『乃木恋デイズ』『あの頃。』の今泉力哉<アイドルを撮る>ことの距離感と興味

2020.12.2
『乃木恋デイズ』『あの頃。』の今泉力哉<アイドルを撮る>こと

文・編集=原 航平 写真=INAZAKI
編集=田島太陽


『愛がなんだ』『アイネクライネナハトムジーク』などで知られる、映画監督・今泉力哉。そのフィルモグラフィーを辿ると、「アイドル」というキーワードが浮かび上がってくる。

中でも乃木坂46との関わりが深く、個人PVと呼ばれる映像作品や、アンダーメンバーによる楽曲「日常」のMVを監督。ほかにも、2016年に公開された『知らない、ふたり』では韓国のアイドルグループ「NU’EST」のメンバーが主要キャストに起用されるなど、今泉監督とアイドルとの関わりは無視することができない。

そんな今泉監督が2021年2月公開予定の『あの頃。』で描くのは、ハロー!プロジェクトのアイドルとそのオタクの姿だ。「アイドルを撮ること」への興味や独自の距離感、乃木坂46と築いてきた濃厚な関係など、「今泉力哉とアイドル」との関わりを存分に話してもらった。


アイドルオタクは“純粋さ”の象徴

今泉力哉(いまいずみ・りきや)1981年生まれ、福島県出身。2010年、『たまの映画』で長編映画監督デビュー。『サッドティー』(2013年)、『知らない、ふたり』(2016年)、『退屈な日々にさようならを』(2016年)、『愛がなんだ』(2019年)、『アイネクライネナハトムジーク』(2019年)、『his』(2020年)などの映画作品の監督を務める一方で、乃木坂46の個人PVなども多数監督。公開待機作に『あの頃。』(2021年2月公開予定)、『街の上で』(2021年春公開予定)など

──2021年2月公開予定の映画『あの頃。』は、松浦亜弥さんやモーニング娘。に熱狂するアイドルオタクたちのある種の青春を描いた作品ですよね。思えば、今泉監督の作品にはしばしばこの「アイドル」という存在がとても重要な形で登場します。

今泉 確かにそうですね。ちょっとずれるかもしれませんが「芸能人」もけっこう出てきますね。新作の『街の上で』にも少し。

──『有村架純の撮休』(WOWOWもそうですよね。

今泉 昔からそこはすごく興味があって、『芸能人』というタイトルの映画を作ろうとしたことがあるくらいなんです。たとえ10万人とか100万人のファンがいても、その人の恋愛が必ずしもうまくいっているわけではない。乃木坂46の個人PV(※)『白石麻衣似の多田敦子』でもそのあたりは言及してるんですけど。芸能人の恋愛というのは関心領域のひとつでしたね。

※「個人PV」とは、乃木坂46全メンバーの一人ひとりに焦点を当てたショートムービーのことで、たびたびシングルCDに収録されてきたもの。起用される新進気鋭の映像監督たちとメンバーが生み出すそれぞれにまったく色の異なる映像作品は、乃木坂特有の映像文化を築き、ファンからも信頼を得てきた。

──今回はとりわけ「アイドル」という存在に絞ってお話を聞きたいのですが、たとえば2013年公開の『サッドティー』では、卒業したあとも10年間一途に推しのアイドルを追いつづける「朝日」という名のオタクが物語を牽引していました。このアイデアはどこから生まれたのでしょうか?

今泉 どこからなんでしょうね。以前に作った『最低』という短編映画に出てくるストーカーの役割とある意味一緒で、オタクの持つ純然たる感情が、二股をするようなキャラクターとの対比になると思って配置してるんじゃないかな。

だいたい自分の映画の主人公は「好き」とか「愛」みたいなものがよくわからない人で、それに対応するかたちでなんの疑いもなく「好き」の感情を持つキャラクターが出てくる。『サッドティー』ではその純粋さの象徴を「朝日」が担っていたんだと思います。

──そういった意味では『あの頃。』のアイドルオタクたちもその延長線上にいる存在なんですかね。

今泉 『あの頃。』に登場するオタクたちの感情は本当に純粋なものですね。「アイドルがいてよかった」「アイドルがいなかったら僕はどうなっていたんだ……」っていう人たちの物語なので。それと、推しとかアイドルの存在に助けられたっていうのと同じくらい「仲間に会えてよかった」ということが大きな意味を持つ原作であり、映画になっていると思います。

今泉力哉とアイドルとの「距離」

近日中にドラマ出演の予定があるとのことで、取材当日の今泉監督は役作りのために髪や髭を最大限に伸ばしていた

──今泉監督ご自身は、これまで特定のアイドルを推したことはないんですよね?

今泉 ないですねえ。乃木坂の個人PVを撮るまでは、アイドルなんてほとんど知らなかったくらいですから。でも覚えてるのが、5年以上前だと思いますけど、ももいろクローバーZのライブに招待という形で行かせてもらって。それが初めて生でアイドルのライブを観る機会だったんですが、すごく衝撃を受けましたね。

アイドルのキレキレのパフォーマンスのすごさはもちろんのこと、ちょっと上のほうにある関係者席から観ていたらサイリウムがめちゃくちゃきれいで感動して。そのときは「なんで俺はここにいるんだろう」って思いました(笑)。絶対、アリーナ席とかあっち側に混ざったほうが楽しいだろうなって。

──しかしそれからどっぷりハマるということはなく……?

今泉 全然ハマれるとは思うんですけど、推しとか作ったことはないですね。

──アイドルやオタクへのその少し遠い距離感は、「ファンダムの世界に閉じていかない」という意味で、乃木坂個人PVなどの特異な作品性に反映されているのかなと感じています。

今泉 距離感は難しいですよね。ある程度距離を取るべきだと思う一方で、自分も映画を観てくれた人とSNSで交流して楽しいと思ったり、感想とか見るとうれしかったりしますし。最近は距離感が掴めなくなってきて、実はSNSの利用を以前より控えめにしてるんですが……。

個人PVを撮った監督仲間の中には、乃木坂オタクでファンとも仲がいい作り手もいて、その距離感で作れるのも純粋にすごいと思いますね。それもかっこいいと思います。

乃木坂個人PVと今泉映画の連関


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原 航平

(はら・こうへい)ライター/編集者。1995年生まれ、兵庫県出身。映画好き。『リアルサウンド』『クイック・ジャパン』『キネマ旬報』『芸人雑誌』『メンズノンノ』などで、映画やドラマ、お笑いの記事を執筆。 縞馬は青い

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