
『赤毛のアン』L.M.モンゴメリ 著/松本侑子 訳/文藝春秋
アンは重ね重ねの不名誉に、泣き出した。
「匂いがわからなかったのよ……ひどい鼻風邪をひいていたんだもの!」
原作エピソードから大きく離れてオリジナル展開を驀進していた『アンという名の少女』だが、この第6話は、原作を連想させる場面がたくさんある回だ。
マシューのカブは大賞を逃し、「奇妙奇天烈野菜賞」を受賞する。
それを見てアン、「わたし、この部門に出品してたら勝てたかも」
「元気を出しなさい。見事な出来栄えでしたよ。メアリーがここにいたらお腹を抱えて笑ってる」
と、マリラもギルバートと同じ慰め方!
「わたし、お家に帰りたい」とアンは落ち込んでいる。
アンを喜ばせたくて、マリラは「角度を変えて物事を見てみたらどう?」と、アンとマリラとマシューは3人で、祭りの気球に乗ることにする。
上空から眺める美しいプリンスエドワード島。笑うアン。
「世界よ、こんにちは!」
ひとりで記事を作るアン、これが事件に……
みんなでダンスをする場面。ビリーが、ジョーシーを外へ呼び出す。
キスをするふたり。
「中に戻りましょう」というジョーシー、ビリーは「待ってくれ」と止める。
「こういうのはよくない」「ビリー、やめて」と拒絶するジョーシーに、しつこく迫るビリー。
「やめて」とビリーを押して、逃げるようにして中へ戻るジョーシーに対して、「話をするだけだと思ったのか。なんだよ、ガキかよ」とビリーは怒る。
しかも、ビリーは、男友達にこのことを嘘混じりで自慢げに話して、どんどん噂話が拡がっていくのだ。
それに気づいたアンが、ビリーに「なんで嘘を広めて彼女を傷つけるの!」と抗議する。
議論になり、周囲の注目を浴びることになって、ジョーシーは、居たたまれなくなってその場から逃げ出してしまう。
翌日の学校でも、その話題で持ち切り。
アンが意見を言っている途中「それじゃそろそろ記事に取りかかろう」と言うギルバートに、アンは「(品評会の)巨大キャベツなんてどうでもいい。どの性別にも通じる問題を話し合ってるところよ。なぜ急ぐの? シャーロットタウンに行きたいから?」と八つ当たり気味だ。
だが、アンの正義を通そうとする気持ちは伝わらず、みんな新聞作りに取りかかろうとする。
アンは、自分の気持ちが踏みにじられたと感じてしまう。夜中、ひとりで記事を作り、ひとりで新聞を刷り始める。
品評会の明るく陽気な場面から、ぐっとシリアスさを増して、暴走した正義が大変な事態を引き起こす展開になっていくぞってところで、第7話「正義を信じる行い」につづくのだ。
いよいよシーズン3のクライマックスに向けて、ハードな展開と、アンとギルバートの関係の物語が激しく動き出す。
『アンという名の少女』全話レビュー・あらすじまとめ/記事一覧
『アンという名の少女』概要
原題:Anne with an “E”
制作:2017年 カナダ
原作:L・M・モンゴメリ
製作総指揮:モイラ・ウォリー=ベケット
キャスト
アン・シャーリー(エイミーベス・マクナルティ)(上田真紗子)
マリラ・カスバート(ジェラルディン・ジェームズ)(一柳みる)
マシュー・カスバート(R・H・トムソン)(浦山迅)
ダイアナ・バリー(ダリラ・ベラ)(米倉希代子)
ギルバート・ブライス(ルーカス・ジェイド・ズマン)(金本涼輔)
レイチェル・リンド(コリーン・コスロ)(堀越真己)
ジェリー・ベイナード(エイメリック・ジェット・モンタズ)(霧生晃司)
Netflixシーズン1から3まで配信中