アルピー酒井健太「月50万が一番いい」野心なき天才、独自のキャリアと“譲れないこと”

2022.6.25

文=西澤千央


友達に誘われたことをきっかけに芸人となった酒井。アルコ&ピース結成前は天才と呼ばれた彼は、その顔をいつしかすっぱりと捨ててしまった。

コンビだけでなく単独でもラジオのレギュラー番組を抱え、パートナーとの出会いのきっかけとなった『チョコナナ』(SBSラジオ)では国王とまで呼ばれた。独自の道を行く酒井のキャリアを振り返る。

酒井健太(さかい・けんた)アルコ&ピースのツッコミ担当。1983年生まれ。神奈川県川崎市出身(『クイック・ジャパン』vol.161より)

アルコ&ピースが表紙を飾る『クイック・ジャパン』vol.161(2022年6月25日から順次発売)より、酒井健太ソロインタビューを特別に一部公開。


パイオニアになってやろう、みたいなのはあったかもしれない

アルコ&ピースが表紙『クイック・ジャパン』vol.161
アルコ&ピースが表紙『クイック・ジャパン』vol.161

──私も酒井さんと同じ神奈川県川崎市出身なのですが、川崎特有のコンプレックスってあるなと常々感じていて。

酒井 コンプレックスですか。

──“都会の田舎者”というんでしょうか。東京に行こうと思えばいつでも行ける。でも川崎は東京ではない。優越感と劣等感がねじれてる。

酒井 ああ、逆にコンプレックスだもんな。地方出身者は、自分は田舎もんだから東京で頑張ろうってハングリーな人が多いけど、そういう野心がまったくないのも俺らのコンプレックスですね、たしかに。

──ハングリーさをモチベーションにされている芸人さんの中で、酒井さんはどういうテンションで芸人をはじめて、今成功を収めたのでしょうか。

酒井 成功とは言えないけど(笑)。でもそうですね、テンション違ったかもしれない。なんとなくずっとお笑いが好きで、TVずっと観てて。自分がやろうとまでは思ってなかったけど、誘われたんで……はい。そのきっかけがなかったら、やってなかった可能性はあります。ただクラスの誰よりも、お笑いは観てたし、好きではありました。もちろん『ごっつええ感じ』も観てましたけど、芸人のラジオまで聴いてるのは周りでも僕だけでしたね。

あと、松本(人志)さんの『遺書』もやっぱデカかったかもな。かっこいいなと思わせるなにか。『ヴィジュアルバム』も、あ、芸人ってかっこいい、表現するってかっこいい。お笑いっていう道もひとつあるんだなってどこかで思ってたかもしれないですね。

──どんな少年でしたか、酒井さんは。

酒井 ひねくれてたとは思いますね。周りとは違うぞって感覚はあったと思います。まだ『ごっつ』の話してんの? こっちはもうちょっと裏側知ってるから、みたいな(笑)。口には出さなかったですけど。

──周りにヤンキーは多かったですか?

酒井 めちゃめちゃ多かったです。金魚の糞みたいな感じでしたね、僕は。悪いことまったく一回もしたことないし、かといってめちゃめちゃ距離取ってるわけでもなかったんで。

──ちょうどいい距離感。

酒井 一番ちょうどいいです。雑魚みたいな人とも全然遊ぶし(笑)。

──モダンタイムスさんが文春オンラインのインタビューで酒井さんのことをお話しされていて。「ホトトギス時代の酒井は本当に天才」「元フォークダンスDE成子坂の村田渚さんが『天才やんこいつ』って言っていた」など。受身的に芸人になった酒井さんですが、周囲からはそういう評価をされていた。

酒井 ああ……なんか、誰も行ったことないところ行ってやろうかみたいなネタではありましたね。ホトトギス時代は3人で変なことやってたんで。パイオニアになってやろうみたいなのはあったかもしれない。ツッコミとボケのちゃんとした漫才とかダセーとか思ってた、今考えたら超イタイすけど。今はないなあ、ああいう気持ちは。渚さんに直接言ってもらえたのはうれしかったですけど。

──尖った、天才タイプのままは行かなかった。

酒井 やっぱ無理ですね、絶対無理。それはどこかで気づかないと。なんとなく今ご飯食べられてるのは、そこに気づいたからだと思います。気づくの早い奴が飯食えますよ、絶対。

──「気づいた」きっかけは?

