平成ドラマの名悪役から、監督業に。福田沙紀「心に傷を負っていた」運命を変えた3つのターニングポイント

文=於 ありさ 撮影=澤田詩園 編集=高橋千里


30歳──年齢など関係ないと世間ではいわれるが、女性にとっては結婚・出産・仕事……あらゆる場面において、ターニングポイントとなる時期でもある。「このままでいいのだろうか」と自問自答した末、大きな決断をする女性も少なくない。

俳優・福田沙紀さんは、13歳から所属していた大手事務所を30歳になる年に退所。現在はフリーで活動しながら、裏方としても活躍中。配信ドラマアプリ『BUMP』(バンプ)にて配信されるショートドラマ『大人に恋はムズカシイ』では、初監督を務めている。

デビューから半年で手にしたドラマ『3年B組金八先生』(TBS/以下:『金八先生』)、世間からの注目を集めるも心が壊れていったという『ライフ』(フジテレビ)、そして退所。3つのターニングポイントを経て、彼女は今“福田沙紀らしさ”をどのように考えているのか。話を聞いた。

最初に出演した作品が『金八先生』でよかった

──13歳のとき、『第10回全日本国民的美少女コンテスト』にて演技部門賞を受賞した福田さん。俳優を志したきっかけは?

6歳のころから地元・熊本でお芝居やダンス、歌のレッスンを受けていました。毎年、ミュージカルの発表会があって、そこで演技をする楽しさというのは感じていましたね。なので、正直なことをいうと「女優を志した」というよりは、演技のレッスンを続けていた延長で、活動の拠点が東京になったという感覚なんです。

──デビューから半年後には『金八先生』に出演されていました。

最初に出演した作品が『金八先生』だったのは、ものすごく幸運なことだなと今でも思っていますし、ひとつ目のターニングポイントだなと思っています。

というのも、あの作品って、リハーサル時間を多く取っていただけていたんです。近年はどうしても予算の都合上、リハーサル時間を取るのが難しくなってきているのですが。

なので当時は、台本に書かれているシーンだけではなく、台本に書かれていない、教室を一気に映し出して、生徒たちがそれぞれの机で自由に過ごすシーンでも、丁寧にお芝居を作り込むことができました。そこで、お芝居の楽しさを再確認しましたね。

──福田さんが演じた麻田玲子は、一匹狼で気品高い役でしたよね。

そうですね。ただ、玲子とクラスメイトの関係性だったり、好きなものだったり、そういったことに想像をふくらませてお芝居に落とし込むのが、単純に楽しかったです。

「ブログに辛辣なコメントが…」心に傷を負った『ライフ』

──次のターニングポイントはいつですか?

やはり、『ライフ』は自分の中でも心に残っている作品ですね。先輩方から学んできたことを引き出さなきゃって気持ちが大きかったですし、悪役を演じる上で、スタッフのみなさんに私を活かしていただいたなと思っています。

──福田さんが演じたのは安西愛海。主人公に対して壮絶ないじめをするキャラクターでした。当時、かなり反響も大きかったと記憶しております。

正直、「自分が一番嫌われなきゃ」ということに必死で、どれだけの反響があるのかを予想できていなかったんです。

ただ、演じていて、心がしんどくなる瞬間はたくさんあって……。そういうときはロケ先の学校のトイレにこもって、ずっと『ゼルダの伝説』をしていました(笑)。

──「嫌われよう」という感情って、普段なかなか抱くことがないですよね。

そうですね。原作もある作品でしたし、与えられた役をとにかくやる、という気持ちしかなかったのですが……。

ドラマ放送期間中、ブログのコメント欄にかなり辛辣な言葉が届くようになって。そういうコメントが届くことへの、心の準備がまったくできていなかったのもありました。あのときの傷はいまだに残っています。

当時は、どこに弱音を吐けばいいかがわからなかったんですよ。撮影中は発散する場所がなかったし、撮影じゃない日は学業があったので、ただ平気なふりをするしかできなくて。

今振り返ってみると、あのときの自分は精神的に不安定だったなと思います。あの作品を経て、18〜19歳ぐらいのころは、まわりのすべてが敵に見えていました。

──今ほどSNSが普及していなかったからこそ、心ない言葉を軽はずみに送る人が多かったのでしょうね。

今みたいにエゴサーチする環境もなかったのに、あれだけの言葉が送られてきたので、そう考えると恐ろしいですよね。もちろん、役者冥利に尽きることではあるのですが、心の準備はしておかなきゃいけなかったなと。

こういうふうに話すことさえも避けていましたし、言葉にせずとも、傷を背負っていこうと思っていました。

13年間所属した大手事務所からの独立「覚悟はなかった」

──2020年には事務所から独立することを決めました。大きな組織から抜けることに不安はなかったのでしょうか?

