「女らしさ」を爆破した石岡瑛子、「理想の女」を演じた江戸の和装男子──ファッション&広告から読み解くジェンダー観の歴史

2021.1.13

江戸時代の和装男子に見る、ファッションとジェンダー観

石岡瑛子はパルコでの仕事において「日本の女性は女性であることを本当はエンジョイしていない」と語り、ファッション広告を通じて女性をエンパワメントしていった側面があった。こうしたファッションとジェンダー観の関係は、時代や性別を超えて見られる。

太田記念美術館の『和装男子 ─江戸の粋と色気』でも、江戸時代の男性の着こなしを描いた浮世絵から、当時のジェンダー観を読み解ける。

ファッションとジェンダー観の関連を真正面から描いているのは「若衆(わかしゅう)」を中心とした風俗画だ。若衆は男色の対象となった男性のことで、江戸時代前期には前髪を残した美少年が愛された。解説を見なければ、女性と見紛ってしまう装いは、“女性以上に女性らしくて”美しい。一方で、少し意地悪な言い方をすれば、男性のファンタジーを表象しているようでもある。

実際に、歌舞伎役者は「江戸随一のファッションリーダー」とされ、理想の女性像を演じる女形の着こなしもまた女性風俗に影響したという。若衆の装いは美しく、娯楽が少なかった時代に歌舞伎役者がファッションリーダーになった必然性も理解はできる。しかし、江戸時代の女性たちが、自分たち自身でファッションを“作る”機会はなかったのだろうかと、疑問が湧いたのも事実だ。

その後、時代のニーズに合わせて、愛らしい若衆は風俗画から姿を消し、勇み肌の男性が浮世絵で描かれるようになる。

当時の浮世絵師が「今」を描いたら、どのような絵になるのだろう。彼らの視点から俯瞰した現代を見てみたくなった。

ファッションという切り口からジェンダー観をドラスティックに更新する際には、広告や歌舞伎役者といった“メディア”の力が大きい。しかし、インターネットが発達した現代においては、草の根レベルからの働きかけも、世の中を動かすに足る力を持っている。

世の中のジェンダー観を動かそうなどという大きな志は必ずしも必要ないけれど、まわりの目を憚らず、自分の着たい服を着ることが生きやすい社会の一助となることは確かだ。

この記事の画像(全2枚)




関連記事

この記事が掲載されているカテゴリ

関連記事

「当たり前」が揺らぐ時代に投げかけられた、家族や性を「つくる」ふたつの作品

「結婚、恋愛、子育ての三位一体はハードルが高い」家族のかたちをカスタマイズして生きるための4つのヒント

ツートライブ×アイロンヘッド

ツートライブ×アイロンヘッド「全力でぶつかりたいと思われる先輩に」変わらないファイトスタイルと先輩としての覚悟【よしもと漫才劇場10周年企画】

例えば炎×金魚番長

なにかとオーバーしがちな例えば炎×金魚番長が語る、尊敬とナメてる部分【よしもと漫才劇場10周年企画】

ミキ

ミキが見つけた一生かけて挑める芸「漫才だったら千鳥やかまいたちにも勝てる」【よしもと漫才劇場10周年企画】

よしもと芸人総勢50組が万博記念公園に集結!4時間半の『マンゲキ夏祭り2025』をレポート【よしもと漫才劇場10周年企画】

九条ジョー舞台『SIZUKO!QUEEN OF BOOGIE』稽古場日記

九条ジョー舞台『SIZUKO!QUEEN OF BOOGIE』稽古場日記「猛暑日のウルトラライトダウン」【前編】

九条ジョー舞台『SIZUKO!QUEEN OF BOOGIE』稽古場日記

九条ジョー舞台『SIZUKO! QUEEN OF BOOGIE』稽古場日記「小さい傘の喩えがなくなるまで」【後編】

「“瞳の中のセンター”でありたい」SKE48西井美桜が明かす“私の切り札”【『SKE48の大富豪はおわらない!』特別企画】

「悔しい気持ちはガソリン」「特徴的すぎるからこそ、個性」SKE48熊崎晴香&坂本真凛が語る“私の切り札”【『SKE48の大富豪はおわらない!』特別企画】

「優しい姫」と「童顔だけど中身は大人」のふたり。SKE48野村実代&原 優寧の“私の切り札”【『SKE48の大富豪はおわらない!』特別企画】

話題沸騰のにじさんじ発バーチャル・バンド「2時だとか」表紙解禁!『Quick Japan』60ページ徹底特集

TBSアナウンサー・田村真子の1stフォトエッセイ発売決定!「20代までの私の人生の記録」