「男らしさ、女らしさ」の鎖から解放されること。こだま×寺地はるな、歩みが似通ったふたりの書き物の話

2021.5.19

書いている間は、主人公に頭の半分を貸している感覚

寺地 こだまさんの新作も素晴らしかったです。好きなところに付箋を貼っていったら、全ページに貼りそうになってしまって……(笑)

こだま わあー、うれしいです。

寺地 エッセイですけど小説を読んでいるようでした。しみじみと、美しい風景が描かれていて。個人的な好みですけれど、こだまさんの文章は最後の一行が特にいいですよね。特に好きなのは、「祖母の桜」という章。

こだま 入院の話ではあるんですけれど、本人そのものが遠くに行ってしまったことを「旅」にカウントして書いてしまいました。

寺地 どれくらいのペースで書かれたんですか?

こだま 月に一度のウェブ連載だったので、2000字を1カ月かけてゆっくり書きました。私はペースが遅いんです。

寺地 エッセイを書いたことがほとんどなくて、小説でいうところの「プロット」(物語の構成)のようなものは書かれるんですか?

こだま 私はちゃんと練って書かないんです。おもしろいことがあったら、そこ目がけて書き足していきます。なので、着地がどうなるのかはわからない。小説ですと、綿密に構成を組み立てて書かれるものですか?

寺地 ……私もあんまり考えてないです(笑)。

こだま そうですか!

『縁もゆかりもあったのだ』より

寺地 一応、企画を会社に通すために大まかなプロットを書いて編集者さんにお渡ししますが、書きながら話がずれていくことは大いにありますね。最後の場面だけぼんやり浮かんでいたり、途中途中で絶対に入れたいシーンが浮かんでいたりするので、そこを手がかりに書きます。

こだま 寺地さんは作品を書かれるスピードが早いですよね。その術を伝授いただきたいと思っていて。

寺地 書いている間は、物語の登場人物が頭の中に住んでいて、頭を半分貸している感覚なんです。その状態で日常生活を送っていると、常に「この人だったらどう考えるのかな」っていうのを意識しながら生活するんですよね。その、頭を半分他人に貸しているというのは、とても気持ちが悪いことでして(笑)。早く終わらせたい気持ちが強いので、毎日原稿用紙10枚分を書く、というルールを決めて書いていました。明らかにおもしろくなくても、毎日一定の量を書く。でも今はそういうやり方を辞めたので、また試行錯誤中です。

こだま すごいです……継続して書くことが私はできなくて、1カ月で0文字ということが平気であります。

寺地 でも、こだまさんも『縁もゆかりもあったのだ』で4冊目ですよね?

こだま 連載、という責任があると書けるんです。小説にも現在取り組んでいますが、書いては消してを繰り返していて。でも、頭の半分を登場人物に貸す感覚はわかるので、そういう目で世界を見てみようかなと思います。

寺地 こだまさんは視点がいいですよね。台湾に家族で旅行された際の「祈りを飛ばす人、回収する人」という章で、ランタンを飛ばすところで物語を終わらせることもできるのに、そのランタンの残骸を拾い集める人のことまで書かれていて。その光景の対比がすごく素敵だなと思いました。この結末があるから、かえって忘れられない美しさになるというか。

こだま ただ無邪気な観光客だけで終わらずに、片づけをしてくれる存在のほうが心にぐっと残ったんです。

記憶力がいい人の記憶の仕方

寺地 『監獄のある街で』という章で、網走刑務所に行かれた際の昔と今の対比も素晴らしいと思いました。同じ光景を何年越しかに見たときに、まったく違う印象を受ける感じ。付箋には「勉強になる」とメモしてあります(笑)。

こだま うれしいです。全体的に、一回行った場所にもう一度行ってみる話が多いんです。異なる目線で街を歩くと、全然違う風景として映るんだなと思いました。

寺地 だからか、近場の旅でも、ものすごく遠くに連れて行ってもらったような読み心地がありました。それはきっと、こだまさんの心の部分が大きく変化されているからなんでしょうね。あと、昔のことをよく覚えていらっしゃいますよね。

こだま 当時ブログに書いていたので、割と記憶に残っていて。ブログに書いていなかったら、思い出せなかったかもしれないです。

寺地 なるほど。記憶力がいい人って、どんなふうに記憶されているんだろうなと思っていて。映像のように記憶されますか?

