PART3:YouTubeはチームで巻き込む時代に
──この数年で芸人さんがYouTubeで新しいことを仕掛けるのも完全に定着しました。その上で、2022年はどんなチャンネルに注目されていましたか?
飯塚 さらば(青春の光)のYouTube(※)はすごいですよね。「屁こきダービー」みたいに、Twitterで呼びかけて来てくれる人たちで企画ができちゃってて、令和の『いいとも』だなと思う。どっちに転んでも絶対面白くなる仕組みを全員でつくって、全然お金かけてないのに秀逸な企画を成立させててもはや悔しいです(笑)。
※お笑い芸人さらば青春の光によるYouTubeチャンネル。高い企画力と個人事務所ならではのアウトローな企画が人気で、アップされた企画動画は毎回高い再生回数をたたき出している
白武 予算をかけずとも知恵と企画で臨機応変に面白くしていく、理想のお笑いチーム。憧れますね。
かべ 手作り感がいいですよね。東ブクロさんのTwitterフォロワーシリーズも、最終的にルールが全然変わっていく過程が面白いんですよ。
河谷 観てる人が面白半分で乗っかることで変化していく、参加できるところもいいんでしょうね。低予算でどれだけ面白いことができるかというところでは『タイマン森本』(※)もあります。たぶんほぼ芸人さんにお任せだから突拍子もないことが起きるし、事件性があってドキュメンタリーに近い。『タイマン森本』以降、ああいう企画が増えだした気がします。
※お笑い芸人トンツカタン・森本によるYouTubeチャンネル。チャンネルコンセプトを「100回ツッコまれるまで出られない部屋」として、毎回異なるゲストが森本に100回ツッコまれるまでボケを繰り出していく
白武 森本さんは若手随一のMC能力があるから、無茶なボケや荒く絡んでもさばいて活かせる。そして2022年のYouTubeでいうとやっぱり『高野さんを怒らせたい。』じゃないでしょうか。『ローマの休日』の字幕がすべて天気の話になっているという手の込んだ動画で話題になって、以降もアイディアがあって労力がかかった動画を次々と出して、一気に広がっていきました。
TP お笑いファンの「高野さんに報われてほしい」って気持ちから拡散されている面もある気がする。
河谷 高野さんの取扱説明書みたいにもなってますよね。
飯塚 YouTubeをはじめた当初はみんな企画をやるんだけど、考えるのも編集も大変だからだんだんドキュメントになっていく傾向があると思うんですよ。その中にあって『高野さんを怒らせたい。』は岸さんと作家の大河内(敦揮)さんがとにかく一番面白くする方法を考えていて、ちゃんと企画でハネてる。
二木 さらばさんもきしたかのさんも、スタッフさんを含めたチーム感が共通してますよね。さらにそこに人を巻き込んでいく力がどっちもある。YouTubeじゃないですが『チャンスの時間』で高野さんがiPhoneに4時間並んでいるところにいろんな人が登場してました(※「きしたかの日本最速iPhoneチャレンジ」)。
※2022年10月9日放送ABEMAバラエティ『チャンスの時間』「丸4日野宿!きしたかのiPhone14日本最速チャレンジ」時の人を目指すきしたかの・高野が一番に新型iPhoneを手に入れるべく、発売日の3日前から表参道のアップルストア前で待機する様子を追いかけた
白武 オモシロが舞い込んでくる高野さんの天性の素質が結実して、「きしたかの日本最速iPhoneチャレンジ」はすごいお祭りになりましたね。あんなドキュメンタリーのオチ見たことないです。
飯塚 『チャンスの時間』自体、ずっと抜群ですよね。僕はTVの作家だからどうしてもチェックする気持ちで番組を観ちゃうんだけど、あの番組はただただ面白いから観てます。大悟さんは自分でも新しい企画をどんどん生み出す人だけど、この番組に関してはスタッフの企画に全幅の信頼を寄せているように見えて、TV制作者としてなんかうれしくて。
TP 「ブレイキングヤンチャオーディション」(※)も“事件”感あったな~。
※ABEMAバラエティ『チャンスの時間』で行われている企画の総称。千鳥・大悟進行のもと、若手芸人たちによって異常なまでに「本物」のお笑いが追求される本オーディションシリーズ。2022年12月現在までに既に3度開催されている
かべ 僕はTKO木本さんのタイムリープ回がいちばん面白かったですね。木本さんの悪口を言いたいだけなのに、タイムリープの要素を載せることで困ったらそこに持っていくことができる仕組みが秀逸で。
二木 ピックアップされる芸人さんの幅が広くて、若手芸人さんの人となりも見せてくれるから欠かさず観てます。
白武 同世代の若手芸人さんがどうやって千鳥さんの前で爪痕を残すかという挑戦が見られるし、そこでハマったら一緒にうれしいし。あんなにお笑いむき出しの場所はなかなかないですよね。そこでスベったらスベったでその後どう活かすかまでカットしないで見せていて、シビれます。
PART4:ニュースターはどこで生まれる?
