脚本家・渡辺あやインタビュー(1) 地元・島根を訪ね、『ここぼく』『逆光』の背景を聞く

2021.7.24

「“渡辺あや、鬼”みたいなことを言っていて」

木越明さんのお父様のCDをBGMに

──確かに『逆光』は湿度を感じる映画でした。須藤さん演じる晃が氷枕を持って階段をひたひたと歩いていく剥き出しの足が妙に艶めかしくて。

渡辺 蓮君、足元を何回も撮るんですよ。吉岡役の中崎敏が風呂上がりに廊下から階段を歩くカットは何度も何度もテイクを重ねていました。しかもペタリペタリという足音を出すために廊下を濡らしたりしているんですって。

──いろんな作品を見て勉強して自分なりにうまく取り入れて作っていますよね。

渡辺 予想以上にちゃんとしたものに仕上げてきたのでびっくりしました。『ワンダーウォール』で知り合った蓮君は若くエネルギーがあり余っていて、何かやりたいから書いてくださいとしきりに言うので、若者のそれだけの意欲に答えるのが大人の役目だろうし、失敗してもいいと思って関わっていたものの、あんなにちゃんとしたものを作ってくるとは思ってなかったです。

──脚本がいいから掻き立てられるんじゃないでしょうか。

渡辺 試写会に、朝ドラ『カーネーション』でAPをやっていて、今はNHKのプロデューサーになった若い女性が「あやさんの脚本では感じながら、これまで一度も映像に具現化されていない、ある種の艶っぽさみたいなものを今回初めて見た気がしました」と言ってくれたんですよ。ああ、そうか、そうかもなあって思って。

──『カーネーション』だと周防(綾野剛)と糸子(尾野真千子)の関係は艶めかしかったですが、朝ドラだと限度がありますものね。

渡辺 朝ドラだと、ディレクターが超ベテランから新人まで7人くらいが持ち回りで撮るので、脚本の行間を大事にする淡いものはやれないんです。監督の演出手腕にかけるよりは、誰が撮っても書きたいことが伝わるように、起承転結とキャラクターのメリハリをつけます。

『逆光』では須藤蓮君は起承転結がはっきりしたものではなく、間(あわい)にあるものというか、佇まいや空気を読み取る力が強いと感じました。それを表現できるかはさておき、ちゃんと表現として受け取ることができる人だなという信頼があったのでそういうものを投げようと思ったんです。『逆光』の全体的な湿り気とかはその人にそういう感受性がないと脚本からも読み取れないし、そうしたらその先の表現も起こってこないのだと思うんですよね。

脚本を読んだ小川真司プロデューサーが「渡辺あやはひどいね。これを初監督の24歳の若さの監督に渡すって。渡辺あや、鬼」みたいなことを言っていたほど、脚本としては難度の高いものだったんですよ。

『カーネーション』
2011年度後期連続テレビ小説『カーネーション』は、ファッションデザイナー・コシノ三姉妹の母親をモデルにして岸和田で生まれ育った主人公・糸子(尾野真千子)の人生を描く。夫が亡くなったあと知り合った周防(綾野剛)に妻子あるにもかかわらず心を寄せていくエピソードを絶賛する人もいれば不倫を許せない人もいた。

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  • 『逆光』

    『逆光』

    企画:渡辺あや、須藤蓮
    脚本:渡辺あや
    監督:須藤蓮
    音楽:大友良英
    出演:須藤蓮、中崎敏、富山えり子、木越明、SO-RI、三村和敬、衣緒菜、河本清順、松寺千恵美、吉田寮有志

    2021年7月17日(土)よりシネマ尾道、7月22日(木)から横川シネマにて公開。以後、順次公開予定。

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