脚本家・渡辺あやの参加意識「巨人軍のコーチみたいなもの」 インタビュー(2)

2021.7.25
脚本家・渡辺あやインタビュー

文=木俣 冬 撮影=石垣星児 編集=田島太陽


自主映画『逆光』に企画と脚本で参加している渡辺あやさんに、彼女の地元・島根で行ったインタビュー。2本目(全6回)は、脚本家でありながら撮影現場にも通い、時には出演もし、SNSなどで広報も担い、メイキング撮影を担当したこともある彼女に、「作品への参加意識」について聞いた。

(1) 地元・島根を訪ね、『ここぼく』『逆光』の背景を聞く
(2)参加意識は「巨人軍のコーチみたいなもの」
(3)自分たちでお金を出し「企画会議を通る要素がひとつもない」映画を作る
(4)「成績優秀な人たちが、小学生が見てもおかしい事態を引き起こすのはなぜなのか?」
(5)煙草と人間のエネルギーについて「ちょっとくらい体に悪いこともやっていないと」
(6)「私にとって脚本は、ある程度の余白みたいなもの」

渡辺あやは巨人軍のコーチのようなもの

──『逆光』に渡辺さん、出ていましたよね。

渡辺 出てました(笑)。『ワンダーウォール』のプロデューサーの寺岡環さんと冷め切った夫婦という設定で喫茶店に座っています。あの場面には音楽の大友良英さんも出ていて、若者をおじさんとおばさんが挟んでいます(笑)。

──『ワンダーウォール』のときも渡辺さん、出ていましたよね。演奏シーンに。出ることは楽しいですか。

渡辺 若者たちほど純粋に楽しめてはいないです。どちらかというと責任感や一緒に盛り上げようという気持ちで、気恥ずかしさや気後れ感もありつつ、それを見せずに参加しています。

──企画者でもある『逆光』では撮影中、ずっと立ち会っていましたか。

渡辺 はい。人手は足りないので。NHKのドラマや商業映画だったらお客さんとして見学に行けますが、今回は1スタッフとして参加していて、制作部のようにお菓子を買いに行ったり、手土産を持って関係各所に挨拶回りしたりしました。

──『天然コケッコー』のときはメイキングカメラを回していたそうですね。

渡辺 メイキングという役割でないとたぶん、現場に入れてもらえなかったので。「やらせてください」とお願いしました。最初から最後までいようと思うと、脚本家という立場的には難しいわけですよ。監督はむしろ、脚本家にはいてほしくないじゃないですか。役者さんの気持ちがそっちに逸れてしまう可能性があるし、言ってしまえば邪魔な存在です、現場には。それでもいるための口実でした(笑)。

──渡辺さんは『ワンダーウォール』では近衛寮広報室という名で広報活動をしたり、自主映画『逆光』を作ったり、撮影現場にずっといたり、参加意識の高い方ですよね。脚本家の方でそういう人を私はあまり知りません。

渡辺 そうなんですよね。たとえば、巨人軍のコーチみたいなものなんですよ。そう言うとみなさん、納得してくださいます(笑)。巨人軍のコーチが練習だけ付き合って、あとは家でオンエアを観て気がすむかっていったら、たぶんすまないですよね(笑)。やっぱり、監督と同じく、現場に行って選手を見ないとわからないことがあるでしょう。そういうコーチみたいな意識に近い。

あと、単純に参加することがおもしろいんですよね。監督に任せているとはいえ、脚本を書いた以上、自分のものだから。たぶん、頼まれ仕事だとつらいかもしれないですね。メイキングの仕事は依頼されてやっていたら骨の折れる仕事ですよね。本編を撮っている隙間を塗って撮影するから、ギスギスすることもあるでしょうし。

──ほかにも現場に長期間で入られたことはありますか。

渡辺 『ジョゼと虎と魚たち』も最初から最後までいました。私のデビュー作だったので、いさせてくださいとお願いしました。東京のウィークリーマンションみたいなところを当然自腹で借りて毎日現場に通っていました。

渡辺さんのお父様が彫った仏像

──朝イチからずっと?

