発表「お笑いの配信オブ・ザ・イヤー」!面白いだけでは生き残れない、動画コンテンツ生存戦略
世界にはとにかく「観なくちゃならない配信」が溢れまくっている。私たちには時間がないのだ‼ そんなオモシロコンテンツ飽食の時代に、お笑いホリックな作り手たち6名が集結した。編集部から出したテーマは「2022年の配信コンテンツベスト10」という無謀なお題。それに応えるべく膨大な配信映像を分析していくと、コンテンツの濁流を泳ぎ切るためのそれぞれの生存戦略が見えてきた。
※この記事は『クイック・ジャパン』vol.164(2022年12月27日から順次発売)掲載の記事を再編成し転載したものです。
目次
座談会で議題となった2022年配信コンテンツ一覧
● 相席食堂
● 赤もみじの『道程』
● あちこちオードリーオンラインライブ『夢と希望だけじゃ生きていけない 私の絶望ワイドショー』
● アルピーテイル/人間横丁回
● 囲碁将棋が優勝を本気で意識したライブ
● 囲碁将棋グランド花月Vol.3『ベストじゃないネタライブ』
● 浦井が一人と「話」が三つ
● ABCお笑いグランプリ
● Aマッソ+KID FRESINO『QO』
● Aマッソ公式チャンネル
● Aマッソ第9回単独ライブ『与、坐さうず』
● Mー1グランプリ
●「画餅」第一回公演『サムバディ』
● 大喜る人たち
● 岡野陽一第1回単独公演『岡野博覧会』
● オモコロチャンネル
● お笑いプラスワンFES「ランジャタイ&ダイアン津田」
● 怪奇!YesどんぐりRPG裏ライブ『?』
● かが屋の新春ネタ初め一週間興行「寅」
● 神回だけ見せます!
● ぎょねこの作戦室
● キングオブコント
● 黒帯会議
● 劇場版まーごめドキュメンタリー まーごめ180キロ
● ケビンス×男性ブランコ×真空ジェシカ『フードコートより愛をこめて』
● ここにタイトルを入力
● ゴッドタン「銀シャリ橋本のテクニックを抜いてあげよう」
● コットンきょんの描いた絵を誰かが持って帰るライブ
● こんにちパンクール【大喜利】
● 酒の席で永野を論破したら10万円
● 佐久間宣行のNOBROCK TV
(50音順・ジャンル不問)
集結した6人のお笑いホリック
白武ときお
1990年生まれ。京都府出身。放送作家。『しもふりチューブ』『ざっくりYouTube』(YouTube)、『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』(日本テレビ)などを担当
二木佑香
1996年生まれ。東京都出身。UHB北海道文化放送局員。『ZEKKEI NETA CLUB』の企画・演出。大学時代の卒業論文「お笑い番組から考えるテレビ番組のデザイン」は佐久間宣行がTwitterでコメントするなど話題となった
河谷 忍
1996年生まれ。京都府出身。構成作家、映像ディレクター。2022年に吉本興業を退社し、独立。手掛けるライブは『三八紳士と緞帳淑女』、『お笑い大喜利』など多数
飯塚大悟
1982年生まれ。新潟県出身。放送作家。担当番組は『ヒルナンデス!』『水曜日のダウンタウン』『オードリーのオールナイトニッポン』など多数。お笑いナタリーにてウエストランド・井口浩之とその月のお笑い事情を語る連載を持つ
かべ(雷獣)
1998年生まれ。大阪府出身。会社員のかたわらYouTubeチャンネル『雷獣』を運営
高橋雄作(TP)
1987年生まれ。東京都出身。プロデューサー、作家、(株)TPコーポレーション東京X社長。2022年夏、テレビ朝日を退職し独立。YouTubeチャンネル『金属バット無問題』
PART1:大ドキュメンタリー時代の到来
──今日はお集まりいただきありがとうございます! 過去、本誌では年末に「テレビ・オブ・ザ・イヤー」「YouTube on the border」をやってきたのですが、「お笑いの配信オブ・ザ・イヤー」と題して、白武さんにみなさんを集めていただきました。
白武 レジェンド放送作家の方たちが参加されていた「テレビ・オブ・ザ・イヤー」に比べたら弱小メンバーです。でもお笑い熱はめちゃくちゃ高い、ベストメンバーに集まっていただけました。よろしくお願いします。
──ここでは、ライブ、TVer、YouTube、Netflix等のサブスクなどプラットフォームを問わずWEB上で視聴できた映像コンテンツを「配信」として扱っていきます。幅広いですが、全体的なトレンドはありますか?
