『乃木恋デイズ』『あの頃。』の今泉力哉<アイドルを撮る>ことの距離感と興味

2020.12.2

乃木坂個人PVと今泉映画の連関

──乃木坂個人PVは、基本的に監督が自由に物語を考えられるんですか?

今泉 超自由ですよ。基本的に出したアイデアがそのまま通ります。最初のうちは、脚本を書いたあとにどのメンバーと撮るかが決まってたんですけど、何作か作ってからは信用を得たのか、先にメンバーを教えてもらえるようになって。そうすると当て書きもしやすいので、個人的にはやりやすかったですね。

──どうやってその当て書きなり、物語を考えていったのでしょう。

今泉 全員の個人PVが一気に世に出るとなると、やっぱり評判の良し悪しがわかるじゃないですか。そういうのを勝ち負けだと思っちゃう性格なので、1位を取りたい。いや1位とかないけど、全体の中でもおもしろいほうの作品を作りたいとは思いますよね。

だから1本目の齋藤飛鳥さんのPV(『水色の花』)を撮ったときにツイッターでエゴサして、歌ったり踊ったりしているものの評判がいいことに気づいたので、2本目の『早春の発熱』(衛藤美彩&桜井玲香のペアPV)ではすぐに歌を取り入れたんです。「歌がウケるなら次は入れるよ!」って。人の意見はガンガン取り入れます(笑)。

──12枚目シングルに収録された北野日奈子さん&堀未央奈さんのペアPV『かなしくない I’m not sad』は、ほとんど今泉監督の映画を観ているような感覚を覚えました。

今泉 『サッドティー』とか作ってた時期だったので、そのままタイトルに「sad」が入ってたり、『こっぴどい猫』で扱った生死の話も出てきてますね。失恋するほうが死ぬよりもつらい、みたいな話です。歌への執着もまだあったので、北野さんが少しだけ謎の歌を口ずさんでます。

──「好きな人が 今目の前にいて 好きな人も 僕を好きだと言う だけど今はすでにもう過去だから 今の気持ちはわからないし そしてそれももう過去だ」というフレーズですよね。これはこのために作詞作曲したのですか?

今泉 これは公にしてる話なんですけど、以前に『イロドリヒムラ』(TBS)っていうバナナマン日村さん主演のテレビドラマで脚本を書いたことがあって、その劇中歌で使おうと作った曲の流用なんですよ。2パターン作って、ドラマでは別の曲が採用されて。バナナマンさんなので乃木坂ともつながりがあるしいいかなと(笑)。

──曲の流用が、うまくそのときの物語にハマるというのはなんでなのでしょう……?

今泉 単純にずっと同じことをやってるからですかね。ただ、『かなしくない I’m not sad』はその曲を使う想定で書いた話なので、昔作った曲を強引に入れたというわけではないです。

「ファンじゃない人が観てもおもしろいほうがいい」

──個人PVはシングルを買わないと観られないので、あくまでも乃木坂のファンが楽しむための映像作品ではあると思いますが、物語については「ファン向け」を強く意識することはないのでしょうか?

今泉 より観られるために歌を入れようとか、ファンが楽しめるものを作ろうとかはもちろんありますけど、「乃木坂を撮るからこういうストーリーにしよう」みたいなのはほぼないですね。

そもそも彼女たちのことを深く知らないっていう理由もありますが、小さいアイドルネタをいっぱい入れるとかは、個人的にはおもしろさがあまりわからない。ファンじゃない人が観てもおもしろいほうがいいなと思って作ってます。

──13枚目シングルに収録された堀未央奈さんのPV(『ほりのこもり』)はまた異色な作品でしたね。

今泉 これこそ完全に当て書きですね。実は作品内では一切使用してないのですが、子供と戯れたあと、それだけで作品として成立させられるか不安でインタビューも撮ったんです。そのときに「もしアイドルをしてなかったら何になっていたか」という話題で「保育士」と答えてました。

だから「もうひとつのあり得たかもしれない人生」じゃないですけど、子供とただ触れ合う光景を撮った内容とのリンクに驚きました。ほかの個人PVを散々観ているなかで、今までにないものを作りたい思いもあって、ああいう作品になったんですよね。

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