火曜深夜に響く星野源の「バカじゃないの!」ANNで前代未聞の珍事が発生中

2020.3.24


“令和を代表するラジオパーソナリティの序章”を夢想する楽しさ

この異様な箱番組関連の盛り上がりを目の当たりにし、星野も興奮を抑えきれず、あくまで冗談めかしながらも2時間の生放送、さらにはクリスマス恒例の24時間生放送『ラジオ・チャリティ・ミュージックソン』でスタッフたちにパーソナリティをやらせたい、とさらなる野望を口にしている。

番組を聴いてない方はここまで読んで、「なんだ、この内輪ウケは?」と驚かれるかもしれない。深夜ラジオにとって内輪ウケは最大の魅力であり、最大の弊害でもある。ただ、ここまで突き抜けると笑うしかない。不思議と清々しさすら感じてくる。「内輪ウケとは?」なんてまじめに検証したら、それこそ「バカじゃないの!」である。

ここまでスタッフにフィーチャーしているのは、星野のリスナー体験が大きな要因だろう。星野が敬愛し、リスナーとしてずっと愛聴していた小堺一機と関根勤の『コサキンDEワァオ!』では、スタッフたちが裏方で収まらず、出演者にもなっていた。構成作家の有川周一がジェットコースターに乗って絶叫する様は深夜ラジオ界においてあまりにも有名で、CD化、DVD化までされている。星野にとってみれば、スタッフたちを番組に出演させることになんの抵抗もなかっただろう。思い返してみれば、コサキンの番組でも「くだらねぇ」「バカでぇ」という言葉が飛び交っていた。

この箱番組を聴いていると意外な発見がある。ラジオに携わるスタッフたちの仕事ぶりがよくわかるのだ。3人とも話し手としては素人。裏方としてはプロフェッショナルでも、いざ自分がパーソナリティになると悪戦苦闘する場面が多い。通常の裏方仕事をこなしながらの箱番組だから、うまくいかないのも当然と言えば当然で、そこが笑いを誘う部分ではあるのだが、普段リスナーが当たり前に受け止めている“深夜ラジオを放送すること”の難しさ、そしておもしろさがリアルに伝わってくる。

彼らを見守る星野の視点はとても優しい。終了直後のトークは半ば反省会となるが、星野は必ず毎回よかったところをちゃんと褒める。同時にダメ出しもあり、ここで挙がった改善点が次回にちゃんとつながっていく。うまくいかないことも含めて楽しむコーナーではあるのだが、深夜ラジオの現場でのトライアル・アンド・エラーをリスナーも共有できるのだ。

いつの間にか『星野源ANN』に携わっているスタッフの個性や人間性を知るようになり、番組を立体的に捉えられるようになった。番組を聴いているとき、以前はリスナーである自分とマイクに向かうパーソナリティしか想像できなかったが、今はまわりにいるスタッフの姿まで目に浮かび、スタジオ全体を身近に感じている。これも箱番組が生み出した思わぬ好影響だと思う。

星野いわく「僕の趣味」という試みだから、突然来週で終わることもあり得るし、反対にとんでもない方向に飛躍することだって考えられる。そんなところまで一緒に楽しめるのも深夜ラジオの醍醐味だ。考えてみれば、オールナイトニッポン黎明期はプロデューサーやディレクターがパーソナリティに転身した例もある。かつて『ビートたけしのオールナイトニッポン』で構成作家を務め、話の聞き役にもなっていた高田文夫は、今や長年ニッポン放送で帯番組のパーソナリティを担当している。スタッフの箱番組は確かに珍事なのだが、歴史的に見ると、この番組たちが“令和を代表するラジオパーソナリティの序章”になる可能性も決してゼロではないのだ。そんな想像をするのも楽しい。

箱番組が放送されている最中、星野はツッコミを入れたりもするが、パーソナリティから一歩下がってリスナーと同じ立場になる。星野源と一緒にラジオを聴いて「バカじゃないの!」と爆笑する――。なんて贅沢な時間だろう。新型コロナウイルス問題で世の中も自分の心も揺れ動く今、僕たちには星野源と一緒にラジオを聴いて、くだらないことで笑い合う時間が必要なんじゃないだろうか。


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(むらかみ・けんさく)編集者、ライター。1978年生まれ。プロレス、ラジオ関連を中心に活動。『声優ラジオの時間』『お笑いラジオの時間』(綜合図書)の編集長を務め、著書に『深夜のラジオっ子』(筑摩書房)、『声優ラジオ“愛”史 声優とラジオの50年』(辰巳出版)がある。

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