河谷 ライブでもTVでも、台本が見えないものが盛り上がる傾向があったんじゃないでしょうか。その場のノリで盛り上がったものがSNSなどで話題になって観られるパターンが多かったですよね。「事件性」みたいなところがキーワードになっていた。『2700八十島のメンタルの話』が良い例かなと思います。
白武 笑っていいのか笑っちゃいけないのか、グレーなところを面白く話していて、今まで観たことがない異質なものでしたね。
TP あれは幕張イオンモール劇場の平日夜公演だったんですよね。たぶんバズらせるつもりも特になく「夜公演はこれで埋めよう」みたいにつくったんじゃないでしょうか。それがあんなに話題になるのは配信時代を象徴していると思いました。
かべ 河谷さんが手掛けた『ダイヤモンドno寄席』(※)も“事件”感がありましたね。ライブの数日前に野澤さんが骨折して出られなくなって、急遽登場した等身大パネルを使ってみんながふざけていて、生のお笑いライブならではの即興性が起こす化学反応があって最高でした。
※2022年1月2日によしもと∞ホールにて行われたお笑いライブ。芸人が自ら呼びたい芸人を集めてネタライブを行う吉本興業正月恒例企画『no寄席』のダイヤモンド編。ダイヤモンド・野澤輸出の欠席に端を発してAマッソ、真空ジェシカ、ママタルト、令和ロマンが無秩序にお笑いを展開していく様子が話題となった。2023年も同じ座組みで開催の予定
河谷 正直、話題性を狙いに行こうというのは考えていました。
白武 ダイヤモンドさん、真空ジェシカ、ママタルト、Aマッソ、令和ロマンというおもしろ超人たちが揃っていて、観る側も文脈を理解して共通言語を持っている人たちが集まって熱狂が生まれている、奇跡みたいなライブでしたね。
TP コンテンツが多い上に純粋な面白さとしてはどれも基本的に十分だから、事件とか奇跡とかなにかプラスアルファがないと観られなくなってる気はします。
二木 そうなんですよね。ネタが面白いのは大前提で、さらにそこに「人生」みたいなものが乗っかってるコンテンツがハネるようになっています。
飯塚 ニューヨークの屋敷さんが『ニューヨークのニューラジオ』(※)で最近の風潮を「大ドキュメンタリー時代」と称してましたけど、まさにそう。というか、その言葉も含めて2022年は屋敷さんの存在感が際立ってましたよね。それこそ『八十島メンタル』も屋敷さんのツイートで知って観た人は多いと思う。あらゆるものを観てそれを広めて、自分たちでもつくっていて、お笑い界のフィクサーになってる。
※YouTubeチャンネル『ニューヨーク Official Channel』ーヨークOfficial Channel』にて毎週日曜日22時~23時半に生配信されているYouTube形式のラジオ番組。過去ラジオアーカイブは一部を除いてすべてチャンネル内で視聴可能
二木 ニューヨークYouTubeチームの最新作『シン・りょう』、すごかったですね。
白武 芸人界の面白い話題を見つけ出して大きく育てていくのがうますぎます。特に屋敷さんの面白がる能力と情報整理能力の高さが為せるわざなんでしょうね。
河谷 『シン・りょう』も含めて、ケンカや解散をコンテンツにしているものが多かったですね。
TP オジンオズボーン(※)とかピスタチオ(※)とか赤もみじ(※)とか、解散の過程を見せるものが目立ちました。発表からラストライブまで全部配信で観れて、芸人さんにとっては最後にひとつ大きな山をつくって終われるようになってきた。もちろん失敗しちゃう人もいると思うんだけど。
※オジンオズボーン…2022年9月8日にオジンオズボーンの篠宮暁が、自身のYouTubeチャンネルにて2022年内でコンビを解散すること、また2022年内の活動はコンビの「終活」であると発表した。理由は相方・高松新一が芸人を引退するためとしており、高松が芸人を続けたいという気持ちが芽生えれば解散の撤回もありうることも示唆した。YouTubeチャンネルによる解散「予定」発表は前代未聞。世間を騒がせた
※ピスタチオ…東京NSC13期のコンビ・ピスタチオが2022年5月31日をもって解散した。一時代のお笑いブームを盛り上げたお笑い芸人の解散に、さまざまな声が上がった。コンビふたりで解散を詳細に話すYouTube動画は涙なしには観られないものであった
※赤もみじ…マセキ芸能社の漫才コンビ・赤もみじが、ライブ『道程』をもって2022年11月21日に解散した。『道程』は同名のYouTube 動画に端を発するもので、動画では解散直前のコンビの関係性が仔細に描かれたことで話題となった。『ABCお笑いグランプリ』進出や、多くのTV番組で活躍していた実力派若手コンビだけに解散を惜しむ声が多く上がった
かべ 白武さんも2022年、ドキュメンタリー企画を2本やってましたよね。『劇場版まーごめドキュメンタリー まーごめ180キロ』(以下『まードキュ』)(※)と『劇場版ダウ90000ドキュメンタリー 耳をかして』(以下『ダウドキュ』)、どっちの作品もめちゃくちゃ素晴らしかったです。
※2022年1月30日に北沢タウンホールで行われたドキュメンタリー映像上映ライブ。お笑い芸人ママタルト・大鶴肥満の人生の軌跡と、彼の代名詞である「まーごめ」の全貌を解き明かすためのドキュメンタリー映像を、ゲストの真空ジェシカ立ち会いのもと上映した