──TVerの存在感が一層強まって、TV番組の話題になり方も変わっているように感じます。
TP レギュラー番組でもTVerにあるかないかで観る習慣は変わってきますよね。特番はTVer配信の有無で反応違いますか?
飯塚 そこは明らかに違いますね。TVerにないものはSNSでは話題になりにくくなってる気がするし、長期的に見たら視聴率にも影響してくると思います。
二木 飯塚さんが参加していた『もしも師』(※)と『テレビギャング』、出演者も企画も全部面白かったですよ。
※2022年1月4日にテレビ朝日系列で放送されたバラエティ番組。芸人が新しい仕事を提案し、実際にその職業になりきって街に繰り出すシミュレーションバラエティ。コントのような設定ながら、それを現実世界で実演する斬新さが話題となった
かべ 『もしも師』の「うんこ飽きさせ師」は奇跡が2個起きてたじゃないですか。まず子どもがうんこに喜びすぎる想定外があって、最終的にはキレイに“うんこ飽きさせ”に成功してて。
河谷 あのメンバーの、ネタ以外のTVでの使い方の提示にもなってましたよね。
白武 他番組でたとえてほんと申し訳ないんですが、『探偵!ナイトスクープ』の神回が4個入ってるみたいな奇跡の特番。“良いTV”を観させてもらいました。
飯塚 最近あまりなかった「芸人ロケバラエティ」を作りたかったので、そう言ってもらえるとうれしいです。
二木 ちょっとびっくりしたのが、『水曜日のダウンタウン』で囲碁将棋・根建さんのシビック回(※)が話題になったときに、TVerで観たらしい母親から「これ面白かった」ってLINEが来たんですよ。特にお笑い好きというわけではない層にも、TVerがあることで届きやすくなってるんですよね。
※『水曜日のダウンタウン』(TBS系列/毎週水曜日22時)の「1000万円を受け取ってもらうの逆に難しい説」検証動画にて先輩芸人パンサー・尾形からの1000万円贈与の打診を「シビックはいつか自分で買う」とシビック愛を爆発させて断る囲碁将棋・根建太一の様子が話題となった。のちに根建はホンダの計らいでCIVIC TYPE Rを試乗するまでになる
TP あれは最終的に囲碁将棋さんがホンダに招かれてシビックに試乗するところまで行ってましたね。話題になり方として美しかった。
河谷 あれだけのことをあんなにまっすぐ先輩に伝えるって相当難しいと思うんですけど、それを面白く、しかもちょっと感動できるようなものにできる根建さんのすごさと番組のすごさが一致した、奇跡でしたね。
かべ 芸人のメンタリティのかっこよさが一番出てたのがあの企画だったかなと思います。
飯塚 今、ニュースターが生まれるTV番組って賞レースを除けば『水曜日のダウンタウン』と『ゴッドタン』など数えられるくらいで。昔はもっといっぱいあったと思うんだけど。TVにとっては良くない傾向ですよ。
二木 ダウ90000は違うルートでニュースターになってきている雰囲気がありますね。TVが引き上げたんじゃなくて向こうが上がってきたというか。
白武 『8人はテレビを見ない』や『深夜1時の内風呂で』、『今日、ドイツ村は光らない』とか、TVマンたちがつくりたいけどどうやってつくったらいいかわからなかった笑いとドラマの絶妙な濃度のものを、蓮見くんはとても上手く形にできる能力があって待望の逸材が登場した感じがありますね。
