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「怒るの、私は好きですね。『お気に』の感情です」

『私をくいとめて』には、珠玉の瞬間がいくつもあるが、温泉宿でみつ子の怒りが爆発する場面はとりわけエモーショナルだ。怒りという感情は多くの場合、あまり歓迎されない。だが、のんの表現に接すると、人間は「怒ることができる」からこそ、ほかの感情にも血が巡り、連結し、連動し、躍動するのだと気づく。何よりも、みつ子にはみつ子だけの怒りがある、という真実は感動的だ。のんは、怒りというものを、彼女ならではの方法で解釈し、再定義している。
「怒って泣いちゃう、みたいな現象。私もよくあります。普段、そんなに泣くことがなくて、泣くとしたら、悔し泣きとか、怒り泣きとかばっかり。感動して泣くとか、悲しくて泣いたりとかしないんです。だから、みつ子の気持ちはすごくわかりました。怒るの、私は好きですね。『お気に』の感情です」
のんは、その考え方こそが、新しい。
「怒りがお気に入り」なんて、初めて耳にした。偉大な発見だ。

「ポジティブな怒りは、すごく大事にしています。自分の原動力になるんで。スタートを切るときに、ワッと気持ちを盛り上げるときに、役に立つ感情だなと」
のんの怒りは、不機嫌なものではない。次に進むための稀有な感情だ。錆びない怒り。ピカピカの怒り。


のんは、感情というものを大切にしている。だから、ボジティブに用いることができる。「扱う」ことも、「使う」ことも、できるのだ。
「表現する、演技の仕事をしているから、というところはありますね。自分のことでも、あ、こういう感じのときは、こうなっているんだ、とか、ストックしておける。『資料』になっていく。自分でちゃんと認識して、研究するようにはしています」
自分自身もまた、研究対象。

「(自分ではない)知らない人を演じないといけないから、この人と(自分は)どう違うんだろう?と考えるとき、自分のことがわかっていると、擦り合わせることができる。自分のストックの中から、膨らますことができる。敏感に(自分を)察するようにしています」
のんは、リアリストだ。
途方もない理想を実現するために必要なものは、具体の積み重ねにほかならない。彼女は、私たちが想像しているより、遥かに地道な、生粋の表現者なのである。

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映画『私をくいとめて』
2020年12月18日(金)全国ロードショー
監督・脚本:大九明子
原作:綿矢りさ『私をくいとめて』(朝日文庫/朝日新聞出版刊)
出演:のん、林遣都、臼田あさ美、若林拓也、前野朋哉、山田真歩、片桐はいり、橋本愛
配給:日活
(c)2020『私をくいとめて』製作委員会関連リンク
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