渡辺 現場と同じに朝早くから。現場の皆さんと同じ早い時間に来て、遅い時間までいる。それは居心地よくいられるためでもありました。

──脚本家の方は現場にほどよい時間に差し入れ持ってきて数時間、見学して帰るというイメージで。

渡辺 『カーネーション』のときなんかは脚本執筆と撮影が並行していますから「おまえ早く帰って書け」みたいな感じでしたけど(笑)。

──連ドラは現場で俳優の芝居などを見て、今後の展開にフィードバックできるといいますね。

渡辺 そうなんですよ。

──現場で時にはこうしてほしいと言うのでしょうか。

渡辺 ごくたまに、ここはどうなんだろうと思ったときは意見を述べますが、あんまり言うと、監督がぴりっとなっちゃうから言わないようにしています。監督と年齢が近いとパワーバランスが微妙な感じになってやりとりが難しいときがありますよね。その点『逆光』では蓮君と私のキャリアの差がかなりあったので、私は顧問みたいな感じであるという位置づけで、互いの役割分担ができて楽でした。

なんといっても蓮君は初監督なので、気づけてないところも当然あるだろうし、現場の人数が圧倒的に少ないので注意したほうがいいこともあるだろうと思って、そこはたまに助言しましたけれど、基本的には現場がよく見えている人なので心配なかったです。主演も兼ねていたから、自分の演技をタブレットで確認しながらやっていて。そんなときでも現場の端々まで目が届いていることに感心しました。

──今回はまた、広報部門もやっているようで、須藤さんの取材のとき「写真を撮っておいて」と指令を出していらっしゃいました。(石垣カメラマンが須藤さんを撮影中の写真はこちら)

渡辺 基本、インスタは私が更新しています。

──『カーネーション』のとき、いち早く作り手としてSNSで発信していましたよね。

渡辺 主演俳優が尾野真千子さんから夏木マリさんに変わった理由が憶測で語られていたので、正しく伝えたかったんです。ツイッターのやり方がわからないけれどどうしても反論したかったので、娘にアカウントを立ち上げてもらって、書きたいことを書いたら、あとは放置してしまいました。

──宣伝のために予定調和で立ち上げたのではない生々しさがよかったです。

渡辺 本来、1ツイートに3時間くらいかけるほど悩んでしまうのでやらないですが、どうしてもやらないとならないときにはやります。『ワンダーウォール』や『逆光』のように人手がないときには。

渡辺あや
映画『ジョゼと虎と魚たち』(2003年)で脚本家デビューし注目され『メゾン・ド・ヒミコ』(2005年)、『天然コケッコー』(2007年)など優れた脚本を次々書く。『火の魚』(2009年)、『その街のこども』(2010年)でテレビドラマの脚本を書き、2011年、朝ドラこと連続テレビ小説『カーネーション』でそれまで朝ドラを観ていない層にも朝ドラを注目させた。近年は『ワンダーウォール』(2019年)、『今ここにある危機とぼくの好感度について』(2020年)などが高い評価を得ている。寡作ながら優れた作品を生み出すことに定評がある。

映画『逆光』
コロナ禍、脚本:渡辺あや、監督、主演:須藤蓮が互いの持続化給付金を持ち寄って作った自主制作映画。舞台は70年代の尾道、三島由紀夫にかぶれている青年・晃(須藤蓮)が故郷・尾道に好きな先輩・吉岡(中崎敏)を連れて帰郷してくる。先輩に向けられた湿度を伴った晃の眼差しが物語を牽引する。尾道と島根で10日間のロケを行った。


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  • 『逆光』

    『逆光』

    企画:渡辺あや、須藤蓮
    脚本:渡辺あや
    監督:須藤蓮
    音楽:大友良英
    出演:須藤蓮、中崎敏、富山えり子、木越明、SO-RI、三村和敬、衣緒菜、河本清順、松寺千恵美、吉田寮有志

    2021年7月17日(土)よりシネマ尾道、7月22日(木)から横川シネマにて公開。以後、順次公開予定。

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