正直なところ、不安がなかったかというと、そうではなかったですね。「フリーとしてやっていくぞ!」という覚悟はなくて、役者を続けるかどうかも悩んでいましたし、むしろ辞めたほうがいいのではないかとも思っていました。

──どうして退所しようと思ったのでしょうか?

コロナ禍で、今まで普通だと思っていたことがどんどん覆されていったことは大きいです。それまでの私はどちらかというと、石橋を叩いて進んでいくタイプでした。

ただ、その時期に入江悠監督の自主映画『シュシュシュの娘』で主演をさせていただいたんですね。数々の大きな映画を作ってきた入江監督が、今一度原点に帰って自主映画を撮りたいという思いにすごく惹かれましたし、そのときに「かたちにこだわらないで、自分がやりたいものにアプローチしていくこと」の大事さに気づかされて。

私も、自分にしか経験できないことを、思いっきり楽しんでみたいと思えたんです。

──フリーになって4年が経ちますが、事務所に所属していたころと変わった点はありますか?

自分で一からいろいろなことをやるようになって、より自分のことを知るきっかけが増えました。たとえば、今までは現場に車で向かっていたものの、自分で行き方を調べなきゃいけない環境になったことで「私、めっちゃ方向音痴じゃん」って気づいたりして(笑)。

でも、そういうことに一つひとつ気づくのが、すごく楽しかったんですよね。改めて自分と向き合えているなって。

過去も現在も、すべての瞬間が「自分らしい」

──現在は、裏方業にも挑戦されている福田さん。今回の作品『大人に恋はムズカシイ』で初監督を務めるにあたり、意識したことはありますか?

やはり今まで役者だった私が監督をすると、演者さんから「緊張する」と言われてしまうので、とにかく雰囲気だけでも削ぎ落としていきたくて、毎日どすっぴんで現場に行きましたね(笑)。まずは見た目から入ろうと。

それから、役者さんに負担がかからないように、ということは意識しました。1話1分×全10話のショートドラマなので、登場人物の感情のゆるやかな動きを見せるのが難しそうだなと思っていて。

特に平田雄也さんが演じる大輝は、脚本だけ見ると冷たい感じの「何、この人……」と思うようなキャラクターですけど、描かれていないところも含めて、彼なりの優しさもあるわけで。正しい愛し方がないからこそ、登場人物全員を愛されるキャラクターとして描きたいなと思いました。

──今後の野望は?

今回の監督業を経て、“こうあるべき”に縛られずにチャレンジしてみることが大事だなと思いました。なので、今後も裏方側でもっといろんな作品を作っていけたらいいなと。

実際に、私だけじゃなく、裏方業と演者を両立している方が増えていて。クリエイティブとエンタテインメントのかけ合わせで、業界を盛り上げていけたらいいなと思います。

──最後に、これまでの人生を振り返って「自分らしいな」と思う瞬間はいつですか?

全部! ずっと自分らしいです!

過去の自分が嫌いだった時期があるからこそ、全部好きなんですよね。もちろん、今でも自分が嫌になることもしょっちゅうありますよ。でも、そういうのも込みで自分だし、自分を否定しちゃったら、自分がかわいそうだなと思うので。全部の瞬間が自分らしいなと思います。

今の自分も、たしかに昔の自分とは違うけど、毎日すごく楽しくて、わくわくしながら過ごせています。この2〜3年で考え方がけっこう変わって、生きやすくなったんです。

連載「&Life」

今気になる芸能人たちの生き方を辿る連載「&Life(and Life)」。インタビューを通して見えた、彼女たちの“これまで”と“これから”。

第1回:重川茉弥
第2回:後藤真希
第3回:若月佑美
第4回:宇垣美里
第5回:工藤遥
第6回:本田仁美
第7回:横澤夏子
第8回:大久保桜子
第9回:milet
第10回:前田敦子
第11回:峯岸みなみ
第12回:辻希美
第13回:中川翔子
第14回:西野未姫
第15回:松本まりか
第16回:鈴木亜美
第17回:安達祐実
第18回:福田沙紀

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  • 『BUMP』オリジナルドラマ『大人に恋はムズカシイ』

    大人になり忖度やプライドが捨てきれない女が、年下男性と出会い、すれ違いを繰り返すも真っ直ぐな想いに感化され、素直に愛する気持ちを取り戻す物語。福田沙紀の初監督作。

    7月8日18時〜
    emole株式会社(※)が運営するショートドラマアプリ『BUMP』で配信開始

    ※日本初、1話3分のショートドラマ配信アプリ『BUMP』を運営。「創造で挑戦できる世界へ」をビジョンとして掲げ、グローバル展開を目指すエンターテイメントスタートアップ

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於 ありさ

(おき・ありさ)ライター・インタビュアー。金融機関、編プロでの勤務を経て2018年よりフリーランスに。サンリオ・男性アイドル・テレビ・ラジオ・お笑い・サッカーが好き。マイメロディや推しに囲まれて暮らしている。

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