「男らしさ、女らしさ」の鎖から解放されること。こだま×寺地はるな、歩みが似通ったふたりの書き物の話

2021.5.19

文=羽佐田瑶子 編集=続木順平


4月下旬に2冊の本が発売された。思い出の場所などを巡る旅の記録を綴ったこだまのエッセイ『縁もゆかりもあったのだ』(太田出版)と、恋愛や結婚、「あるべき」形に傷つけられてきた大人たちを描いた寺地はるなの小説『大人は泣かないと思っていた』(集英社文庫)。本作の文庫化にあたり、こだまは初めて解説を書き下ろした。

長く田舎に暮らし、インターネットとの出会いをきっかけに世界が広がり、ブログを経て物書きになる。人生の歩みが似通ったふたりの、不思議な縁を感じる対談となった。


こだまと寺地はるなに共通する“田舎”と“インターネット”

『大人は泣かないと思っていた』(寺地はるな/集英社文庫)

──『大人は泣かないと思っていた』の解説をこだまさんに依頼されたきっかけは?

寺地 田舎を舞台にした人間関係の話なので、似たような場所で育っているこだまさんでしたら近いものを感じてもらえるだろうし、どういうふうに読んでいただけるのか興味がありました。でも、それは建前で、単純にこだまさんのファンなのでこれをきっかけに近づきたいという、よこしまな気持ちが(笑)。

こだま ありがとうございます。これまで、解説の執筆を依頼されても「私には不相応だ」と思って引き受けられなかったのですが、寺地さんの書かれる作品には自分自身との共通点をたくさん感じています。『水を縫う』にも通じる「男らしさ」「女らしさ」というテーマや、舞台がまさに私が見てきた田舎の姿そのもので。佐賀県の田舎町で育たれた寺地さんも、同じような景色を見てこられたんだなと勝手にシンパシーを抱きました。

寺地 県内でも少数の「村」に住んでいたので、私とこだまさんの田舎感は似ているのだと思います。

こだま 宴会のシーンが特にリアルでした。自分の幼いころのビデオを観ているような気持ちに。

寺地 あれは実録ですね。男の人は座敷から動かずずっと飲んでいるだけで、女の人が台所を行ったり来たりしている様子は、音や会話も含めて未だにはっきり覚えています。

こだま 私も葬儀のあとなど、近所や親戚が集まる大きな会で男女の差を強く感じる場面に遭遇していました。今は田舎から離れて無縁のように思っていたのですが、久しぶりに実家に帰ると、その役割が顕著に残っているんです。

『縁もゆかりもあったのだ』(こだま/太田出版)

寺地 あと、田舎同士で「この市よりはマシ」みたいな、小さな比べ合いがありませんか? それが一番しんどかったですね。住んでいる村の単位で比較して、お互いを意識しながら生きていく感覚がつらかったです。

こだま わかります。日本全体で見れば小さな市なのに、その中で序列を作りたがるんですよね。でも、いざ都会のものを目の前にするとすごくへりくだってしまうという。

寺地 そう、そう(笑)。卑屈になるんですよね。

こだま あと、噂話が廃れていかない感じもリアルでした。娯楽として、暇つぶしとして消費されるけれど、ずっと語り継がれていく。そういう窮屈さを感じながらも田舎に居続ける主人公と、そこから出て行ってやりたいことを見つける母親との対比が胸にきて。でも、寺地さんの視点は「フェア」ですよね。誰かを持ち上げることも田舎を攻め立てることもせず、その人自身を否定しない。寺地さんの書き方の好きなところです。

寺地 うれしいです。どうしたって自分の考えや思っていることは小説に出てしまうのですが、押しつけにならないように気をつけています。私はこう思うけれど、あなたがどう思うかはあなた自身が決めてねって。

「こうあらねばならない」に初めて疑問を持った瞬間

──小説の中で、「男らしさ」「女らしさ」に疑問をもった登場人物たちが、声を上げるシーンがあります。普段はそれぞれの意思を尊重する彼らが、相手の言動を正そうと声を出してくれることに救われる気持ちになりました。田舎で過ごされていたときに、同じような境遇になったことはありますか?