河谷 蓮見くん以外のメンバーのプロ根性も強いんですよ。『8人はテレビを見ない』(※)のワンカットのシーンで園田くんがカレーを完食するところがあるんですけど、NGが出て何回撮り直しになっても毎回全部カレーを完食していたらしくて、そういう本気度が今の状況を生んでるんだなって。
※『エルピス』(カンテレ・フジテレビ系/毎週月曜日22時)のオリジナルスピンオフドラマとして独占無料配信されている。ダウ90000蓮見翔が脚本を担当し、メンバー全員が出演する
飯塚 脚本、役者、話題性が全部ワンパッケージになってて、まとめて託せばいいものができるってチートの域ですよね。でもいくらなんでも『ダウンタウンDX』に出る(2022年5月出演)まで速すぎないか!? とは思いました(笑)。
PART5:オモシロ飽食の時代で「選ばれる」ためには
──ここに載せきれないくらいたくさんのタイトルが上がりました。とにかくコンテンツの数が多い中で「選ばれる」ことがまず大変なわけですが、みなさんはなにを基準に観るものを選んでいるんでしょう?
TP 僕は信頼している人がふたり以上「面白い」と言ってるものは絶対観ると決めてますね。でもおすすめされたものばっかり観てると緩やかに感性が死んでいく気がするから、ジャケ買いみたいな見方もたまにはするように意識してます。
白武 僕は絶対失敗したくないんで、評判いいやつしか観ないです(笑)。
TP 潔いな!
白武 Twitterや芸人さんの会話で話題に挙がってるものは観るようにしてますね。それ以外だと発明や実験性がありそうなライブは気になります。最近Amazon Prime Videoで配信がはじまったAマッソ+KID FRESINOの『QO』は、2022年に観たライブでいちばんすごかった。FRESINOさんの音楽と佇まいが格好良すぎるし、Aマッソってなんでも臨機応変に面白くできるんだとあらためて感じて、最高でした。
飯塚 「どうせ面白いってわかってるから観なくていいか」みたいな、変な現象も起きません? それよりも「なにか事件が起きてるんじゃないか」って思うほうを優先して観ちゃったりして。
二木 たしかに。やっぱり大ドキュメンタリー時代ですよね。コンテンツがあふれてるからこそ、“人間”を見せるものの価値がこれからますます高まっていくんじゃないかと思います。
かべ 『ダイヤモンドno寄席』みたいに、ただただふざけてることの価値もより上がるでしょうね。
河谷 個人的には、今はまだ演者目的で観ている人が多いと思うんですけど、ライブもつくり手の名前で観る人が増えてくる予感がしてます。今から準備しておかないと……。
かべ 2023年も面白い配信コンテンツがたくさん見られるといいですね!
発表!「お笑いの配信オブ・ザ・イヤー2022」
1位 高野さんを怒らせたい。(YouTube)
2位 2700八十島のメンタルの話(ライブアーカイブ)
3位 賞レース系配信動画(ライブアーカイブ、YouTube)
4位 伝説の一日(ライブアーカイブ)
5位 劇場版まーごめドキュメンタリー まーごめ180キロ(ライブアーカイブ)
6位 もしも師(TV見逃し配信)
7位 チャンスの時間(ABEMA)
8位 さらば青春の光Official Youtube Channel(YouTube)
9位 水曜日のダウンタウン(TV見逃し配信)
10位 ダイヤモンドno寄席(ライブアーカイブ)
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