酒井 うーん、なんだろうな……アルコ&ピースになって、平子さんは平子さんでまた変なコントとかしてて。同じようにしててもだめなのかなとは思いました。やっぱり、お客さん目線の人がひとりいないとダメだと。

──コンビを組んで、手応えは感じましたか?

酒井 違和感はありました、最初は。どっちもネタ書いてたじゃないですか。で、いざふたりで書いても、うまくいかない。そうっすね。でも平子さんが書きはじめてからうまくいくようになったんですよ。やっぱ、強いじゃないですか、平子さんって。じゃあそっち立てたほうがいいだろうなって。

──酒井さん、平子さん、どちらも天才と言われていた。そのふたりがコンビを組んだわけですよね。業界どよめきますよね。

酒井 ソニーの地下は揺れてましたよ、マジで(笑)。このふたり組むの!? みたいな。

──マヂラブ野田さんも組みたかったふたり。

酒井 いやいや、だって今でこそ野田クリスタルですけど、当時もう、一番酷かったかもしれないです。もし、平子さん、オレ、野田クリスタルって言ったら、野田クリスタルが一番酷かったです。一番わかんないことやってましたもん。俺らだってもうちょっと寄せてましたよ。野田クリスタルはマジでわけわかんなかったし、めちゃめちゃ滑ってたもん。

──手に負えない感じですか?

酒井 まあ、一番本当の天才ではあったかもしれない。

コンビの熱量が一番高かったのは去年かもしれない

──賞レースをどういうものとして捉えていらっしゃいますか。

酒井 賞レースか……。僕が芸人やりはじめてちょっと前ぐらいかな、『Mー1』できたのが。子供のころからの憧れの舞台みたいな感じではなかったですね。もうちょっとリアルなもの。

──仕事上無視できないもの、みたいな。

酒井 そうっすね、はい。だから熱量で言ったら、去年(2021年)の『キングオブコント』と去年の『Mー1』が一番熱量高かった。『キングオブコント』の……準々決勝かな、準決勝の前、すごいウケて。これもう1回行けそうだなって思って。すげー頭の中でシミュレーションして、これで獲ったらめっちゃかっこいいじゃんみたいになって。準決臨んだら……全然ダメだったんですよ。

なんかね、楽屋大部屋だったんですけど、ボーッとふたりでいた時間あったんです。なに話すわけでもなく。帰っていいんですよ、全然帰っていいのに、お互い同じこと思ってたのかな。わからないですけど、あのときふたりだけの空間、ふたりだけの世界がそこにあったっていうのが、お互い悔しい気持ちは一緒なんだろうなって思いました。

──そういう気持ちになったのはそのとき初めてですか?

酒井 そうですね、あそこで初めてちゃんと足並みそろってたかもしれないですね、そういう意味じゃあ。タイトルが欲しいっていう気持ち、そのときの僕はありました。平子さんもあったと思います。

──酒井さんから見た平子さんって、どういう方ですか?

酒井 むずいなあ。

──ソロインタビューならではの質問です(笑)。

酒井 ああ……「かっこいい」を突き詰めてる人じゃないかな、平子さん。

──かっこいいを突き詰める。

酒井 マジかっこつけですからね。あの感じでお笑いやってるっていう「かっこいい」だと思うんで、平子さん。ブレないですからね、そこは。かっこいいはブレないですからね、どうやっても。

──なぜ長く一緒にやれてると思いますか。

酒井 感覚が一緒だからかもしれないですけど、お互い我慢したり許したりできるからだと思います。

──平子さんとケンカしますか?

酒井 あれですよね、2018年の『Mー1』の3回戦、平子さんが急にネタ合わせしてたのと違うネタをやるっていう、あれが唯一かな。ただそのときも言い合ったりしたかって言ったらそれはなかったんですね。やっぱ距離感みたいなのもありますよ、ケンカしないとか、長くやれてるっていうのは。

──それは酒井さん自身が気をつけてる。川崎のヤンキーとの距離感で学んだ距離感。

酒井 一緒だと思います(笑)。程よい距離感取るのは僕うまい。

「天才」のままだったら「お笑い辞めて、川崎で就職してる」


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西澤千央

(にしざわ・ちひろ)1976年生まれ。神奈川県出身。実家の飲み屋手伝い→ライター。『クイック・ジャパン』(太田出版)や『文春オンライン』、『GINZA』(マガジンハウス)などで執筆。ベイスターズとねこと酒が好き。

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