ドラマ『今ここにある危機とぼくの好感度について』から考える“今の日本”が抱える問題

2021.5.12

文=TVOD 編集=森田真規


2020年1月、20年代の始まりに『ポスト・サブカル焼け跡派』という書籍を上梓した1984年生まれのふたり組のテキストユニット、TVOD。同ユニットのパンス氏とコメカ氏のふたりが、前月に話題になった出来事を振り返る時事対談連載の第6回をお届けします。

今回は、現在NHKで放送中の主演・松坂桃李、脚本・渡辺あやのドラマ『今ここにある危機とぼくの好感度について』から、権力と「好感度」、風刺、ポピュリズム、「強烈な違和感」などについて考えていきます。


“何を”語ろうとしているのか

パンス 緊急事態宣言も延長というなか、TVOD時事連載です。NHKで今放送されてる『今ここにある危機とぼくの好感度について』というテレビドラマをコメカ君に薦められ、僕も観てみたよ。今回はまず、それを切り口に話していこうかなと。まだ完結はしてませんが、現状、率直にどうでしたか?

コメカ 全5話のうち第3話までが放送されたところだけど、このドラマが伝えようとしているメッセージについては自分も同意見であるところが多いし、それを今のNHKで制作していることも本当にすごいと思う。
ただ違和感も正直いろいろあって。たとえば、タイトルにある「好感度」というものが、大衆側からの欲望として機能する側面についての視座に欠けている気がするんだよ。この国では、意味をきちんと提示することを避けていれば炎上することもなく嫌われない、好感度を維持することができる。だから無意味な言葉だけを提示することが「日本における正しいリスクマネジメント」になってしまっている、という描写があって、その批判自体は確かに正しい。

コメカ ただ、「好感度」というものが持つ恐ろしさとは、それが大衆からのボトムアップ的な動力として機能するところにこそあると個人的には思っていて。空洞化した言葉が提示されることで大衆が受動的にそれに騙され、権力の「好感度」が維持されることよりむしろ、空洞化した言葉を繰り出す権力に対して大衆が能動的に熱狂し、「好感度」が過熱することにこそ危うさがあると思うのね。
個人を入れ替え可能な存在として使い捨てるような残酷なシステムは、現代においてはむしろ大衆側から積極的に欲望されるものとしてあるんじゃないか、と。管理社会の「快適さ」は、多くの人にとって魅力的に映るわけでね。この作品では抑圧システムが「あらかじめ存在しているもの」として描かれている側面が強くて、抑圧される側がむしろ積極的にそれを支持することでこそ成立するようなシステムへの視座は、薄い感じがしている。

パンス ふむふむ、なるほどね。今の話を聞いて、コメカ君の分析自体が興味深いと思ったね。このドラマのストーリーの中にはパッと観ただけでも、大学改革、日本学術会議の問題、あいちトリエンナーレの問題などが想起されるような要素が入っている。当然、観る側はそれらの問題に一石を投じるであろうドラマとして受け止めるわけだ。で、指摘しておきたいのは、このドラマは「風刺」として作られているという点。風刺とかブラックユーモアといったアプローチって、わりと現状の、特にインターネットで繰り広げられる議論にはあまり見られない傾向で、個人的には、そこが展開されているのに少し新鮮さを感じた。
風刺とは何か。自分なりに定義すると、権力の愚かさに加え、人間の愚かさも含めた「全体性」をどう描くかということ。このドラマの主人公は「好感度」に執着して右往左往しているし、権威的なシステム(大学のトップ)も右往左往している。そのどうしようもなさの全体をおかしみにつなげているという点において、このドラマは風刺たり得ている、と僕は思う。
しかし、先ほど述べたとおり、観る側の問題というのがあって、現実の社会問題に近づけることで発生する反応として、「メッセージが欲しい」となってしまうのが昨今の傾向なのかなと。このドラマに関しては、今後そういった側面が出てくるんじゃないかなと思うけど、風刺が風刺であるだけでは物語として不十分であるという判定になってしまうとすれば、僕はそのようなロジック自体が気になってしまうんだよね。

コメカ 「全体」を(ユーモアを込めて)対象化して写し取ることで初めて見えてくるものはある、とは思う。ただ、辞書的な意味では風刺とは「社会や人物の欠点・罪悪を遠回しに批判すること。また、その批判を嘲笑的に表現すること」(『デジタル大辞泉』小学館)ではあるわけだから、「批判する」という行為は具体的には、語り手自身が「メッセージを発する」ことに、どうしてもなってしまうと思うのよ。
僕は「全体性」を描き想像する試みももちろん重要だと思うけど、やはり「語り手が社会に対して何を語ろうとしているのか」という点は見ておきたいと思っている。物語表現というものの可能性がそういう点にのみあるとはもちろん思っていないけどね。

なあなあな判断の集積が招く混乱

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コメカ(早春書店)とパンスによるテキストユニット。サブカルチャーや社会についての批評活動を、さまざまなメディアで展開中。2020年1月に発売したTVODとしての単著『ポスト・サブカル 焼け跡派』(百万年書房)では、70年代以降のさまざまなミュージシャンやアーティストを、「キャラクター」としての角度か..

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