こだま『縁もゆかりもあったのだ』刊行記念インタビュー“忘れられない特別な「旅」について”

2021.4.23
『縁もゆかりもあったのだ』刊行記念インタビュー

文・編集=続木順平


4月23日(金)に発売となった、こだまの最新刊『縁もゆかりもあったのだ』(太田出版)。主婦、エッセイストとして第4作目の今作は、初の紀行エッセイ。京都、ハワイ、夕張など旅行を楽しむ内容がある一方で、病院、猫との旧家めぐり、学生時代に行ったうどん屋など、いかにもな目線で繰り広げる道中記も多数登場する。

いわく、思い出の場所をめぐるのもまた旅、とのこと。引っ越し直後となるタイミングで今作への思いについて伺った。


知らない土地での思い出を掘り起こしていくエッセイ集

『縁もゆかりもあったのだ』(こだま/太田出版)

──こだまさん、こんな状況でのインタビューとなり申し訳ございません。引っ越しのタイミングと重なっておりますが、荷解きは終わりましたでしょうか。

こだま まったく終わってません。引っ越しのストレスで帯状疱疹になってしまい、足がパンパンに腫れ、出掛けるときはずっと長靴です。ほかの靴が入らない。悲惨です。その上、通販サイトまで不具合とは。今回も悪いものを引き寄せていますね。

──新居の具合はいかがでしょう。

こだま 玄関のつくりがちょっと変わっていて、我が家のドアの前にだけ落ち葉が溜まる構造らしいです。どんなに掃いても毎朝積もってます。

──また新たなお話が生まれそうですね。ではいよいよ完成間近の新刊について伺います。今作のテーマは「旅」でしょうか。

こだま 旅先での話を書きましたが、グルメや名所はまったく期待しないでほしいです。舞台がいつもと違うけれど、描いているのは変わらず「人」ですね。一篇だけ猫が中心ですが。知らない土地で「そういえば昔こんなことがあったな」と思い出を掘り起こしていくエッセイ集です。旅をしているのに、自分の内側にばかり入っていく。ちょっと損な性格かもしれません。でも、そうやって旅先と自分とのつながりを見つけてきました。

本作ではこだまさんが撮影した旅先の写真も掲載。旅行気分を味わえる

──つながりもまた旅ですね。内容が幅広いので順番に伺いたいのですが、まずはご家族。結構旅行されているんですよね。しかも海外まで。動かないこだまさんの印象があるので新鮮です。

こだま 両親はずっと節約して暮らしていたんですけど、60歳を過ぎたころからいろんなことがどうでもよくなったらしく旅に出るようになりました。私も病気で仕事を辞めて引きこもっていたので、時間のあり余る無職3人で出掛ける機会が増えたんです。久しぶりに親と何日も過ごすと「まだ飽きずに夫婦喧嘩してるんだな」とか「台湾まで来てるのにNHKにチャンネル合わせてラジオ体操やってる」と素朴な発見がいくつもありました。

──そして旦那さんともよく旅行しています。個人的には刑務所上がりのおじさんがツボでしたが、いつもハプニングがあります。

こだま 大抵何かが起きます。いきなり出所したての男性から使い古しの部屋着を「お土産」として押し付けられました。拒否したらどこかへ連行されるんじゃないかと思って、ふたりで喜ぶ演技をしました。その一件が強烈で、肝心の旅をあまり思い出せないんです。あとは間違えて男湯にのんびり浸かっていて大変なことになったり。

──旅のスタイルですが、ロンドンでパンをあげるだけだとか、こだまさんもご家族も旦那さんも、いつも無理していない気がします。全員の性格なのでしょうか。

こだま そうですね、派手なことが向いてない。せっかく新婚旅行でヨーロッパまで行ったのに、近所の公園と変わらぬ過ごし方をしてしまう。父は旅に出ても特別なことをしようせず、ホテルでテレビを観るのが好きでした。どうでもいい部分を受け継いでしまいました。

忘れられない特別な「旅」

──笑える内容の旅が多い一方で、記憶や体験をめぐる旅はやはり感傷的です。学生時代のうどん屋へ行く話、昨年亡くなった猫のお話。

こだま 初めての場所も楽しいけれど、最近は思い出の地をめぐることが多いです。思い入れのあるうどん屋さんがコロナ禍で無事に営業されているか気がかりで足を運びました。夫と知り合ったばかりのころに連れて行ってもらったお店でした。当時と同じものを注文し、勇気を出してお店の人に話しかけてみました。猫は文字通り「旅立つ」話ですね。火葬場へ連れて行く前に、これまで暮らした四軒の家を順にまわって猫に見せてあげようと夫が言ったんです。これも私たちにとって忘れられない特別な「旅」になりました。

──一冊として読みますと、こだまさんってアクティブじゃない? 人生楽しんでない?と率直な感想が出てきました。

こだま 家に籠ることが多いけど、いったん外に出たら急に欲張りになる。もしくは、せっかく行ったのに何もしない。性格がそのまま旅に反映されている。内に籠るか、弾けるか。かなり極端で、自分のことがよくわからなくなります。

──装丁の雰囲気も今回は明るいですしね。

こだま まさに春の本という感じ。とても綺麗です。十年ほど前に京都で撮った穏やかな日常風景を使っていただきました。カバーの下にも不思議な一枚が隠れています。作中にもたくさん写真を取り入れていただき、すごく嬉しいです。

──ありがとうございます。では最後にこだまさんがオススメする旅を挙げて終わりとしたいと思います。

こだま 子供のころに過ごした街、学校、好きだった人の家、取り壊された店の跡地、そんな自分だけの思い入れのある地をめぐるのも、ささやかだけど、特別な旅だと思います。過去に訪れた地が、いまの自分にはどう映るか。そんなことを思いながら歩くのが好きです。 

こだま
こだま(撮影=鈴木渉)
エッセイスト。実話を元にした私小説『夫のちんぽが入らない』(扶桑社)でデビュー。二作目のエッセイ『ここは、おしまいの地』(太田出版)で第34回講談社エッセイ賞を受賞。『クイック・ジャパン』で「Orphans」を連載中。

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