寺地 なかなか、疑問はあっても声は出せなかったですね。声を出すって、田舎ではすごく面倒だし勇気がいることなんです。だから、自分の理想として書いたのだと思います。

こだま 私は田舎の雰囲気に流されたまま生きてきたところがあるので、「男らしさ」「女らしさ」に疑問さえ持っていなかったです。だから、声を上げる人がいたらびっくりしたと思うし、そこで初めて「これは変なんだ」と気がつけたかもしれない。環境が狭いほど目の前の日常を受け止め過ぎて、自分の考えを持てずにいるのかもしれません。

寺地 その場に順応できて、それがしんどくなければ自分自身が変わる必要もないですしね。私は32歳まで田舎に住んでいたのですが、モヤっとすることがあっても、しょうがないと受け止めていたんです。でも、大人になってインターネットに出会ったことで「あれ、やっぱりおかしかったのかも?」と気がつけたんです。

こだま まったく同じです!(笑) インターネットで、いろんな価値観や意見に触れたことで、一気に世界が広がりました。私はずっと、何も考えずに生きてきたんだなと。それで、自分のやりたいことを見つけて外の世界に出ていくお母さんの姿が自分と重なりました。

寺地 狭い田舎で共通の価値観や新しい考えに出会うには、インターネットしかなかったですよね。

こだま 寺地さんはインターネットでどんなものを読まれていましたか?

寺地 昔から本を読むのが好きだったんですけど、情報交換できる相手がいないので、勘で本を選んでいたんですね。でも、ブログで本の感想を読むようになってから、読みたい本の対象が広がっていきました。だから、今でもみんなが疑問に思っていることや、怒っているトピックが気になります。

『縁もゆかりもあったのだ』には、こだまさんが撮影した旅先の写真も掲載されている

──最近気になったトピックはありますか?

寺地 コラムニストの伊是名夏子さんがブログに書かれていた、JRで乗車拒否をされた件ですね。日本がバリアフリー対応に遅れをとっていることは何年も前から問題視されているのに、昔と変わらない反論や批判が飛び交うものなんだなと思いました。「ずるい」ことが耐えられない人種なのかもしれない。

こだま 議論が一向に変わらないことってありますよね。解説を書いている時にちょうど、元東京五輪組織委員・森会長の女性蔑視とみられる発言が問題になり、物語の登場人物と重なる部分があるなと思いました。また、ネット上で性差別が話題になると、根底では同じ苦しみを味わう同士なのに「女性」「男性」で対立してしまうことに違和感があります。

寺地 フェミニズムにまつわる言葉を聞くと拒絶反応を示す男性が多いですけど、決して男性を怒る思想ではないですよね。「男女両方を解放していく」ことが同時に進む考え方だと思います。

たとえば「男らしい」という表現は褒め言葉だとは思えないんですよ。「男のくせに酒も飲めないなんて!」という発言がごく当たり前に交わされていますけど、アルコールは体質だから性別は関係ないはず。「らしさ」に縛られて苦しんでいる人たちがもっと楽になったらいいのに、どうしたらいいのだろうかと考えて書いているかもしれません。

こだま 性別に縛られる感じは、よくわかります。田舎で農業が盛んな地域で育ったので、男性のほうが可哀想だなってずっと思っていたんです。男に生まれただけで、跡継ぎだと期待されて自分の夢は最初から持てない。不自由でつらそうだなって。でも、大人になるにつれて女性は女性で、働き手として期待されていないような空気が地元にありました。だから、寺地さんの小説を拝読していると「こうあらねばならない」という鎖から解放されるような気持ちになって、すごく素敵でした。

書いている間は、主人公に頭の半分を貸している感覚


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羽佐田瑶子

(はさだ・ようこ)1987年生まれ、執筆・編集。女性アイドルや映画などガールズカルチャーを中心に、インタビュー、コラムを執筆。主な媒体は『クイック・ジャパン』『She is』『BRUTUS』『TV Bros.』『CINRA』など。岡崎京子と女性アイドルなど、ロマンティックで力強いカルチャーや人が好き..

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