河谷 『まードキュ』の肥満さんが実家に行くシーンでシビれました。
かべ 観てる人の誰もが人生の中で「大鶴肥満」だった部分があると思うんですよ。そこを刺激されました。良すぎて、エンディングの「僕がもっと細ければ なんて言わないで」の画面をスクショしてロック画面にしてましたもん。
二木 『まードキュ』も『ダウドキュ』も、配信画面のスクショと1分以内の動画をSNS投稿オッケーにしてましたよね。あれは拡散効果が高いだろうなと思ってました。しかも単に映像を配信するだけじゃなく、親交のある芸人さんをゲストに呼んで一緒に会場で観るライブ形式なのも良かった。
白武 ありがとうございます! あそこまで手をかけられるのも配信があるからなんですよね。1回きりのライブだと採算が合わなかったことがやれるようになった。配信時代になって、つくれるライブは規模感含めてクオリティアップしたと思います。
PART2:賞レースはコンテンツを再生産し続ける
二木 裏側を見せる流れが出てきたのは『Mー1グランプリ』の影響も大きいですよね。復活後の2015年以降、ネタだけじゃなくて「『Mー1』に賭ける芸人」というドキュメンタリーを観るものになってきてる。
TP 予選動画が配信されるようになって大きく変わりましたね。ネタが飛んじゃった組や信じられない噛み方をしてる組がいると話題になるのも、事件性の引きじゃないですか。
河谷 2022年の3回戦のセルライトスパさんの裏拳(※)、めっちゃ笑いました。絶対起こっちゃいけないことが起きてた。
※3回戦のセルライトスパさんの裏拳…2022年『M−1』グランプリ3回戦の予選動画「10/26【京都】ラニーノーズ/セルライトスパ/黒帯【3回線全ネタ】」での一幕。漫才後半、大須賀によるフルスイングの裏拳が肥後の顔面に直撃。ハプニングが笑いになりにくい『M−1グランプリ』の舞台にもかかわらず、地鳴りのような拍手笑いが起こった
かべ YouTubeのシークバーがあのシーンだけえらいことになってました(笑)。
飯塚 僕は賞レースの審査員をやることがあって、「演者さんも予選観たほうがいいのにな」とずっと思ってたんですよ。ネタの題材やスタイルがかぶってしまうことが結構あるから。今は芸人さんもみんな『Mー1』の予選動画を観て研究しまくってるから、どんどん精度が上がって、『Mー1』がまたひとつ上のステージに行った感じがする。
白武 全体の傾向を見て「じゃあ自分たちはこっちにズラそう」と考える人が出てくるから、毎年トレンドがちょっとずつ変わっていきますよね。
飯塚 自分たちの予選動画を観ながら分析する動画があったり、結果発表を見る様子を生配信したり、『Mー1』の派生コンテンツが多すぎて、追いかけていると1日終わっちゃう。
河谷 そういうのも全部ひっくるめて、決勝本番に向けての良いストーリーになってますよね。
TP 『キングオブコント』も2回戦から有料配信があるし、賞レースの配信が本当に充実してますね。
白武 『Mー1』や『キングオブコント』の決勝はTV番組ですが、準決勝というのはこの世でいちばん面白いライブだから、それがこんなに手軽に観られる時代になって本当に最高です。
二木 私、中学生のころは関西在住の友人に『ABCお笑いグランプリ』(※)とかをDVDに焼いて送ってもらってたんですよ。それが今や配信で全部観られる。関西で今面白いのは誰なのか、東京で今面白いのは誰なのか、全国に伝わるようになったことの影響は大きいんじゃないかと思います。
※朝日放送テレビが主催するデビュー10年以下のお笑い芸人を対象としたお笑いコンクール。現在はABEMAでも同時無料視聴が可能。2022年はカベポスターが優勝
かべ ただ、芸人さんからするとそのぶん大変ではありますよね。かけたネタが全国にバレるから。
飯塚 一方で、今の競技漫才とは違う漫才を見せてもらったのが『伝説の一日』(※)ですよね。たぶん、ある一定の世代より上の芸人さんにとっては「ふらっと来て打ち合わせもなくしゃべって面白い」というのが漫才の理想形だと思うんです。その最高峰を、ダウンタウンさんといういちばん売れてる人たちがやってのけた。本当にあれは全芸人が観てるんじゃないですか? 現役でネタをやってる人たちにとっては絶望に近い感覚もあったと思う。
※2022年4月2日、3日になんばグランド花月にて行われた公演。吉本興業創業110周年を記念して行われた。本稿で取り上げているのはダウンタウンが31年ぶりに漫才を披露した3日の公演にあたる。同ライブに出演していた芸人がそれぞれのラジオで当日の様子を振り返るなど、視聴者のみならずお笑い芸人へ与えた衝撃も強かった
河谷 スクリーンに「ダウンタウン」って文字が出て、下からサンパチマイクがグーッと上がってくるだけで「ギャーッ」となってる、すごい空間でした。
白武 あんなにすさまじい漫才を観せられて、やっぱりダウンタウンさんって面白すぎるし、とにかくかっこいいなって、40年積み上げてきた30分に打ちひしがれましたね。
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