こだま 私は昔から写真が好きで、一眼レフで色々撮っているんですね。その写真を何度も見るたびに思い出していたことが記憶になり、頭の中で文章として残っているのかもしれません。寺地さんはどんなふうに記憶されますか?

寺地 私は、印象深い出来事は映像として記憶するタイプです。しかも、長回しじゃなくて数秒の短い動画が連なるように。宴会のシーンは、音声付きで記憶に残っています。仕事で取引先の忘年会に呼ばれたんですけど、運転手で飲めなかったんですね。でも、いくら説明しても「飲め、飲め」と煽られる。帰りに運転していたら、取引先の社長から「あんたもっと、愛想ようせないかんばい」と言われつづけて。自分が運転している感じと、うしろからずっと社長に声をかけられた記憶をよみがえらせながら書きました。

『縁もゆかりもあったのだ』より

こだま 「肘差村」という村の設定も、ご自身の経験ですか? すごく親しい場所のように思いましたし、村で言い伝えられている「くる節」なんて、現実に存在しそうだなと思いました。

寺地 肘とくるぶし、という連想ゲームみたいな名前ですよね(笑)。

こだま 深刻なテーマを持っていつつも、ユーモアがいっぱい差し込まれているのが寺地さんの文章の魅力ですよね。

寺地 こだまさんは、淡々とおもしろいことを書かれますよね。「このへんで入れとくか」みたいな計算をまったく感じません。

こだま 私も深刻なことばかり続くよりも、どこかふざけたり、すごく冷静だったり、いろんな物語が入っているほうが好きなので、意識して気をそらすような書き方をしているかもしれません。

寺地 距離感の取り方もおもしろくて。普段は人見知り風なのに見知らぬ人にすごく親しくされたりするじゃないですか。お互いのことをよく知らなくても、敬意を持って接していれば楽しい時間を過ごすことはできる。それ以上の関係にならないことは寂しいことではなくて、適度な関係が広く持てる楽しみが、こだまさんの本にはたくさんありました。

こだま ありがとうございます。今日はお話できてうれしかったです。

寺地 こちらこそです。私とこだまさんは、デビューの時期が近いんですよね。しかも、私もデビュー前にブログを書いていたんです。2017年に『大人は泣かないと思っていた』を書いていたとき、こだまさんのデビュー作を担当編集さんと褒め合った印象がありまして。だから、こんなふうにご縁をいただけてありがたい限りです。

──おふたり共田舎出身で、インターネットで世界が広がっていって、ブログを書いて、物書きになられて、作品で繋がる。不思議なご縁ですね。

こだま 書きつづけていくと、こうやって実を結んでいくんだなと思いました。本当にありがとうございました。


こだま
エッセイスト。実話を元にした私小説『夫のちんぽが入らない』(扶桑社)でデビュー。二作目のエッセイ『ここは、おしまいの地』(太田出版)で第34回講談社エッセイ賞を受賞。『クイック・ジャパン』で「Orphans」を連載中。

寺地はるな
(てらち・はるな)小説家。1977年佐賀県生まれ。作家デビュー前からはてなブログで『悩みは特にありません』をスタート。2014年『ビオレタ』で第4回ポプラ社小説新人賞を受賞しデビュー。主な著作に『水を縫う』(集英社)、『夜が暗いとは限らない』(ポプラ社)など。最新作に『声の在りか』(KADOKAWA)、『雨夜の星たち』(徳間書店)の刊行が控えている。


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